刹那の愛への誘惑
← チャールズ・ブコウスキー/著『町でいちばんの美女』(青野聰/訳 新潮社) 「酔っぱらうのが私の仕事だった。救いのない日々、私は悲しみの中に溺れながら性愛に耽っていた。倦怠や愚劣さから免れるために。私にとっての生とは、なにものも求めないことなのだ。卑猥で好色で下品な売女どもと酒を飲んでファックする、カリフォルニア1の狂人作家……それが私である。バーで、路地で、競馬場で絡まる淫靡な視線と刹那的な愛。伝説となったカルト作家の名短編集」
検診で血便が指摘され、近く精密検査へ。気が重い。
そこへ、今日、突然、身内の者の訃報が。つい先日、町内会の件で立ち話したばっかりだったのに。
チャールズ・ブコウスキー作の『町でいちばんの美女』を一昨日から読み始めた。前にも書いたが、「町でいちばんの美女」という作品一作の本だと勝手に思い込んでいたが、本書は短編集であり、冒頭の一作だけが表題なのだった。ずっと美女に絡む世界に浸れるかと期待していたのだが。
学歴も素養も仕事にも恵まれていた男。落ちぶれていく、流されていく。場末の酒場のたまたま隣に座ったならず者に殴られる痛みに一瞬のリアルを感じる。酒、女、過酷な肉体労働にリアルを求める。まだ4作しか読んでないのだから、早計とは思うが、何処か欧米版太宰を嗅ぎとってしまう自分。
心の傷みを世間の指弾や蔑み(しかも自らが招いたもの)を受けることである種の精神的浄化(モドキ)に転化せんとするさもしい甘ったれた根性魂胆が主人公だけじゃなく読み手にも透けて見えるようで、ちょっとかったるいものを感じる。今後の短篇の数々が我輩の懸念を払拭してくれるか。
似て非なる作家にポール・オースターや「夜の果てへの旅」の作家セリーヌなどが居る。但し、ブコウスキーはオースターほどに虚構に徹していないし、セリーヌほどに凶暴な思想を背骨にあるとは思えない。
以上は、本書の冒頭の数作を読んだ時点での感想である。その後、短編の数々を読み進んでいったが、次第にうんざり感が沸き上がってきた。表題の「町でいちばんの美女」は、瞠目すべき作品と感じなくもなかった。荒み切った心。当たり前のものを素直には受け止められない詩人の感性。ありきたりの美に詩を感じ感傷的な詩文を弄するのは、到底我慢ならない負の感性。それよりも露悪的なまでの非日常の中でこそ野獣的な本能の血が騒いでしまう。性と汚物と滅びとに親和する心性。性への通路の低さは、世間的な常識への反発なのだろうか。きっとそうではなく、詩人のブコウスキーには自堕落な感性が潜んでいる。鼻水は小便を平気で垂れ流してしまう、それがなんだと開き直る心性。ジュネのような聖なる徹底した反抗心でもなく、セリーヌの反逆する何処か永久革命を志向するような夜の果てへの逃亡者でもなく、何処か歯切れの悪い刹那的な光芒にようやく救いを求める退廃の美学。
なんて、まだ半ばまでも読んでいない。今後、最後まで読み通せるか、覚束なくなっている。さて、どうなることやら。
← 『日本の国石「ひすい」 ーバラエティに富んだ鉱物の国 』(監修:日本鉱物科学会 編者:土山明 成山堂書店)「花崗岩、輝安鉱、自然金、水晶…、いずれも日本と関わりが深く「国石」の最終候補となった石たちです。この中からなぜ「ひすい」は国石として選ばれるに至ったのでしょうか?本書では、その美しさから鉱物学・岩石学としての知識、勾玉や宝飾品に象徴される古くからの利用、日本人との関わりまで、「ひすい」の魅力について存分に語ってい」るとか。
ダイヤモンドなど宝石への関心はそれほどないと思うが(でも、誰かあげると言ってくれたら、躊躇なくもらいますが)、ヒスイに限らず鉱物としてだったら、ダイヤモンドに限らず水晶もオパールも金も興味津々。化石はもちろんだが路上に転がる石だって何か感じるものがある。鉱物好きというと、宮沢賢治がいる。地質学者だったのだから、当然なのだろうが:
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