神々は今も君臨するのか 『白鳥伝説』再び
← 魯迅 作『阿Q正伝・狂人日記 他十二篇 吶喊』(竹内 好 訳 岩波文庫) 「人が人を食うという妄想にとりつかれた「狂人日記」の「おれ」,貧しい日雇い農民でどんなに馬鹿にされても「精神的勝利法」によって意気軒昂たる阿Q.表題二作とも辛亥革命前後の時代を背景に,妄想者の意識・行動をたどりながら,中国社会の欺瞞性を鋭くえぐり出す.魯迅(1881-1936)最初の作品集『吶喊』の全訳」
阿Qを筆頭にどの作品の主人公たちもやや頼りない、ふがいない奴ばかり。それなりにプライドはあるのだが、現実の中で空回りするばかり。無論、魯迅は意図的にそうしている。恐らくは、底辺を生きる民衆の風俗や生活ぶりを描くことこそが主眼に思える。
一歩間違えると、魯迅による体験記と見なしかねない。が、辛うじて魯迅の筆が単なるエッセイ(思い出の記)から飛躍させ、虚構作品として長く読まれるような普遍性に届こうかという作品群に仕立てている。一昨日から読みだして、仕事の日を挟んで、今日、読了した。感想は敢えて書かないが、幾つかの作品は印象に残った。
やや、というか、かなり予想とは違った作品群。我輩が勝手に(根拠もなく)思い込んでいたに過ぎないのだが、有名な狂人日記と阿Q正伝の二つの作品が収められていると。実際はまさに短編集。阿Q正伝だけが50頁で、あとは10頁余りのものが大半。それ以上に予想外だったのは、作品の傾向。貧困に喘ぎつつも権力に抗う、労働者や民衆の闘いぶりを描いているかと思いきや、まるで違った。
← 池内 了著『物理学と神』(講談社学術文庫)「かつて神の存在証明を果たそうとした自然科学は、その発展とともに神の不在を導き出した……というのは、本当だろうか? 現代物理学の描く世界からは、宇宙に最初の一撃を与え、サイコロ遊びに興じる至高の存在はいまだ消え去っていないのではないか? 古代ギリシアから近代科学の黎明、そして量子力学まで、「神という難問」に対峙し翻弄される科学の歴史を、名手が軽妙かつ深く語り切る」
池内 了著の『物理学と神』を読了した。宇宙論を中心に、物理学と神という、特に欧米では重いテーマを扱っている。八百万の神々の日本人には、神という絶対神、唯一神の重さは、対岸の火事を眺めているようなものか。が、科学の探求上は、神の存在とはとっくに縁が切れたはずなのに、宇宙論の進展は、改めて折々の場面で神による天地の創造神話がちらついてしまうのも事実。人間原理という妖怪が死神のように、不死鳥のように最新最先端のはずの宇宙論の闇に跋扈している……のか。
吾輩は、少なくとも着るものにはカネはかけない。別に無頓着というわけではないが、限られた予算の中で着るものには目を瞑るしかない。ただ、洗濯だけは頻繁に。清潔には気をつけている。あまり選択し過ぎて、間近で見ると、綻んでいるものが大半。余儀なく一張羅のはずの服を普段着に。考えてみたら、別にデートするわけじゃなし、一張羅なんて必要ないわけだ。
← パウル・クレー 著『造形思考(下)』 (土方 定一 / 菊盛 英夫/ 坂崎 乙郎 翻訳 ちくま学芸文庫)
パウル・クレー 著の『造形思考(下)』を折々、埋め草にちびりちびり読んでいる。今日のように、持参してきた本を途中で読み終えた際の予備として車に常備してある。昨日もそういう事態に陥ったので、久しぶりに引っ張り出し、30頁ほど読んだけど、いまだに、一節も理解できた(論旨を辿れた)ことがない。『クレーの日記』ほどには文章が楽しめない。
満載のクレーによる絵が頼り。数々の装画を壁をよじ登るフックにして、ようやく3合目か。断崖(クレーの文章)を敢えて目にしないで、フック(絵)だけ眺めていくかな(苦笑)。
念のためというか、老婆心のために、「1035夜『造形思考』パウル・クレー松岡正剛の千夜千冊」を紹介しておく。
ダナ・スターフ著の『イカ4億年の生存戦略』(和仁良二訳 エクスナレッジ)を日々50頁ほどずつ読み進めている。
昔はイカも立派な殻を背負っていた。しかしいつしか殻を体の内部に! 内部に持つくらいなら、無くしちゃえと、気が付いたらほんとに、スッポンポンのつるーっとした丸裸に。やだー、恥ずかしい、見られちゃうーと、(敵の)視線を感じたら、墨を吐くように! そうだったのか!
やたらと複雑な進化の過程。アンモナイトの殻にしても多様。タコ同様生身の体だったのが、次第に殻を持つ種に、という流れを考えやすいが、中には(今のイカなどは)、一度獲得した殻を失うという進化の果てだったり。殻の内部構造や水の噴出口の進化が興味深い。
← 谷川 健一【著】『白鳥伝説〈上〉』(集英社文庫)「古来、日本人の霊魂のかたどりとみなされてきた白鳥。東北地方に数多く存在する白鳥に関する地名の由来は?そして白鳥八郎とは一体誰れか?ヤマト政権成立以前に存在したヒノモトの国とは?数々の問いをかかえ“白鳥”を求め、日本全国を踏破し59点に及ぶ図版で実証した古代日本の深層」
今日から谷川 健一著の『白鳥伝説〈上〉』を読む。20数年ぶりか。古事記を中心に古代史のマイブームだった頃に読んだ。歴史の古層に埋もれた、文書には残っていない、せいぜい言い伝えや地名などに痕跡を僅かに確かめ得る、もうひとつの日本。悲しいかな、単行本で所蔵していた「白鳥伝説」は、東京からの急な帰郷の際、引っ越し代のために、東京在住時代の大半の蔵書と共に手放してしまった。痛恨。
数々の(自分には)惜しい本が、何かの本を読んでいて、ふと思い出されてくる。展覧会(美術展)に行くたび、買い求めた図録が300冊近く。これは我が宝だったのに。さて、単行本の「白鳥伝説」は入手できず、古本(文庫本)の本書を入手。改元に際して、というわけではないが、本書を手蔓に、歴史の古層に分け入ってみたい。
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