2018年の読書メーター
明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。
読書メーターの利用も三年目に入っている。
利用して、確実に言えることは、読む冊数が増えたということ。
同時に、常に読書を意識するものだから、遊び的な時間の使い方が減っている。バイクでのツーリングや、ラーメン屋さん巡りなどに時間を割くことが勿体ないような気がしているようだ。
これではだめだ。読書もいいが、(仕事や庭仕事などの家事は無論として)書くこと、遊ぶことも大事。
そして、年賀状にも書いたが、健康第一である。
2018年の読書メーター
読んだ本の数:131
読んだページ数:49606
ナイス数:25018
この宇宙の片隅に ―宇宙の始まりから生命の意味を考える50章―の感想
実にバランス感覚のある書き手だと感じた。真っ当な科学者だったら採り上げない(あるいは頭から否定するはずの)超心理や霊などの話も、ぞんざいには扱わず、我々が知りえている最新の科学からは、心霊現象は(あるいは心霊現象を起こすような未知の素粒子は)存在しないことを淡々と説く。存在するなら、既存(既知)の素粒子と、何らかの形で反応するはずだが、一切、そのような現象は見られないから云々。
読了日:12月30日 著者:ショーン・キャロル
悪魔祓い (岩波文庫)の感想
ル・クレジオは、学生時代だったか、『物質的恍惚』や『愛する大地』を読んで以来、折に触れ、彼の作品を読んできた。
初めはかなり見当違いな読み方をしてきたと、今更ながらに思う。詩人の感性をまるで持ち合わせない小生だから、仕方ないとはいえ、それでも、この数年だけでも、『海を見たことがなかった少年』や『隔離の島』『物質的恍惚』(再読)などを読んできた。
中南米の作家の本も立て続けによんできて、それなりに味わって読めるようになっている(と自分では思っている)。
読了日:12月27日 著者:ル・クレジオ
カフカ全集〈6〉城 (1981年)の感想
目の前に目当ての城があるのに、どうやってもたどり着けない。あがけばあがくほど、混迷の中に沈み込んでいく。
一体、何を描いているのか。神へ至る道? 卑近に言えば、1920年代、いよいよ肥大してきた官僚制度の、絡み合いもつれ合ってほどけない網の目にもがく市民? もっと身近に引き寄せると、それなりの町に生まれ育った男が、謎の城の暗黙の支配に雁字搦めとなっている村に紛れ込み、どうやっても溶け込むことのできない悪戦苦闘?
読了日:12月25日 著者:
塩を食う女たち 聞書・北米の黒人女性の感想
「1950年代から60年代の「公民権運動」を“キング牧師の運動”だと理解する見方」や、非抵抗運動だとか、先入観のように埋め込まれている紋切り型の見方を変えてくれる。
黒人の置かれていた差別的な立場。その中でも女性はさらに厳しい日々を生きていた。
男は現実に抗うことを諦めると、酒に溺れ、女性や子供への暴力で鬱憤を紛らす。
読了日:12月24日 著者:藤本和子
バウドリーノ(下) (岩波文庫)の感想
この手の、冒険ロマンもの、ファンタジーものは、好き嫌いが分かれるだろう。小生の好みではなかった。ハリポタも一切、受け付けなかったし。そういうロマン心は、数十年の昔、喪失してしまった。
自分の貧しい心を自覚させられただけ。読み切るのが苦痛だった。
読了日:12月17日 著者:ウンベルト・エーコ
ハツカネズミと人間 (新潮文庫)の感想
決してハッピーエンドには終わらないだろうってことは、最初から想像がつくのだが、それでも読者の勝手で心温まる、余韻溢れる読後感を与えてくれるだろうと、つい期待してしまう。
案の定の悲劇の結末。スタインベックは、あくまで現実をリアルに、まさにありのままに描く。当時のカリフォルニアの農場で働く流れ者の男たちの運命に例外はない。
古くからいる連中は、みんな夢を抱き、いつかはと思いつつ、現実は、酒と女にカネを使い果たし、人生をも浪費してしまってきたと知っている。この物語の主人公たちだって。
読了日:12月16日 著者:ジョン スタインベック
田園の憂鬱 (新潮文庫)の感想
前回のブログ日記にあれこれ書いた。
やや、持ち上げすぎだったかな。方法的模索や、まして思想上の煩悶は皆無だし。過敏な感性をもて余している(私小説風な内向性に留まっている)だけなのか、もう少し読んで確かめてみる。
薔薇の憂鬱と題したほうがいいのではなんて、賢しらなことを書いてしまったが、副題に「病める薔薇」とあるではないか。なんて、不注意な吾輩。
ただ、読了してみて、過敏な感性をもて余している(私小説風な内向性に留まっている)だけなのでは、という懸念が当たっているという心証を抱いてしまった。
読了日:12月14日 著者:佐藤 春夫
バウドリーノ(上) (岩波文庫)の感想
最初は20頁や30頁を読むようなペース。この日月と連休で、残りの250頁ほどを一気に。半ばころから物語世界に少しずつ馴染めてきた。
語り手たちの、日本人にははるか遠い世界が舞台とする、吾輩の素養ではまるでチンプンカンプンの、機知に富み過ぎた会話にも慣れてきた。 感想にもならないメモは昨日書いたので、ちゃんとした感想は(書けたらだけど)下巻を読んでから。
読了日:12月10日 著者:ウンベルト・エーコ
インディアス史〈1〉 (岩波文庫)の感想
圧縮版とはいえ、ラス・カサス 著『インディアスの破壊についての簡潔な報告』(染田 秀藤 訳 岩波文庫)に比べるまでもなく、圧倒的に詳しい。なんたって7巻本なのである。
よほど強い関心がないと、冗長に感じられるかもしれない。
けれど、コロン(コロンブス)らの言動が実に詳しい。
ラス・カサスは、褒めるべきは褒め、非難すべきは苛烈に指弾する。
読了日:12月09日 著者:ラス・カサス
今昔物語 (ちくま文庫)の感想
前回……たぶん、十年ほど前に読んだ時より楽しめた。福永氏の現代語訳が明晰で且つ馴染みやすい。昔の物語のはずなのに、すっとその世界に入って行ける。
平安(に限らないだろうが)の世は、都に限らず治安は今の我々には想像も及ばないものだったのだろうと痛感させられる。夜の道を女が一人歩くなんて、論外。男でも相当な用意か覚悟が要る。
日本は国土的に狭いと思われがちだが、一昔前は、一歩、町中を離れると、そこは異郷。まして夜になると闇の世界があるだけ。闇の深さが今とは雲泥の差なのである。
読了日:12月05日 著者(現代語訳):福永武彦
植物たちの私生活の感想
本作の冒頭は、かなりショッキングな叙述が続き、苦しくなるほどである。国家に異を唱える言動をしたと、逮捕され拷問された挙句、危険な戦地へ送られる。案の定、被弾し足を喪失する。
そうした兄を持つ弟が小説の語り手である。絶望的な状況に家の一室で苦悶の日々を送る兄。そんな兄と兄の恋人を巡って複雑な感情を持て余す弟。
正直、怒涛といっていい場面の連続する最初の数十頁に読むのを止めたいと思ったものだ。
読了日:12月02日 著者:李承雨
変身綺譚集成: 谷崎潤一郎怪異小品集 (平凡社ライブラリー た 26-1)の感想
谷崎ワールドというと、どうしても『細雪』を筆頭に、『痴人の愛 』とか『卍 』とか『瘋癲老人日記』、『陰翳禮讚 』、『蓼喰ふ虫』、『春琴抄』といった作品群となる。
そうした印象(に留まるとは思わない)があるだけに、変身奇譚の作品群は面白くはあるが、必ずしも絶品とは感じなかった。まさに本書の中でも、折々…いやかなり臆面もなく語られ告白されているように、圧倒的に泉鏡花には敵わない、圧倒されているように思う。
読了日:11月28日 著者:谷崎 潤一郎
山海経―中国古代の神話世界 (平凡社ライブラリー)の感想
読了した……とは到底、言えない。理解不能だった。妖怪や魑魅魍魎の跋扈する、戦国時代など古い中国にて記録されていたものが、文献が散逸し、あるいは回収され、何人かの人物によって編集されたものと思われる。奇妙奇天烈な生き物が登場する。そうした怪物を食べたり傷口に体液を塗ったりすると、生き物ごとに特定の病気などに効果がある、などと。
読了日:11月27日 著者:
増補 幕末百話 (岩波文庫)の感想
幕末維新を古老に聞き書きしたもの。著名人は敢えて避けて、武士や商人、町民など多彩な人々の話題を豊富に。感想ならぬ気になる点は、これまで随時、メモってきたので、裏話の数々を楽しんだとだけ書いておく。
読了日:11月26日 著者:篠田 鉱造
ビリー・バッド (岩波文庫 赤 308-4)の感想
本文そのものは180頁ほどなのに、最初は戸惑うことばかりで、日に30頁を読むばかり。途中から小説らくなって、後半は一気に読めた。
戸惑った理由は、訳者の坂下氏の注釈が凝っていることと、訳の本文がいかにもメルヴィル的で突っかかることばかりなのである。
彼の小説はどれもだが、この遺作は、旧約聖書やメルヴィルの尊崇する作家が随所に言及され示唆され、それらに拘りだすと、前に進まないのだ。
読了日:11月24日 著者:メルヴィル
真空地帯 (岩波文庫)の感想
長らく、敬して近寄らずできた本。戦後早々に出た反戦の問題作。読まなきゃと思いつつ、何か例えば堀田善衛の『広場の孤独』や大岡昇平の『俘虜記』や『野火』といった本ほどの鋭さを感じない……あくまで先入見である。
とはいっても、いつまでも避けてはいられない作品である。ということで、重い腰を上げた。
読み始めて、やはり、重苦しい…最後まで読み通せるかと思ったが、読んでいくほどに本書が意識の流れの手法を汲みつつも、解説の紅野謙介の話にあるように、ちゃんとしたストーリーがあり、ある種のサスペンス性もある。
読了日:11月20日 著者:野間 宏
青白い炎 (岩波文庫)の感想
構成の複雑さ……に翻弄された印象が残っただけ。
吾輩には(一度くらいの通読では)歯が立たなかった。
ただ、訳者でもある富士川 義之氏による解説は非常に参考になった。自分のようなものは、邪道かもしれないが、解説を読んでから本文に取り掛かったほうがよかったかもしれない。
著者(編者)も、詩と注釈を往復し、繰り返し読めって薦めている。そうはいかないよね。
本当の作者は誰なのか、そもそも書き手という存在は何処に存在するのか。
読了日:11月17日 著者:ナボコフ
若き日の詩人たちの肖像 下 (集英社文庫)の感想
車中でスマホを通じて、読書メーターに感想めいたことをメモってきた。
その都度、感じたのは、堀田の素養の深さと、何処までも自分の知性と感性で考え生き抜く強さ。
本書は自伝風の作品で、虚構の部分も多いようだ。
というか、虚実を自在に往還する、類を見ない作品足り得ている。
こういう国際性も豊かな思索の人が、視野の狭さが息苦しさに繋がっている富山に生まれていたとは、驚きである。
読了日:11月14日 著者:堀田 善衞
ロボットの脅威 ―人の仕事がなくなる日の感想
初読の際、次のように書いた:冒頭の数十頁を読んだ段階で、トマ・ピケティの『21世紀の資本』をロボット技術の急劇な発達という側面から裏書きしたと言えそうと感じた。本書は、まさにソフトウエアやロボット技術の進歩がいかに脅威なのかを縷々語っている。ロボット技術の進展は、ルーティーンワークのみならず、高度な知的エリートからも仕事を奪っていく。トヨタが膨大な社員を抱える一方、グーグルやフェイスブックなどは、利益の膨大さの割に抱える社員の数は驚くほど少ない。大半の仕事はコンピューターやロボットがこなしてくれるからだ。
読了日:11月09日 著者:マーティン・フォード
テンペスト (白水Uブックス (36))の感想
登場人物が多い。幸い、人物の名前やキャラクターが冒頭で一覧となっている。
何十回、その一覧を覗いたことか。
情けないことに、最初に読んだ印象は、その繰り返しが恥ずかしいほど、多いってことばかり。
なので、仕事を挟んだ翌日、今度はざっとだが、再読。
当時の小説や戯曲には、妖精やら魔法やら、道化、そして本作では野蛮で奇形の奴隷であるキャリバンが登場する。狂言回しのような存在。
で、吾輩の印象では、やはり、このキャリバン(や道化、酔漢の男ら)ばかりがリアルに表現されていると感じた。
読了日:11月09日 著者:ウィリアム・シェイクスピア
アフリカの日々 (河出文庫)の感想
イサク・ディネセンの「アフリカの日々」は印象に残る作品だった。彼女がアフリカの風土やアフリカ人の発想法にどこまで迫れたかは分からないが、アフリカ的時間の過ぎ方に馴染もうとした、その恩徳を超えた努力が垣間見える。
うっかり過ごし方という表現をしたが、時間というのは時計で計るような、分や秒単位で刻まれるものではなく、人は(おそらくは動植物も含め)時間の中に生きている。時間とじっくりゆっくり寝ている。ひととの付き合いも、できればすこしでも長く同じ時空を共有したいと心底から願っているのだ。
読了日:11月03日 著者:イサク・ディネセン
若き日の詩人たちの肖像 上―(上) (集英社文庫 ほ 1-3)の感想
やはり、稀有な作家だったと痛感。もっと評価されていい。生まれが代々の回船問屋だったこともあるが(視野が広い)、育ちが金沢ということも大きかったようだ。三味線や箏曲、古美術への造詣、これは偶然かもしれないが、若くして英語に堪能となったことなど。上京し大学生となった時点で、並の若者じゃない。上京直後に226事件に遭遇したことなど、彼を社会性国際性をも高めた。 どこまでも自ら考え抜く精神。
読むほどに、感心する。次の仕事の日には早速、下巻へ。
読了日:11月01日 著者:堀田 善衞
生命の起源はどこまでわかったか――深海と宇宙から迫るの感想
研究は相当に進んでいるようだが、生命の起源に迫るには、まだまだ迂遠な道のりがあると感じた。 生命誕生の場、生命の起源について、宇宙(地球外)も含め、数知れぬ説があるが、本書では主に深海熱水説が説かれている。同時に、陸上温泉説も採り上げられている。後者は吾輩には初耳。 同時に、本書で強調されているのは、生命存続の可能性、あるいはリスクについてだった。
仮に生命が誕生しても、存続するのはかなり厳しいとか。 ますます、生命の誕生が稀有なことだと感じさせられた。それでも、誕生したのは間違いないのだ……が。
読了日:10月30日 著者:
洞窟絵画から連載漫画へ―人間コミュニケーションの万華鏡 (岩波文庫 青 430-1)の感想
題名から、人類の絵画表現の歴史を辿る、軽めの本かと思って入手した。
が、むしろ、副題の「人間コミュニケーションの万華鏡」が内容を示している。洞窟絵画も、単に表現衝動に駆られ描かれたのではなく、人に伝える意志こそが意味を持つという。そのコミュニケーション上の表現方法(手段・道具)が時代と共に、ドンドン変わっていく。
読了日:10月25日 著者:ホグベン
世界文学全集 (17) ボヴァリー夫人・聖アントワヌの誘惑・三つの物語の感想
初めて読んだ頃よりは、少しは読書体験、さらには創作体験も重ね、当然ながら昔よりは味わって読めたと思う。本巻所収のどの作品も、やはり素晴らしい。「ボヴァリー夫人」は、つくづく隙のない作品だと感じる。 解説も非常に参考になった。文学史上でも、画期的な作品だったのだと納得させられた。 徹底して冷徹なまでのリアリズム。ボヴァリー夫人が自殺を遂げたあとも、延々と叙述が続く。自業自得の果ての自殺とはいえ、主人公の死なのに、その悲惨をまるで俯瞰するように、周囲の深刻と滑稽などが諧謔的に描かれる。
読了日:10月23日 著者:フロベール
堀田善衞を読む: 世界を知り抜くための羅針盤 (集英社新書)の感想
本書は、過日、訪れた高志の国文学館で開催されている「堀田善衞―世界の水平線を見つめて」を見てきた、そのショップで入手した。
本書を読んで、池澤夏樹が福永武彦の息子だと初めて知った。手軽に、気軽に手にしたけど、なかなか面白いし、参考になる。堀田善衛生誕百周年。再評価しないと。などと呟いてきたが、昨日(土曜日)車中での待機中に、一冊を読み切ってしまった。
読了日:10月21日 著者:池澤 夏樹,吉岡 忍,鹿島 茂,大高 保二郎,宮崎 駿
訳詩集 葡萄酒の色 (岩波文庫)の感想
久しぶりに詩篇を堪能した。シェイクスピアの14行詩や、ラフォルグなどの再発見があった。感想などは折々書いてきたし、吾輩の評価など僭越だろう。楽しませてもらったとだけ、書いておく。
読了日:10月17日 著者:
生命の灯となる49冊の本の感想
生命誌研究者。初の書評の本? 何冊か読んだ本があるが、さすがに読み方が専門家。同氏の信念は、「人間は生きものであり、自然の一部である」。さらに、「「人間」をもっとよく知らなければなりません。技術も政治も急がずに、慎重に考えるところから始めて欲しいと思います」とも語る。書評もそうした認識のもとに書かれている: http://www.brh.co.jp/about/message/
読了日:10月16日 著者:中村桂子
ヨゼフ・チャペック エッセイ集 (平凡社ライブラリー)の感想
著者は、ロボットという名称を創案した人物。小説の「ロボット」を書いたカレル・チャペックの兄。弟のカレルは、小説で有名にした。この点、クイズ番組でも間違えていることが多い。
反骨の士。画家、作家、舞台芸術家、童話、詩、且つジャーナリストと、多彩な人物だったが、政治的発言も避けなかった。1939年にナチスにより政治犯として逮捕される。囚人生活を送り、連合軍による解放目前に、チフスのため病死と推定されている。
本書はエッセイ集だが、著者の多才ぶりを反映して、死刑論や人造人間論など話題も豊富。
読了日:10月13日 著者:ヨゼフ チャペック
文庫 わが魂を聖地に埋めよ 下 (草思社文庫)の感想
あまりにおぞましいアメリカの裏面史。先住民や黒人奴隷、大量の移民、南北戦争の実態、そうした全体を俯瞰してくれるアメリカ史の本って、あるのかな。本書は1970頃の本。アメリカにおいて、ベトナム戦争と重ね合わせて読まれたとか。さもあらん!
読了日:10月09日 著者:ディー・ブラウン
文庫 わが魂を聖地に埋めよ 上 (草思社文庫)の感想
読むのが辛い。白人のあまりの蛮行と横暴。騙し討ちし、頭皮を剥ぎ、首を切り落とし、頭は茹でて頭蓋骨を記念品にと売り払う。女子供は殺すか奴隷に。土地と欲(金)に目が眩んだ白人らの国。今もその貪欲さと非情さは変わらない。
読了日:10月07日 著者:ディー・ブラウン
何が私をこうさせたか――獄中手記 (岩波文庫)の感想
1923年の関東大震災で、朝鮮人らが誹謗されるなか、ついに彼女夫婦は逮捕(治安維持法で)され、そこでの審判を受けるということは、死刑確実とされる大審院へ。夫のほうは天皇の恩赦を受け入れるが、彼女は転向を拒否する。彼女は獄中で死ぬほどの恐怖を味わい、麻縄で首を括って自殺。当年23歳。断固として自らの意志で生きようとした。それだけに当時の封建的な親を始め親戚たちとも周囲の人々ともぶつかり続けた。現代だって、こんな生き方は珍しいだろう。
読了日:10月06日 著者:金子 文子
ヒトのなかの魚、魚のなかのヒト: 最新科学が明らかにする人体進化35億年の旅 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)の感想
本書はまず、進化史上重要なミッシングリンクである、腕立て伏せのできる魚ティクターリクの化石を発見した著者の発見に至るドキュメントの面白さがある。
次いで、訳者の説明によると、「動物の体のつくり(ボディプラン)の発展を人体の構造と結び付けて論じている点」である。魚類や爬虫類、両生類はもとより、極めて原始的な特徴を残す生物、さらには単細胞に至るまで、そのボディプランを示してくれる。
読了日:10月03日 著者:ニール シュービン
近代日本一五〇年――科学技術総力戦体制の破綻 (岩波新書)の感想
津波のせいなのか、そもそも地震の揺れのせいで起きたのか、未だに原因追及が中途半端な福島原発の事故。この事故を引き起こした原発は軽水炉型。政府などは古い型であり、新規の原発は安全であるかのような印象操作を図っているようだ。
この軽水炉型原発は、そもそも軍事用に開発された原爆を急遽、民間用に転換したもの。なので、本来なら徹底的に施すべき安全対策が極めて不十分だった。原爆は物理学者が開発したが、原発は技術者が作った。原子力の持つ危険性に対する認識も研究も物理学者ほどではなかった。
読了日:10月02日 著者:山本 義隆
見知らぬ乗客 (河出文庫)の感想
本作品は、交換殺人を扱った作品では、最初に公刊された小説だとか。アイデアでは前後して使われている作家(作品)があるらしいが。
交換殺人を扱った小説やドラマはその後、かなりな数、世に出ている。だが、本書の素晴らしいのは、そのアイデアの秀逸さというより、犯人たちのみならず、周辺の人物たち相互の倫理描写やドラマにこそある。
なので、交換殺人が云々と云っても、ネタ晴らしにはならないのだ。
読了日:10月01日 著者:パトリシア・ハイスミス
うらめしい絵: 日本美術に見る 怨恨の競演の感想
面白く、一晩で一気に読み切った。気になる絵が多く、パソコンで画像を確認したり、楽しんだ。
本書については、「【聞きたい。】田中圭子さん 『うらめしい絵 日本美術に見る怨恨の競演』 レビュー Book Bang -ブックバン-」が参考になる。
文中にあるように、「恨みを抱き、死んだ人を描く幽霊画のジャンルは、日本以外に類を見ないそうだ。「うらめしい」という言葉も翻訳しにくく、「嫉妬、復讐(ふくしゅう)、怒りなどいろいろな言葉で置き換えられるが、複雑な感情を一語で表す語がなかった」という」。
読了日:09月26日 著者:田中 圭子
土・牛・微生物ー文明の衰退を食い止める土の話の感想
デイビッド・モントゴメリーの本は、共著だが、昨年、『土と内臓 微生物がつくる世界 』(片岡 夏実 [訳] 築地書館)を読んでいる。
細菌(微生物)関連の本は、一昨年暮れからずっと読んできた。
その中でも、この『土と内臓 微生物がつくる世界 』は一番、視野が広いと感じた。
本書は、その視野を一層、広げている。著者は一貫して、「土」を研究してきている。
読了日:09月25日 著者:デイビッド・モントゴメリー
ディカーニカ近郷夜話 後篇 (岩波文庫 赤 605-8)の感想
今朝未明、読了。ゴーゴリの若書きの作品。彼の故郷であるウクライナの、古き風俗や伝説の類いをいかにも彼らしいユーモアタップリに描いている。郷里や郷里の人々愛が感じられる。我々はやがて、「鼻」「外套」「狂人日記」、さらには「死せる魂」「ヴィイ」などを書くに至ることを知っているので、その根っ子、原石を嗅ごうとしがち。取材を重ねて創作したんだろうが、どんどん描き込んでいく作家魂を窺えて楽しい読書体験になった。
読了日:09月24日 著者:ゴーゴリ
江戸東京実見画録 (岩波文庫)の感想
仕事があまりに暇で、車中で読了。浮世絵などでは見られない江戸の風俗画と短文の説明文。
読了日:09月22日 著者:長谷川 渓石
ディカーニカ近郷夜話 前篇 (岩波文庫 赤 605-7)の感想
ゴーゴリが若いころ(22か23歳)に書いた作品。ウクライナの生まれのゴーゴリは、母らに郷里の風俗や伝説、果ては女性らの服装、結婚風景などを聞きまくり、民話風の話を仕立てた。ゴーゴリというと、『死せる魂』や『検察官』など、自然主義の作家というイメージが濃いが、本作は、極めて土俗的な、それでいて超自然的幻想味たっぷりの、ユーモアのある作風である。悪魔や妖女の類が民衆の間に普通に信じられている、そんな世界への馴染みがやがて、傑作「ヴィイ」に結実する。本作は妖怪ものでは、筆頭に挙げていい作品である。
読了日:09月19日 著者:ゴーゴリ
イザベラ・バードのハワイ紀行の感想
1831年生まれのバードの本は3冊目。気が付けばファンになりそうな自分がいる。彼女の紀行文は並のレベルじゃない。観察力・分析力・表現力が際立つ。でも、特筆すべきは敢えて行動する好奇心の強さ。溶岩の噴き出す河口を間近で観たくて、文字通り命からがら馬など駆りながら向かっていく。現地の人の馬への無慈悲な扱いに心を痛めつつ。彼女は、当時の女性は馬には横すわりが当たり前だったのを、現地の女性に見習って普通に跨って乗った。だからこそ、どんな険しい岩場の道なき道も踏み分けていけたのだ。そんな彼女は、脊椎の病気。
読了日:09月18日 著者:イザベラ バード
文豪の女遍歴 (幻冬舎新書)の感想
筆者は作家の伝記を書くのに熱心。伝記では、男女関係の話題が面白い。異性(同性)関係が作家の文業の理解につながるかどうかは、作家それぞれで違う。実際、本書を読んで作家の理解に資したかどうかは、かなり怪しい。あくまで車中での待機中の暇つぶしに、皆さん、お盛んだなーと思うだけ。扱われる書き手もかなりが忘れられた存在。吾輩が辛うじて覚えている程度か。生前は世上を賑わせたりもしたものだが。生きている間にさえ、話題の渦中になればと思うのなら、スキャンダルを巻き起こし、それを自らネタにするのも一つの手段ということか。
読了日:09月15日 著者:小谷野 敦
セックス・イン・ザ・シー (講談社選書メチエ)の感想
海に生きる生物たちの、まさに驚くべきセックスの多彩なる世界。以下は、本書の話題のほんの一端を羅列しておく: 海では尿が強力な媚薬になりうる。
コウイカは異性の装いで目を欺く。
体が小さいほど精巣が大きいという魚がいる。
仲間(など)からの影響を受けて性転換することは、海では珍しくない。
エビの一種では、オスになるかメスになるかは食べる海藻の量次第。
巻貝はペニスを捨てても再生できる。
アオイガイのオスは取り外しと発射が可能なペニスを持つ。
読了日:09月13日 著者:マラー・J・ハート
完全な真空 (文学の冒険シリーズ)の感想
宇宙論をはじめ、サイエンスに関心のある元SF好きの小生には興味津々の書評を装った短編集……というか、サイエンス放談集のような作品。
「小説から離れた最晩年も、独自の視点から科学・文明を分析する批評で健筆をふるい、中欧の小都市からめったに外に出ることなく人類と宇宙の未来を考察し続ける「クラクフの賢人」として知られた」という。
科学の専門家ではないが、晩年まで科学や文明の行く末をあこれこ考察する資質は、身の程知らずながらも共感してしまう。
日本だと、安部公房辺りをふと連想する。
読了日:09月10日 著者:スタニスワフ・レム
告白録〈下巻〉 (1958年) (新潮文庫)の感想
久しぶりに、ひょんなことから『告白録』を読み返して、ルソーの人間性に辟易したりすること多いが、被害妄想じゃなく、彼の住む家に煽られた民衆に石を投げつけられ、窓ガラスも破れたりした体験もあって、あながちルソーの妄想ともいえないことも分かった。
文章を読んでいて、ルソーの天才性の閃きを感じることもあったが、それ以上に、当時の世の中に対し、危険を顧みず、敢えて批判的著作や言動を為す、向こう見ずな性分も垣間見ることができた。
やっちゃダメ、言っちゃダメなのに、やっちゃうし、書いてしまうルソー。
読了日:09月04日 著者:ルソー
魔術的芸術: 普及版の感想
本書は、新装版と銘打っているように、最初に刊行されてから最早半世紀を経ている。
シュルレアリスムの主導者のブルトンの面目躍如の本。
といっても、執筆(全五巻の美術史シリーズの一冊『魔術的芸術』)を依頼されて快諾したものの、いざ取り掛かってみると、相当に難儀したようで、当時若手のジェラール・ルグランの協力を仰いだ。題名の magic は魔術と訳すか、呪術と訳すか。ブルトン自身は、必ずしも意味的に限定はしていない。自由に捉えることで、芸術を広く捉えようとしているのかもしれない。
読了日:09月02日 著者:アンドレ ブルトン
告白録〈中巻〉 (1958年) (新潮文庫)の感想
ルソーのご都合主義的な弁解に辟易する。
それでも、確かに黙っていたら、誰にも知られずに済む秘密の暴露はあるのは確か。
内縁の妻(のちに結婚したが)に産ませた5人の子供たちを次々に託児所に預けて、このほうがよかったというのは、強弁だろう。本書の半ばころから、ルソーの神経衰弱気味な被害妄想お記述が増えてくる。被害妄想とも言い切れないのかもしれない。思想的に危険でもあったし、自分でも散々愚痴っているように、人付き合いは苦手だったから、他人から変人扱いされるのも仕方がなかったのかもしれない。
読了日:08月29日 著者:ルソー
図説 あらすじと地図で面白いほどわかる! 源氏物語 (青春新書インテリジェンス)の感想
車中で折々読んできたが、間が開きすぎて、話が見えなくなる。与謝野「源氏物語」を今冬、読んだが、和歌が読み下し文なしで分からず、本書を参考にしようと手に取った。次回、他の誰かの「源氏物語」を読む際、改めて読むとして、今回は、本書、さらっと読むことにする。
…ということで、本日(日曜日)本書を読了させた。近いうちに誰かの口語訳「源氏」を読む際、本書も再読するかもしれない。こうでもしないと、「源氏物語」が理解できない。
読了日:08月26日 著者:
愛書狂 (平凡社ライブラリー)の感想
蔵書家でも愛書家でもない。ただ、本に限らず電子化が進む今日、少なくとも本については、可能な限り紙の本、表紙やカバーや、帯などのある本、装幀も含めた本を大事にしたいと思う。昨今の作家はともかく、昔の作家は、書籍の形で読まれることを前提に創作していたと考えられからだ。
読了日:08月25日 著者:G. フローベール,Ch. ノディエ,Ch. アスリノー,A. ラング,A. デュマ
人類とカビの歴史 闘いと共生と (朝日選書)の感想
感想がどうこうじゃなく(前回、多少のことを書いた)、細心の常識を学びたかった。小生としては、実用的な知識じゃなく、カビの生態などについて細菌などとの絡みで知りたかったのだが、やや当てが外れたかな。こういうのをないものねだりって言うのかな。
読了日:08月24日 著者:浜田信夫
告白録〈上巻〉 (1958年) (新潮文庫)の感想
四半世紀ぶりの再読。昔読んだ印象が綺麗に消え去っている。まだ、上巻を読んだだけだが、こんなに読ませるとは思わなかった。放浪好き。しかも、先々で自分を見知らぬ家の人がもてなすのを当たり前と思っている(かのような)感覚に驚く。もてなさないほうがダメだくらいの。18世紀の人ルソーだが、当時は(一部の)ヨーロッパは豊かだったのかもしれない。産業の勃興もあるが、そもそもの資金はペルーなど中南米からの収奪による(ルソーに限らず当時の人は植民地への圧政や収奪をまるで疑問に感じていない)。
読了日:08月22日 著者:ルソー
幻想の坩堝 ベルギー・フランス語幻想短編集の感想
期待と多少の不安の念を抱きつつ、手にし、一気に読了した。味読できたとは言い難い。
ベルギーというと、有名な画家に、ヤン・ファン・エイクやルネ・マグリット、ポール・デルヴォー、ジェームズ・アンソール、フランス・ハルス、ピーテル・パウル・ルーベンスなどがいる。壮観だ。
ミシェル・ド・ゲルドロード作の「魔術」を読んでいたら、ジェームズ・アンソール作の『仮面の中の自画像』を思い浮かべていた。
小説家というと、ジョルジュ・シムノン。かの女優オードリー・ヘプバーンもベルギーの出身と今になって認識した。
読了日:08月18日 著者:
収奪された大地―ラテンアメリカ500年の感想
もう、四半世紀以上も以前の本。読みたくてチェックしてあったが、当時は、読める状況ではなかったし、そもそも本を買えなかった。ようやく念願の本書を手に。中南米への欧米(資本)による収奪というテーマは自分の読書の大きなテーマのひとつ。本書についての感想は既に何度となく呟いてきた。本書を読んで、スペインやポルトガル、オランダはもとより、アメリカやイギリス、フランス、ドイツなどがいかに中南米を収奪し、人民を虐待しまくったか、その現実を知って、怒り心頭に発することもしばしば。
読了日:08月16日 著者:エドゥアルド ガレアーノ
寒い夜 (岩波文庫)の感想
いい加減、読んでいてうんざりする。嫁と姑が仲が悪い。その間でオロオロする夫。嫁は外交的で積極的、前向き。それが姑には浮気っぽくて、息子には冷たいと映る。息子がいるが、恐らく姑の影響下にある。嫁には家に居場所がない。日本軍が大陸に侵攻し、ドンドン彼らの村にも迫ってくる。逃げるべきだろうが、そうはいかない。母(姑)と嫁の意見が対立しているからだ。
読了日:08月13日 著者:巴 金
病(やまい)短編小説集 (平凡社ライブラリー)の感想
どの病気も身につまされる思いで読んでいた。
本書の中で印象に残った作品はいろいろあったが、中でも、「癌」をテーマとする、「癌 ある内科医の日記から」である。ある夫人が乳癌となり、乳房を切除する手術を受ける。
驚くべきは、拷問のような外科的処置を受ける場面である。麻酔なしの手術が拷問モドキ?
とんでもない、当時は麻酔がないのは当たり前。なので、腕や足を縛ったり、押さえつけたりして外科手術を施すのは普通のこと。
読了日:08月11日 著者:E. ヘミングウェイ,W.S. モーム
英国諜報員アシェンデン (新潮文庫)の感想
実に面白い。読者を楽しませることをよく考えている。絶妙な会話は、チャンドラー作品などへも影響したのか。サスペンス作品にはもはや、不可欠の要素なのかもしれない。自らがスパイだった経歴のある作家が何人かいるという。実体験を書くわけにはいかないだろうが、現実のスパイ活動の中での、虚々実々の駆け引きが作品の中に生きているようだ。
一気に読むのが勿体なくて、敢えて数日を費やして読んだ。若かったら、繰り返し読んだだろうな。モームの有名な作品は繰り返し読んできたのに、本作を見逃していたことが悔やまれる。
読了日:08月09日 著者:サマセット モーム
継体天皇と朝鮮半島の謎 (文春新書 925)の感想
継体天皇にはずっと関心を持ってきた。前の本が文献史学に基づく著作だとすれば、本書はその後の考古学上の研究実績を広く視野に入れての書。著者は、「継体の前半生は杳としている。幼いころ父を亡くし、以後母の実家のある越前三国で育てられ、以来五十七歳までそこに居たように『日本書紀』は記す。しかし姻戚関係から察せられるように、実際は近江を拠点に越前や尾張など幅広く滞在していたと私は推定する。(中略)歴史家としての想像を慎重に交えるならば、彼はもっとスケールの大きい国際的な活動をしていたのかもしれない」と語る。
読了日:08月05日 著者:水谷 千秋
折たく柴の記 (岩波文庫)の感想
一か月以上を要して、懇切な注釈を頼りに読み通した。一介の武士が将軍の信頼を得て幕府の枢要な政策に関与した(ちょっとだけ、菅原道真を連想した)。古今の典籍に詳しく、幕府(将軍や老中ら)が取り扱いに迷う課題に次々と提言していった。生類憐みの令で有名な、綱吉のやや放縦な政策を改革。「正徳の治」である。白石の性格そのままに生真面目な政治。白石によって遠ざけられた不満分子により、次の吉宗の時代になって地位を失った。が、お蔭で時間が生まれ、数々の著作を世に出したのだから、皮肉なもの。
読了日:08月04日 著者:新井 白石,松村 明
可愛い黒い幽霊: 賢治怪異小品集 (平凡社ライブラリー)の感想
幽霊がどうこうということより、賢治が幻視者だということが、東雅夫氏の編集による本書で知ることができた。彼による解説も非常に参考になった。「永訣の朝」では、兄賢治の妹へのひたすらな思いが表現されているようである。
一方、「手紙 四」では、まるでその舞台裏を明かすかのように、実は兄は普段から小さな妹に意地悪ばかりしていた。その妹が俄かに病気になり、兄は自分のせいで妹が病気になったとばかり、罪の意識に駆られて、「雨雪とって来てやろか」病床の妹に語りかけるのだ。
読了日:08月01日 著者:宮沢 賢治
写実絵画とは何か? ホキ美術館名作55選で読み解くの感想
同じ写実絵画といっても、作品の世界は作家によってずいぶん違う。惚れ惚れする作品が幾つも。逆に上手いとは思うけど、感心できない作品も。女性を描いた写実画もいいけど、静物画や風景画も素晴らしい。中には素晴らしい風景画があった。実物、観たい。
近年は、NHKでも写実絵画の特集をするようになった。この美術界における写実画への傾斜は何を象徴しているのか?
技術と根気と研究心と対象への愛情があれば、素敵な女性のヌードを何ヵ月も費やして描くって、楽しいだろうなー。風景でもいいんだけど。
読了日:07月30日 著者:松井 文恵,安田茂美
そして最後にヒトが残った―ネアンデルタール人と私たちの50万年史の感想
著者はネアンデルタール人の専門家。研究データを幅広く渉猟し、安易な図式的理解に走らない姿勢が好感を持てる。その分、結論めいた見解を求めたがる史郎にはもどかしいが、実際、分からないことも多いのだろう。なんといっても、いくら遺伝子解析が力を持ってきたとはいえ、最後は遺跡の発掘がものを云うのだ。著者は適切な時に適切な場所にいる事こそが進化の切っ掛けになり、逆に適切過ぎると今度は環境変化等々に対応できず滅びていくこともある。我々は、むしろたまたま生き残ったに過ぎないのかもしれないと語る。
読了日:07月28日 著者:クライブ・フィンレイソン
荻窪風土記 (新潮文庫)の感想
読み始めの頃、「あちこち懐かしい地名が出てきて、読む手が止まってばかり。どの地名も、彼が在住した頃は村だった。当たり前か。東京って、何処を歩いても、作家などが息づいていた。文化や伝統の厚み。ただ、多くの若い人はそんなことには無頓着。我輩にしたって、東京を離れて、東京を懐かしみ、いろいろ知って、驚く始末」などと書いていた。井伏と太宰らとの関りがあれこれ書いてあって、なかなか興味深い。太宰が懸命に文学(による高名なること)に執心する一方、井伏の(よそ目には)余裕しゃくしゃくたる生き方や人間性が際立つ。
読了日:07月27日 著者:井伏 鱒二
物理と数学の不思議な関係―遠くて近い二つの「科学」 (ハヤカワ文庫NF―数理を愉しむシリーズ)の感想
昔、単行本で読んだはずだけど、好きなテーマの本なので、改めて手にした。
そういえば、つい先日読んだ、マーカス・デュ・ソートイ著の『知の果てへの旅』(冨永星/訳 新潮クレスト・ブックス)も同じテーマを数学者の立場で扱っていた。ソートイの本は、数式も少なく一般の平均的な読者も付いていきやすい。
一方、マルコム・E.ラインズの本は、数式に弱い吾輩にはクラクラする記述も多い。というか、ほとんど右の耳から左の耳を通過することもしばしば。
読了日:07月20日 著者:マルコム・E. ラインズ
私は絶対許さない <新装版>の感想
筆者は、輪姦され、やっとの思いで逃げ出してきた。
ひたすらレイプ犯への恨みと、いつか奴らを殺してやるとの思いで辛うじて生きぬいてきた。
人生が捻じ曲げられた彼女。何が悲しいって、やっと逃げてきた彼女を父親も母親も、ただただ責めるだけってこと。だから、病院へも行かないし、警察へも訴えない。親が許さないことを知っているから。家庭も学校も何処にも逃げ場がないのだ。
読了日:07月19日 著者:雪村 葉子
新装版 苦海浄土 (講談社文庫)の感想
何十年来、一度は読まないとと思いつつ、内容の重さを思って、手が出なかった作品。
読みながら、憤怒の涙を何度も。こんなことがあっていいのか、と。
ところが、解説を読んでびっくり。ドキュメントとは言わないまでも、患者や家族らへのインタビュー、ルポを元にしての文学性高き書なのだと思い込んでいたからだ。読み終わるまで。でも、内容のほとんどは作者による創作なのだとか。
となると、詩人の資質のある作家による文学作品なのだ。
読了日:07月17日 著者:石牟礼 道子
ペドロ・パラモ (岩波文庫)の感想
カフカ的不条理とは、かなり位相を異にしているも、一人の非力なものたる人間には、何処をどうやっても鵺のような、取っ掛かりのあるようでない町では途方に暮れるばかり。全貌を理解するなど、土台人間にはできっこないことなのだ。その不透明さは、ガブリエル・ガルシア=マルケスの『百年の孤独』を想わせるようでもある。
読了日:07月13日 著者:フアン・ルルフォ
失われた時を求めて(12)――消え去ったアルベルチーヌ (岩波文庫)の感想
一度は愛した人、己のものにした彼女。失って初めて気づく、愛おしさと、身近だったころには自覚しきれなかった鬱陶しさ。その人の謎を探ろうとすると、彼女について全く予想外の<真の姿>が垣間見える。が、見えてきた姿が真相だったという保証など、何処にもない。現実は一つしかない。真実だって一つしかありえない。 ただし、では我々がその過去の真相をこれと確定できるかというと、そんな保証などどこにもない。
読了日:07月12日 著者:プルースト
ヴァギナの文化史の感想
本書について、下手な感想を書くのも僭越というか、難しい。
ただ、本書の末尾に載っている、ブラジルの作家カルロス・ドルモン・デ・アンドラーデの詩をここに再掲しておく。栗色のアネモネは何を暗喩しているかは言うまでもないだろう:
読了日:07月10日 著者:イェルト ドレント
源氏物語の時代―一条天皇と后たちのものがたり (朝日選書 820)の感想
恥ずかしながら、本書を読んで初めて、清少納言の『枕草子』の意義やすばらしさを教えられた気がする。
これまでは、古典だからとにかく読んでおこうという程度。尖がった才能や美的センス、などなどは感じても、それほどまで感心できなかった。
清少納言の男気や、どん底に追い詰められた、そんな逆境で書き始めたってことに尊敬の念さえ(今更だけど)覚えてしまった。
読了日:07月08日 著者:山本 淳子
お前らの墓につばを吐いてやる (河出文庫)の感想
ボリス・ヴィアンの名は、戦後フランスの混乱期に登場し活躍した、サルトル、ジュネ、ブランショ、アルトー、エルンスト、フックス、、ツァラ、ジャコメッティ、コクトー、バタイユ、ジュリエット・グレコ、デュシャン、マン・レイ、デュビュッフェ、エーコ、さらに戦中に活躍したセリーヌらも含め、彼らの活躍をたどる中で折々は目にしてきた(ここに名前を挙げた人物の一部については、本ブログでも採り上げたことがある)。
読了日:07月06日 著者:ボリス ヴィアン
知の果てへの旅 (新潮クレスト・ブックス)の感想
著者は数学者。素人の目には、物理学と数学は似ているように思われがちだが、数学者の認識からは全く別物。物理学の世界は、どんな理論も、何かの新たな発見や着想から、その理論やビジョンが根底から変わる可能性が常にある。多くは、ニュートンの重力論がアインシュタインの相対性理論の一部として包摂されるのみがが、往々にして過去の理論は捨て去られ、新たな展望へと移行する。
読了日:07月04日 著者:マーカス デュ・ソートイ
グレート・ギャツビー (村上春樹翻訳ライブラリー)の感想
訳者の村上春樹氏は、「これまでの人生で巡り会ったもっとも重要な本を三冊あげろ」と言われたら、この『グレート・ギャツビー』と、ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』、レイモンド・チャンドラーの『ロング・グッドバイ』であるという。『カラマーゾフの兄弟』などはともかく、本作『グレート・ギャツビー』については、最後まで読んでも、腑に落ちないままだった。村上氏によると、原書(英語)でないと、その深いニュアンスは伝わらないかもしれない、自分として懸命に翻訳の形で伝えようとしたというが、私にはダメだった。残念。
読了日:07月02日 著者:スコット フィッツジェラルド
失われた時を求めて(11)――囚われの女II (岩波文庫)の感想
本書は、「ヴァントゥイユの知られざる傑作が開示する芸術の意味」というくだりがある。幻の音楽作品。想像上の作品なので、さすがのプルーストも作品の性格などについては、やや奥歯に物が挟まったような説明。それでも、何事かを読者に想わせるからさすがである。誰か、音楽(作曲)の素養のある方が、このプルーストの記述を元に、我こそはという作曲を試みてもらいたい。
さて、近いうちに、第十二巻を読み始めるよ。
読了日:06月30日 著者:プルースト
燃える平原 (岩波文庫)の感想
書店で見つけ、パラパラ捲って、読むに値するとゲット。まさか、こんな凄い作家、作品だとは! 今は出先なので、感想は帰宅してから。いい作家と出会ったよ。
読了日:06月26日 著者:フアン・ルルフォ
平家物語 (池澤夏樹=個人編集 日本文学全集09)の感想
軍記物語ではあるが、語り物を意識した訳になっている。ドラマチックな場面では、琵琶の撥の音も喧しい(そう意識させる訳になっているのだ)。
よく言われることだが、『古事記』は別格として、日本には、国史として、『日本書紀』や『続日本紀』、『日本後紀』、『続日本後紀』、『日本文徳天皇実録』、『日本三代実録』といった六国史がある。
以後も国史の企てはあったらしいが、完成には至っていなかったらしい。
読了日:06月21日 著者:古川日出男(翻訳)
日本の古典はエロが9割 ちんまん日本文学史の感想
仕事があまりに暇で、残り140頁ほどを読み終えてしまった。題名に偽りなし。自分の知らない日本や中国などの古典が(エロや性愛に限っても)実に多いことに、今さらながら思い知った。今も夜毎日毎、性愛絡みのドラマが繰り広げられているのだろう。古代や平安時代や中世に壮絶な営為があったって、もしかして(性愛の進化の趨勢からして)現代のほうが凄まじい実態があるに違いない。要は、そうした実態を見透す目なんだろう。頑張らないと(って、何を?)!
読了日:06月18日 著者:大塚 ひかり
赤の女王 性とヒトの進化 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)の感想
大隅典子氏(東北大学大学院医学系研究科教授)によると、『性』は進化問題の女王である! 自然淘汰は全生命の進化に関わるとすると、人間がある時点で急激に脳が肥大化したのは、人間の人間に対する軍拡競争があり、生きる糧を求めての生存闘争もあるが、男性女性を問わず、性に絡む戦術戦略が深く関わっている。数少ない卵子を肝とする女と、際限のない精子…数打ちゃ当たる男との鬼気迫る戦い。いろんな説が紹介されていて、主に性を巡っての頭の体操になった。遅きに失したけれど、いつかは読みたいと思ってきた本。読了。
読了日:06月17日 著者:マット・リドレー
駱駝祥子―らくだのシアンツ (岩波文庫)の感想
アメリカで評価されたりする作家で、文化大革命で犠牲になったわけで、中国の権力側(文化大革命当時の)からは、危険視されたようだが、少なくとも、本作を読む限り、実にヒューマンである。美は細部にありではないが、個々の叙述が巧みだし、話をどんどん読ませる卓抜した技術を感じた。主人公の駱駝祥子(らくだのシアンツ)は、体力自慢の若者。怖いもの知らずで、真面目に頑張ればきっと成功すると思っていた。
読了日:06月15日 著者:老 舎
デューラー ネーデルラント旅日記 (岩波文庫)の感想
デューラーは畏怖する画家。初期の作品もいい。車中の友として本書を持ち込み、楽しんだ。
解説にもあったが、やや病的なまでに記録するところは、永井荷風の断腸亭日乗を連想させる。
内緒だが、我輩の近年の手書きの日記(40年以上、続けている)は、家計簿みたいになっている。日記は、ブログに書いているので。
旅の途中、ルターの逮捕を知る。救われんことを神に熱心に祈る。盛名高きエラスムスにも力となってくれることを祈る。日記中で一番長い記述かも。
読了日:06月08日 著者:デューラー
もうひとつの脳 ニューロンを支配する陰の主役「グリア細胞」 (ブルーバックス)の感想
ニューロン至上主義から、グリア細胞などニューロン以外を含めた脳の働き全般へ。従来、脳の潜在能力の一割ほどしか使われていない、という根拠のない説が喧伝されていた。が、それはとんでもない間違いない。ニューロンの活動しか観察研究して来なかったから(ニューロンにしか目が向かなかった)。近年は違う。眠れる(せいぜいニューロンを包む梱包材とされてきた)グリア細胞などが、常に活動している。睡眠中も。この頃、健全な睡眠の大切さがテレビでも話題になることが増えてきたが、その理由も説かれている。
読了日:06月05日 著者:R・ダグラス・フィールズ
有罪者: 無神学大全 (河出文庫)の感想
読んで、ほとんど理解できなかった。かなりハイブローなアフォリズムの数々に翻弄されるばかり。解説を読んでも、分かったような……やはり不全感。
それでも、読み通したのは、神や死や戦争や愛、女への真摯な問いかけと、背を向けるしかない絶望の念の切迫感があったからだ。
ニーチェ(のアフォリズム)の哲学からの影響が言われるが、ヘーゲル、特に「精神現象学」のヘーゲルの影響を感じた。
読了日:06月04日 著者:ジョルジュ・バタイユ
うるしの話 (岩波文庫)の感想
半世紀も前に岩波新書で刊行された本。古い話にも耳を傾けたい。本日、読了。書き手は生涯、漆や蒔絵に携わった第一人者。本文もだが、第二部の「漆とともに六十年」が面白い。数々の業績もあるが、志の高さ、生き方の潔さが印象的。
読了日:05月28日 著者:松田 権六
フランシス・ベーコン 感覚の論理学の感想
読了。ほとんど理解できなかった。粗暴、狂暴、炸裂する心身。それでいて、にじみ出る詩情。この詩情が醸し出されているがゆえに、野蛮なまでの絵の未熟さ(技術の未熟ではなく、生半可な成熟を拒み続ける、その強靭さに注目している)にもかかわらず、つい見入ってしまう
読了日:05月26日 著者:ジル ドゥルーズ
文庫 若い読者のための第三のチンパンジー (草思社文庫)の感想
同氏著の『銃・病原菌・鉄―一万三〇〇〇年にわたる人類史の謎』がロングセラーとなっていることから、急遽、過去の著作を簡潔に纏めて出版した本みたい。既読感があるのは当然で、こうした研修を発展させて『銃・病原菌・鉄』なる研究に至ったのだから。
どの科学や研究も、専門化細分化が進む一方である。だからこそ、幅広いジャンルを横断する研究のニーズも高まっているのだろう。昔は、哲学がその役目を果たしていた。それが研究者の層の広がりで専門化が進んだ。それは必然性があったのだし、これからもその傾向に変わりはないだろう。
読了日:05月24日 著者:ジャレド ダイアモンド,レベッカ ステフォフ
思考の技法 -直観ポンプと77の思考術-の感想
たぶん、現代アメリカの最高の哲学者(の一人)であると思っている。
神や意識、精神や生命など、神秘のベールの向こうに秘蔵するか論述を超えると見做しがちなテーマを<解明>してきた哲学者。進化の思想についても、リチャード・ドーキンスと共に、生命の神秘という迷宮に逃げ込ませることを徹底して論難してきた。
読了日:05月22日 著者:ダニエル・C・デネット
D.H.ロレンス幻視譚集 (平凡社ライブラリー)の感想
『息子と恋人』や特に『チャタレー夫人の恋人』ほどには洗練されていない。やや生硬な感も覚えた。ただ、最晩年の聖書論『黙示録』にも感じたことだが、ロレンスの関心のエッセンスが時に剥き出しになっているようで、興味深かった。どの作品も、ロレンスが亡くなる数年前から3年ほど前に書かれたもの。生硬と感じた私の感想は見当違いなのかもしれない。むしろ、幻視譚の形で彼の根底にある世界へ直截に対面しようという切迫感が自分にそう錯覚させたのかもしれない。
読了日:05月16日 著者:D.H. ロレンス
文庫 銃・病原菌・鉄 (下) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫)の感想
一万三〇〇〇年にわたる人類史と副題にあるが、なにゆえ一万三〇〇〇年なのか。
それは、一万三〇〇〇年前というのは、最終氷河期が終わった時点を指すからである。その時点では、人類は南太平洋や中南米を含め、世界各地に人類が広がっており、似たり寄ったりの狩猟採集生活をしていた。それがそれぞれに異なった経路をたどっていく、しかも、その経路は実に多彩。
こういった問題をこれだけ視野広く捉えて叙述した歴史書はあるのかどうか、小生は知らない。とにかく面白かったとしか感想を言えない自分が情けない。
読了日:05月13日 著者:ジャレド・ダイアモンド
インディアスの破壊についての簡潔な報告 (岩波文庫)の感想
再読。感想については、ブログで書いた。当時のスペインの政治状況の中で、よくぞこれだけの記録を残し、当局に報告したものだ。身の危険も相当にあったようだし。
本書の解説が非常に詳しく、本文もだが、解説も読みごたえがあったことは付記しておきたい。
読了日:05月09日 著者:ラス・カサス
豊乳肥臀 下 (平凡社ライブラリー)の感想
影響を受けた作家として名の上がったトルストイは、一瞬、意外の感もあったが、当然ながら挙げるべき作家だと納得した。
本書『豊乳肥臀』は、誰かが言っていたように思うのだが、現代版且つ中国版(いうまでもなく莫 言版)の「戦争と平和」なのである。カフカ的な不条理もたっぷり過ぎるほど書き込まれている。
但し、カフカ的寡黙さは、欠片も見いだせない。ひたすら喧騒の場面と言動の連続である。
読了日:05月06日 著者:莫 言
音楽の美しい宇宙:和声、旋律、リズム (アルケミスト双書)の感想
装丁の好ましさに似合わぬ内容の充実ぶり。音楽をあくまで音を楽しむだけで済ませている自分には、やや理解が難しい。音楽の奥深さを教えられると同時に、自らの学習や演奏活動に生かせられる人が羨ましいと感じたよ。
読了日:05月04日 著者:ジェイソン・マーティヌー
文庫 銃・病原菌・鉄 (上) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫)の感想
日本で云えば、縄文時代の開始期以降の人類史。なにゆえに、1万3000年にわたる人類史なのだろう。
本書をようやくにして読んでいるが、刊行久しいとはいえ、読むに値する本だ。文献リストが興味深い。早速、下巻へ。
読了日:05月01日 著者:ジャレド・ダイアモンド
豊乳肥臀 上 (平凡社ライブラリー)の感想
本書の特徴は莫言の表現そのものにある。マルケス、ドノソ、フォークナー。さらに、莫言が本書を書いた時点では、相互共に影響関係はないだろうが、どこかしら、『精霊たちの家』の作家イサベル・アジェンデの作風というか雰囲気をも感じてしまった。こうした、スーパーリアリズム的叙述は現代文学の共通項のようにも感じられる。 中国の戦後の歩みを見てみると、過酷なものだったことが分かる。そんな中国の一面をでも描くには、文学的手法も既存のものでは追い付かないのだろう。作家の直面する現実の圧倒的な塊の凄みを感じる。早速、下巻へ。
読了日:04月29日 著者:莫 言
風土記 (下) 現代語訳付き (角川ソフィア文庫)の感想
下巻を読み通すのに、一か月以上を要した。地名説話が多い。大和政権が日本各地に勢力を広げていく過程が垣間見える。古くからの呼称があったのだろうが、そこに大和政権の言葉で命名したり、読みかえたり。それにしても、北陸…越中の風土記がないことに物足りなさの念。古代、継体天皇はヒスイの産出を前提にした越の勢力が推した、そんな大事な越路なのに。何が口惜しいって、逸文とはいえ、佐渡を含む越後や気比神宮などの越前、敦賀などの国々の断片はあるのに、越中だけがないってこと。
読了日:04月24日 著者:
平安人の心で「源氏物語」を読む (朝日選書)の感想
山本淳子さんの著書は読み友に推薦されていた(この本ではないが)。書店で見つけたのが(あったのが)本書。紹介されていた本もいいのだろうが、本書も読んで納得の本。
本書を読んでいて、ひたすら教えられることばかりだったが、最後に驚きが待っていた。それは、「『源氏物語』の主人公・光源氏の母・桐壷更衣のモデルは、作者・紫式部の同時代人である一条天皇の中宮・定子だという」説である。
筆者が最初に指摘し唱えた説なのかは、小生には判断のしようがないが、『源氏物語』を一層深く切なる物語として読める気がする。
読了日:04月22日 著者:山本淳子
フェルディドゥルケ (平凡社ライブラリー)の感想
自分には、まったく初の作家。初めて読む作家(の作品)という意味もあるが、それ以上に、従前読んできた大方の作家とはまるで異質な作家だという意味もある。
あるいは、日本でいえば太宰治的な、文壇からは下手すると厄介者というか、鼻つまみ者扱いされる範疇の作家かもしれない。下手するとグロテスクな作風とも感じられるし、文学が真実を描くものだとすると、旧来の作家が見逃すか無視するか、観てみぬふりをしてやり過ごすような場面に執拗にこだわる作家だと感じた。
読了日:04月18日 著者:ヴィトルド ゴンブローヴィッチ
漱石日記 (岩波文庫)の感想
再読。三度目か。
漱石のかなりの量の日記類から、「ロンドン留学日記 『それから』日記 満韓紀行日記 修善寺大患日記 明治の終焉日記 大正三年家庭日記 大正五年最終日記」に絞って編集。
漱石の文学(住まいや行動先の)地図(主に明治時代の東京)は持っている。本書を読んで、留学時代のロンドン地図があればいいなと感じた。修善寺大患日記は、何度読んでも痛ましい。親のことを思い出したり、いずれは自分もこうなるのかなどと、身につまされる思いで読んだ。ここが初めて読んだ頃との感じ方の違いかもしれない。
読了日:04月16日 著者:夏目 漱石
鉱物 人と文化をめぐる物語 (ちくま学芸文庫)の感想
感想というのではなく、本書の話題からスピンアウトした話題を明日のブログで書くつもり。砂漠のバラなど。
読了日:04月14日 著者:堀 秀道
息子と恋人 (ちくま文庫)の感想
彼の生涯は1885年9月11日 - 1930年3月2日。
ってことは、44歳での没。
今更ながら、密度の濃い生涯。しかも、『息子と恋人』(1913年)、『虹』(1915年)、『チャタレー夫人の恋人』(1928年)。つまり、本作『息子と恋人』 は、28歳の作。読了後、訳者あとがきを読んでその事実を知り、少なからざる衝撃を受けた。
『チャタレー夫人の恋人』にしても、43歳の作。
読了日:04月07日 著者:D.H. ロレンス
和モダンvol.9 木を生かした住まいの感想
和風の家、というより、木の家が好き。折々、眺めてはため息をついている。
読了日:04月06日 著者:
漱石書簡集 (岩波文庫)の感想
本書を手にしたのは漱石の人徳に触れたくて。頑固なまでに正直。相手が奥さんでも同じように率直な物言い。相手への理解力。自分の性格や欠点の自覚。
子規はもちろん、虚子、芥川や武者小路実篤、寺田寅彦、和辻哲郎など、高名な人物との交流も興味深いが、彼がロンドンへの留学を経て、文学者というか作家として生きることを決心し、苦闘する場面が興味を越えて励まされる。
読了日:04月05日 著者:夏目 漱石
哲学書簡 (岩波文庫 赤 518-2)の感想
ヴォルテール著の『哲学書簡』を27日、読了した。クエーカー教(徒)の話、ニュートンの万有引力理論の齎した衝撃の大きさ、痘瘡(種痘)の話など、興味深い話題が満載。
今日は、書評や感想ということではなく、彼による、パスカルの「パンセ」評を少々、メモっておく。
読了日:03月27日 著者:ヴォルテール
女系図でみる驚きの日本史 (新潮新書)の感想
今朝、未明読了。「源氏物語」を読んで本書を読むと、なんだか実感めいたものを覚えた。
読了日:03月24日 著者:大塚 ひかり
カラー版日本文学全集3 源氏物語 下巻の感想
「源氏物語」で、男どもが女漁りに目の色を変えるのは、女色を求めてということもあるが、女のバックにある血筋や財力を得んがための必死の権力(地位)上昇志向の表れでもあるという。だから、自らの地位などをいいことにレイプも当たり前のようにやってのける(女の周囲にいる女房らも、とんでもないと呆れつつも見て見ぬふりである)。
読了日:03月23日 著者:与謝野 晶子
風土記 (上) 現代語訳付き (角川ソフィア文庫)の感想
読了した。
先月上旬から、与謝野版「源氏物語」を読んでいる。「古事記」や「万葉集」を始め、日本の古典を読むのは、歴史や古代史への関心もあるが、日本語の形成や語彙、語感、音韻、表現、和歌などに見られる、五七五七七という音の連なり、人々の繋がりに係わる歌謡の要素、素養のない小生だと駄洒落になりかねない「掛詞」という遊びなど、味わうべき要素は多岐に渡るからでもある。
読了日:03月21日 著者:
天才の心理学 (岩波文庫 青 658-1)の感想
車中で読むにはやや理屈っぽい内容だったが、テーマが興味深くて、案外とすらすら読み進めることができた。
内容に古さも感じたし、言うまでもないことだが、精神医学であろうと、天才の創造性にどこまで迫れるかは最初から疑念も抱かざるを得ない。
小生が興味深いというのは、いろんな天才たちの意外な素顔を知れたから、という点が大きい気がする。
読了日:03月19日 著者:E・クレッチュマー
オリバー・ストーンが語る もうひとつのアメリカ史 2: ケネディと世界存亡の危機 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)の感想
歴代のアメリカ大統領は、軍の暴発ぶりやCIAらの愚かさに踊らされていた。つくづく、アメリカって国は軍(産軍複合体)と富裕層と石油などの資源産業界の勝手放題な国だと痛感させられる。
ベトナム戦争でのアメリカ軍(兵)による有名なソンミ村虐殺事件。「このとき大勢の女性がレイプされた。虐殺行為が長時間におよんだため兵士たちは殺戮やレイプを一時中断し、昼食をとって一服するために休憩した」。ソンミで繰り広げられた蛮行は、アメリカ軍にとっては典型的な掃討作戦だった。
読了日:03月12日 著者:オリバー・ ストーン,ピーター・ カズニック
知られざる地下微生物の世界 ―極限環境に生命の起源と地球外生命を探る―の感想
実際に通して読んでみて、昨日、書いたように、「知られざる地下微生物の世界 ―極限環境に生命の起源と地球外生命を探る」というより、「知られざる地下微生物の世界 ―極限環境に生命の起源と地球外生命を探る研究者たちの日々」と改題したいくらいだった。肝心の「地下微生物の世界 ―極限環境に生命の起源と地球外生命を探る」ことは書いてあるのだが、研究者らの鉱山の深い坑で細心の神経を払って地中(岩などの)サンプルをゲットする苦労ぶりや、研究の成果を発表するに際してのぎりぎりの詰めなどに紛れて、得たいはずの情報が得づらい。
読了日:03月07日 著者:タリス・オンストット
ありえない138億年史の感想
「今あるこの世界を理解するには、物理学や化学を超えて、地質学や古生物学、生物学、考古学、天文学、宇宙学などの歴史科学の領域から人間の歴史へと目を向けるべき」という、ビッグヒストリーという発想。こうした試みは、まさに自分が求めていたもの。
学際の典型と言うべきか。こうした本を読んでいきたい。
読了日:03月02日 著者:ウォルター・アルバレス
狂雲集 (中公クラシックス)の感想
本夕になって、本文は読了し、注釈に突入。素養のない人間(自分のことである)には、敷居の高い本。詳細丁寧な注釈をいちいち参照していたら、とてもじゃないが、先へ進めないと、本文のみまず読み切ることに専念してきた。
それでも、数か月を要した(休み休み…長い中断をはさみつつ)。
そうはいっても、座右に置いてから、あまりに長すぎる。この一週間、集中的に読んだ。読んだと言える自信はなくて、字面を眺めただけ。それでも、一休禅師の痛棒を受ける思いでいただけでも、本書に対面し続けた意義はあったと思いたい。
読了日:02月28日 著者:一休 宗純
カラー版日本文学全集2 源氏物語 上巻の感想
読みだした当初、現代の常識人の感覚で読んで、源氏らの言動に辟易もし、とんでもない奴だと憤ったりもした。が、読み友のアドバイスもあり、平安時代の物語なのであり、その世界に没入することが大事と、自分の窮屈な倫理道徳観ではなく、当時の宮中のど真ん中で生きる人たちのドラマであり、心の絵巻物として読むようにしたら、やはり、さすがの作品だと実感するようになった。感想めいたことなど、吾輩ごときには書けない。まずは、下巻へ突入である。
読了日:02月28日 著者:与謝野 晶子
日本の土偶 (講談社学術文庫)の感想
1990年の本で、情報は古いかもしれないが、写真が豊富で、読むのもだが、多種多様な土偶を見るのが楽しかった。出産という営為は、昔は(今もかもしれないが)命懸けのことだった。出産で命を失う女性も多かったようだし、子供が無事に生まれるかも神(や仏)に祈るしかない。
もっとも当時は仏さまはいなかっただろうが。
読了日:02月27日 著者:江坂 輝彌
ある島の可能性 (河出文庫)の感想
ウエルベックは、SF的な舞台で極端な状況を設定することで、極限状況での人間性を露わにしようとする。
本書では、、カルト教団だからこそのカネに糸目をつけな研究施設で遺伝子が保存されることで、原理的には人は永遠の命を得る、という設定。
カルト教団の教祖が猿山のボスのような存在になることで、ネオ・ヒューマンたちの集団はユーモアや性愛の失われた世界で生き続ける。教祖(ボス)だけは、集団を率いるための虚構を保ち続けなければならないし、性愛を一手に引き受けて子をなしていかないと集団が成り立たなくなる。
読了日:02月21日 著者:ミシェル ウエルベック
昭和天皇の戦争――「昭和天皇実録」に残されたこと・消されたことの感想
本書「あとがき」の最後で、著者は、「当時の天皇を頂点とする仕組みは、大戦争を行うにはあまりにもキャパシティーに乏しく、刻一刻変化する戦況に対応するにはあまりにも風通しの悪い硬直したものであった。「実録」を読みながら、システムとして状況に対応できない日本のあり方が改めて浮き彫りになったといえよう」とする。
的確な結論かもしれないが、やや穏当すぎるような気もする。あと、「実録」には、写真が一枚も載っていないとか。これは変だし、せっかくの機会なのに、勿体ない。
読了日:02月15日 著者:山田 朗
パンセ (中公文庫)の感想
久しぶりに読んだ。とんでもない科学の天才。が、彼には科学や思想より宗教にのめりこむ。病と闘いながら宗教や信仰を極める。痛みを忘れるため数学に集中したりしつつ、神への信仰の絶対性を説く。そこまで説くというのは、神を絶対的に信じているのだろうし、神の絶対性が揺らぐ事態への危機感があったのだろう。その背景には、神なき世への不安があるのだろう。際限のない宇宙と、どこまでも終わりのない微細な世界。人間は常にその中間で揺らぎ続ける。悪と善、神と不信、美と醜。そう、何処まで行っても人間は中間者なのだ。
読了日:02月12日 著者:パスカル
地球はなぜ「水の惑星」なのか 水の「起源・分布・循環」から読み解く地球史 (ブルーバックス)の感想
水の惑星・地球についての最新の研究成果が(理科系乃至理科好きの)高校生レベルの知識があれば理解できるよう、数式を用いず解き明かしてくれている。
分かってきたかなりの知識と、解明を待っている課題も併せ、丁寧に説いてくれていることに(文科系の大学に進んだ)小生は好感を抱いた。
地球は水の惑星と言いつつ、水(水分)の大半は海水であり、真水は実は乏しい、なんて俗説くらいは小生も持っていたが、実は、地殻の下に広がるマントル層や核の部分にも水が少なくとも海水に匹敵する量の水が(数倍とも)含まれるという。
読了日:02月10日 著者:唐戸 俊一郎
文明に抗した弥生の人びと (歴史文化ライブラリー)の感想
本書が示すのは、「弥生時代研究は百花繚乱のさまを呈している」とか、「弥生時代のはじまりについての議論の範囲を紀元前10世紀にまでさかのぼ」っていること、「弥生時代の最初の数百年間は、金属器のない時代、すなわち世界的な時代区分でいうと新石器時代に属する可能性がきわめて高くなった」ことなどである。
さらに「従来の「日本で食糧生産を基礎とする生活が開始された時代」という弥生時代の定義に対して、さまざまな異論がもたれはじめている」というのだ。
読了日:02月06日 著者:寺前 直人
ハーフ・ブリードの感想
本書についての感想は、気軽には書けない。実に重い本だった。著者の本を読むのは初めてなのだが、前から気になっていた方。ようやく手にすることができた。
感想というより、学ぶべきことが多かった気がする。
トランプ大統領の出現で、メキシコとの国境の壁がホットな話題になった。アメリカとメキシコとの国境は、長い諍いの歴史がある。
そもそも、米墨戦争で、国家が疲弊していたメキシコは、圧倒的な火力を持つアメリカに勝ち目はなかった。米墨戦争は、アメリカの侵略戦争の歴史の大きな一頁だったわけである。
読了日:02月05日 著者:今福龍太
日本‐呪縛の構図:この国の過去、現在、そして未来 下 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)の感想
実に読むに値する本だと、上巻共々実感させられた。
日本人には、特に既得権益に固執する政治指導者層には耳が痛い意見も多々含まれる。それでも、心ある人には読んでほしいと思う。
下手な感想など要らない。
過日、本書からほんの一部を抜粋して示した: http://atky.cocolog-nifty.com/bushou/2018/01/post-aa62.html
読了日:02月02日 著者:R. ターガート マーフィー
顔面考 (河出文庫)の感想
内容案内によると、「観相学、替え玉妄想、ドッペルゲンガー、生来性犯罪者、醜形恐怖、人面犬・人面疽、整形手術、マンガやミステリに描かれた顔」など、話題が豊富。「博覧強記の精神科医が、比類なき視座から綴ってみせた、前人未到の〈顔〉論にして、世紀の奇書」だとか。
世紀の奇書というのは、やや大げさという気がする。議論が深まらず、話題が多岐に渡り、話が総花的な印象が強い。
感想を改めて書く気になれない。
読了日:01月28日 著者:春日 武彦
我々はなぜ我々だけなのか アジアから消えた多様な「人類」たち (ブルーバックス)の感想
本書は、フリーランスの文筆家が、アジア(特にインドネシア)の発掘現場へ取材に赴き、最新の研究の様子を伝えようというもの。特に、監修の海部陽介氏からの、ホットな情報は大きなウエイトを占めている。それだけに、内容は手堅い。やや、取材者の内幕話が過ぎるかなという感はあったが、それも、発掘現場へのアクセスなど研究者の苦労を偲ばせると思うべきか。
読了日:01月24日 著者:川端 裕人
日本‐呪縛の構図:この国の過去、現在、そして未来 上 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)の感想
上巻は、呪縛の構図に嵌るに至る、これまでの日本をざっと見渡している。
それなりに日本の歴史を知る者には、時にざっくりし過ぎていると感じるかもしれない。
しかし、天皇陵が公開されないのは、万世一系という建前が、天皇陵を発掘調査研究されることで崩れる恐れがあるからと、率直な指摘を遠慮なくする、そんな口吻が続く点が面白い。
読了日:01月21日 著者:R.ターガート マーフィー
走ることについて語るときに僕の語ること (文春文庫)の感想
仕事があまりに暇で、残りの130頁ほどを読み終えてしまった。どうする? うちに帰って、別の本と交換してくるか? さすがに本書の感想は、明日。帰宅してからにする。春樹さん、熱心なマラソンランナー、トライアスロンランナーでもあるんだね。墓銘碑に作家でランナー、最後まで歩かなかったと、刻んでほしい、だって。
読了日:01月20日 著者:村上 春樹
H(アッシュ) (徳間文庫)の感想
姫野 カオルコの本を読むのは初めて。前から気になる作家だったので(それに、今では死語かもしれないが、女流作家の本を読むのが大好き)、勧められたこともあって、本書を手に取った。タッチ的にはエロ小説っぽい。下手すると、裏ビデオを小説化したのではと誤解されかねない(ちなみに、吾輩はエロ本、春本、大好きである)。そこは、彼女流になのか(ほかの本を読んだことがないので、判断のしようがないが)、ややありふれた男女間の恋愛沙汰を達観したような作家(女)の、同性を見る目の厳しさ、えげつなさもあり退屈はさせない。
読了日:01月19日 著者:姫野 カオルコ
ウンベルト・エーコの小説講座: 若き小説家の告白 (単行本)の感想
本書には、エーコの小説論を分かりやすく過去の例を引きながら説明してくれている。だから、訳者は、敢えて、小説講座としたとか。
納得したところもなくはないが(第三章の「フィクションの登場人物についての考察(アンナ・カレーニナのために泣くということ」など)、一番、違和感を覚えたのは、第四章の「極私的リスト(実務的リストと詩的リスト 列挙の修辞 ほか)」だった。
読了日:01月18日 著者:ウンベルト エーコ
世界は細菌にあふれ、人は細菌によって生かされるの感想
細菌学(研究)は、今、科学に関し一番ホットな分野の一つではなかろうか。出産に際し、母から子へマイクロバイオームを移すとか、腸内環境を整えるため、健全な人の糞便を採取し、不調な人の腸に直接移植する、あるいは経口で移すといった、一部で話題になっている研究についても、その研究や治療の現況を丁寧に教えてくれている。
取材の幅広さ、ホットさ、丁寧さは、エド・ヨン氏ならではのものだろう。
読了日:01月14日 著者:エド ヨン
ペストの記憶 (英国十八世紀文学叢書[第3巻 カタストロフィ])の感想
ドキュメントタッチの作風になっている。語り手は虚構の人物らしく、イニシャルが示されるだけだが、どうやらデフォーの伯父から少年時代に聴いた話らしく、語り手も伯父を想定できるようだ。
本書は、ロンドンでのペストの大流行の悲惨な状況を伯父から聞いて知悉していた。 実際に書かれたのは(刊行されたのは)、1722年。
実は、ロンドンには飛び火しなかったものの、ヨーロッパ大陸でペストが大流行し、危機感を覚えたデフォーが、ロンドンの人びとに警鐘を鳴らす意味で、大急ぎで本書が書いたという。
読了日:01月11日 著者:ダニエル・デフォー
宇宙が始まる前には何があったのか? (文春文庫)の感想
宇宙論の世界では、ビッグバンはもちろんだが、インフレーション理論も既に、データや観測で強固に裏付けられ、仮説の段階は脱している。
それだけではなく、一旦、インフレーション理論を事実として認めると、インシュレーションが一回限り発生したと考えること自体、不自然であり、沸騰するお湯に泡が無数に湧くように、インフレーションする宇宙が無数に生まれたと考えるしかないという(そう考えるのが自然なのだとか)。
読了日:01月10日 著者:ローレンス クラウス
大伴家持 - 波乱にみちた万葉歌人の生涯 (中公新書)の感想
古代史や万葉集に関心があるし、なんと言っても大伴家持は越中国司として赴任し、越中滞在中、万葉集に収められている家持の歌、約470首のうちの半数を作った。但し、我輩の一番好きな万葉歌人は、柿本人麿。
ただ、著者が富山県(立山町)の出身者であるということ、何と言っても、扱われている人物が大伴家持であるだけに、手に取るしかなかった。
これまでも、柿本人麻呂関連ほどではないにしても、大伴家持や万葉集を巡る本を読んできた。
読了日:01月08日 著者:藤井 一二
読書のすすめ (岩波文庫)の感想
現役の方もいるけれど、多くは一昔前の作家、学者、評論家など。さすがに読書への考えも独特だし、早熟だったり。自分が本を読み始めたのは、かなり遅まき。高校生の頃、勉強より読書に溺れていった。世界の名著(中央公論)が刊行され始め、これがグッドタイミング。出る順に読んでいった。大学生になって、英語のほか、ドイツ語、ラテン語を学んだ。でも、実に付かなかった。哲学を専攻していて、原書を読む重要性を痛感していたのだが。日本はもちろん、ロシアなどを含む欧米の書を読んでいったけど、原書には手が出なかった。それが悔い。
読了日:01月06日 著者:
ゲノムが語る人類全史の感想
実に堅実な内容だった。ゲノム研究であろうと、万能なはずもない。過度な期待も、早計な失望も無用。何と言っても学なのであり、分かったことも少なからずだが、分からないことも山ほどあるのだ。読めば読むほど、ゲノム研究から見えるものへの期待と、過大な期待への戒めを感じた。
本書の末尾に、篠田謙一氏の日本に焦点を置いた説明が載っていて理解に資する。ただ、同じ同時に、篠田謙一氏は欧米に比べ、日本のゲノム研究の体制の遅まきぶりや弱体ぶりをも強調されていた。
読了日:01月03日 著者:アダム ラザフォード,篠田 謙一
無意識の幻想 (中公文庫)の感想
読んだとは到底言えない。ロレンスの世界にまるで入っていけないのだ。彼の小説は好きで、若いころ、(ほとんど)助兵衛心というか、好奇心で伊藤 整訳の『チャタレー夫人の恋人』を読んだ。何年かして、完訳版で再読し、その前後には、『息子と恋人(息子たちと恋人たち)』も読んだ。高名な作家でも、小説も評論も面白いとは限らない。代表的なのは、ドストエフスキーで、彼の小説は全作品を最低でも3回は読んだが、彼の作家の日記だけは読み浸れなかった。主義主張を始めると、途端に詰まらなくなるのはどうしたものだろう。
読了日:01月02日 著者:D・H・ロレンス
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