李承雨『植物たちの私生活』に魅了
← 李承雨 (イ・スンウ)著『植物たちの私生活』(金順姫 (キム・スニ)訳 藤原書店) 「すべての木は挫折した愛の化身だ…。」
李承雨作の『植物たちの私生活』を読了した。
土日と連休だったので、土曜日から日曜日の朝にかけて一気に。
本作の冒頭は、かなりショッキングな叙述が続き、苦しくなるほどである。国家に異を唱える言動をしたと、逮捕され拷問された挙句、危険な戦地へ送られる。案の定、被弾し足を喪失する。
そうした兄を持つ弟が小説の語り手である。絶望的な状況に家の一室で苦悶の日々を送る兄。そんな兄と兄の恋人を巡って複雑な感情を持て余す弟。
正直、怒涛といっていい場面の連続する最初の数十頁に読むのを止めたいと思ったものだ。
身体に障害を負う人物を巡る小説は、他人の足 (大江健三郎) 芋虫 (江戸川乱歩)ボーン・コレクター(ジェフリー・ディーヴァー)などいろいろある。
本書もそうした、身体的不自由に陥った人物を巡る類の、表現は不適切だろうが、辛気臭い小説なのか。
植物たちの私生活とは、移動する手段である足を失った人たちをあからさまに暗喩する題名に留まるのか。多少の身体的不自由があったって、愛があれば、広い世界の豊穣さを知れば、心豊かに生きられるよという押しつけがましい結末でエンドする、ありきたりの小説なのか。
→ 紅葉したモミジ、この二三日の風雨で一気に枯れ木状態に。新陳代謝などは、来春までは冬眠かな。
が、読み進むうちに全く違うことが叙述を通じて分かってくる。愛の物語ではあるが、愛する人に愛されるとは限らない、愛する人が他の人を愛する痛切な現実はあり触れたこと。どんなに愛しても愛が叶うとは、実るとは限らない。けれど、だからといって愛することはやめられない。
そうした愛の現実の悲惨を息を搗かせぬ展開で読者を引っ張っていく。複雑に交錯する愛の悲劇の、土壇場の結末 とは……。
解説などによると、あのル・クレジオが李承雨を高く評価しているという。ドラマチックな小説など書かないル・クレジオのことだ、李承雨の作品の文章力・表現力を褒めているに違いない。
とにかく読ませる作品だった。
← 福永 武彦編訳著『今昔物語』 (【解説: 池上洵一 】 ちくま文庫 筑摩書房) 拙稿:「『今昔物語』:風のかたみ」
福永武彦編訳の『今昔物語』(ちくま文庫)を日々数十頁ずつ読み進めている。面白い。
これはある日の呟きだが:「今昔物語」の中の物語の一つに出てくる勧修寺が実在しているなんて。興味深い。歴史と物語を象徴する寺がある。ゆかしい。
そんな京都が羨ましい。京都生まれ…せめて在住だったら、地元を散歩するだけで古今の歴史に触れられる。
富山生まれの小生。富山にゆかりの歴史や伝統はないことはないが、その土地が歴史の舞台であるような土地を見出すのはなかなか厳しい。
特に昨年、バイクを入手したことで、富山を知る旅に月に二度は出ている。富山とは!
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