赤いシーラカンス
→ 小林たかゆき作「題名不詳」 (画像は、「小林たかゆき お絵かきチャンピオン」より)
「赤いシーラカンス」
不思議の海を泳いでいた。粘るような、後ろ髪を引かれるような海中にもう馴染み切っていた。
髪を掴まれて、何処へでも流れていったって構わないはずだ。
なのに、妙な意地っ張りな心が前へ、前へ進もうとする。
緑藻の長い腕が、ビロードの肌で絡みついてくる。紅藻が乳糜を沁み出して呑んでいきなさいよって、誘っている。
うっかり呑んでしまっていいんだろうか。思い切って、乳首にしがみついて、ちゅるちゅるしちゃっていいんだろうか。
ああ、でも、あいつのことがある。つい誘惑に負けて口に銜えたばっかりに、奴は唇が裂け、喉までが裂けてしまった。咽頭弁がズタズタだったっけ。
あれは乳糜なんかじゃなかった。胃酸が肉壁を溶かし突き破って溢れ出していたんだ。
渇いている。肉体が欲している。しがみつきたいし、押し倒したいし、突っ込みたいし、全てを吐き出してしまいたいのだ。
海綿体が憤懣に今にも破裂しそうだ。御影石に傷つけたくてならない。
ああ、海水なんてもんじゃない、膵液だ。肉も骨も融かそうとする。魚はすり減った鱗を撒き散らしながら、流れ去っていく。
唾液が丸まって泡になって浮き上がろうとしている。溜息が煮え滾る泡となって波間を飛び去って行く。
赤い腰巻き姿の女が妖艶な笑みを浮かべて待っている。飛び込めばいいのよ。待っている、待ち草臥れているんだから、もう!
髄液が亀裂の底へ流れ込んでいく。食べたばかりの肉が、肉汁が染み出してくる。喉へ流れていかないのか。下鼻甲介にまで胃液が溢れ出す。
鼻の穴の中で、赤と黒の闇がまぐわっている。もんどりうって、口の中にまで落ちて行っちゃったよ。
(冒頭の絵を観ながらの冥想。)
← ルソー (著)『告白録〈中巻〉』(井上 究一郎 (翻訳) 新潮文庫) 手元の本は、昭和55年となっている。上京して間もないころに買って読んだようだ。
ルソー 著の『告白録〈中巻〉』を読了した。
30年ぶりの再読。
ルソーのご都合主義的な弁解に辟易する。
それでも、確かに黙っていたら、誰にも知られずに済む秘密の暴露はあるのは確か。
内縁の妻(のちに結婚したが)に産ませた5人の子供たちを次々に託児所に預けて、このほうがよかったというのは、強弁だろう。
本書の半ばころから、ルソーの神経衰弱気味な被害妄想お記述が増えてくる。
でも、被害妄想とも言い切れないのかもしれない。思想的に危険でもあったし、自分でも散々愚痴っているように、人付き合いは苦手だったから、他人から変人扱いされるのも仕方がなかったのかもしれない。
内縁の妻の家族が、特に妻の母親らが、ルソーにパラサイトして、妻への(時にはルソーへの)実入りをどんどん、自分たちのものにしてしまうんだもの。こりゃ、神経が磨り減るって。
それにしても、ルソーの音楽好きは、病膏肓に入るレベル。自分でも自信があったようだ。
どんなオペラだったのか、怖いもの見たさで観劇してみたいものだ。
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