『豊乳肥臀』は莫言版「戦争と平和」だ
→ 快晴微風。バイクを駆って、木曽義仲の活躍で有名な源平の合戦場へ行ってきた。俱利伽羅峠の戦いの行われた地である。「倶利伽羅峠の戦い - Wikipedia」によると、「倶利伽羅峠の戦い(礪波山の戦い)は、平安時代末期の寿永2年5月11日(1183年6月2日)に、越中・加賀国の国境にある砺波山の倶利伽羅峠(現富山県小矢部市-石川県河北郡津幡町)で源義仲軍と平維盛率いる平家軍との間で戦われた合戦。治承・寿永の乱における戦いの一つ」である。ほどよい気温でバイクに吹き付ける空気が気持ちいい。
その感想に変わりはないが、下巻に付せられた自身による文学的な影響や傾倒を語る言によると、「マルケス、トルストイ、フォークナー、ショーロホフ、カフカ……。日本の作家では、川端康成、水上勉、谷崎潤一郎、大江健三郎など」の名を挙げている。
中国では、大江健三郎が言及していた作家として、『古井戸』の鄭義(ジョンイー)の名前もあがっている。
← 木曽義仲による火牛の計などで有名な合戦場。「倶利伽羅峠の戦い - Wikipedia」によると、「義仲軍が数百頭の牛の角に松明をくくりつけて敵中に向け放つという、源平合戦の中でも有名な一場面」のこと。但し、史実かどうかは怪しいとか。
ショーロホフはともかく、トルストイは、一瞬、意外の感もあったが、当然ながら挙げるべき作家だと納得した。
本書『豊乳肥臀』は、誰かが言っていたように思うのだが、現代版且つ中国版(いうまでもなく莫 言版)の「戦争と平和」なのである。カフカ的な不条理もたっぷり過ぎるほど書き込まれている。
但し、カフカ的寡黙さは、欠片も見いだせない。ひたすら喧騒の場面と言動の連続である。
トルストイ的な芸術的美的完成度なんて、何処をどう探しても見いだせないという感想を抱く人がいても吾輩は不思議とは思わないが、それでも、中国の作家によってこそ書かれるべき、中国の負の側面をデフォルメしつつも描き切った作品なのだと思う。
→ この一見すると風景明媚な眼下の眺め。自分が立っているのは、丘の上の本陣付近。が、この崖下に、多くの平家の武士たちが追い詰められ討ち死にした、地獄谷がある。流れた血や膿が辺り一面を埋め染め上げた。
中国を侵略した日本軍のことも、『赤い高粱』同様描いているが、ドイツ兵への憎しみも描いているし、中国の戦前戦後を描こうと思えば、不可避の課題だろう。
だが、本書では、共産党と国民党の戦いの悲惨や愚を描いているし、毛沢東のとてつもない政策的失敗も余さず描いているのだ。
繰り返すが、やはり、本書は、現代版且つ中国版(いうまでもなく莫 言版)の「戦争と平和」なのである。
ところで、「豊乳肥臀」は、豊かなバスト(から出る母乳)であり、豊かで美しいお尻である。
バストや母乳については、これでもかと描かれている。そもそも主人公からして、高校生になるまで母乳を欠かせず、授業中に母親がやってきて、おっぱいだヨと叫ばれ、大恥をかく印象的な場面がある。マザコンなのだろうが、病気でもある。
ポパイがホウレンソウを食べると勇気凛々となるのをつい思い浮かべてしまう。
ま、これは、主人公はマザコンの人物である以上に、たくましく生きた母親こそがホントの主人公なのだろう。母乳を与える母の姿。母乳は血の成り代わりなのだと、幾度も強調されているのだ。血を贖って子育てをしている。それは、血を贖って中国が激動の近現代を生き抜いてきたことと何処か重なっているようでもある。
← 「源平倶利伽羅合戦図屏風」 画像が粗いのは、現地で看板の絵を撮影したから。「倶利伽羅合戦」などを参照願いたい。ちなみに、現地もだが、「津幡町では、NHK大河ドラマ化を目指して「義仲と巴」の誘致推進を展開してい」ることを付言しておく:「津幡町観光ガイドNHK大河ドラマ「義仲と巴」誘致推進」
では、肥臀はどうだろう。全くといっていいほど、吾輩の期待を裏切って、お尻がデーンと描かれる場面が出てこない。がっかりである。
まあ、ここは、隠れた、しかし大事な主人公である中国大陸が臀部なのだろう(と思っておく)。
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