イザベラ・バード著『朝鮮紀行』読了
← イザベラ・L・バード【著】『朝鮮紀行―英国婦人の見た李朝末期』(時岡 敬子【訳】講談社学術文庫) 「イザベラ・バード著の『朝鮮紀行』を読み始めた」など参照。
イザベラ・L・バード著の『朝鮮紀行―英国婦人の見た李朝末期』を二週間余りを費やして、本日(30日)読了した。
実に読みごたえがあったのは、この数年前に読んだ、イザベラ・バード 著の『日本奥地紀行 』と同様、あるいはそれ以上か(拙稿「イザベラ・バード『日本奥地紀行』を読む(前編)」など参照のこと)。
彼女は、往時の日本を、朝鮮から中国(清、満州)を、さらにはトルコを旅してまわった。
偉丈夫? とんでもない。「イザベラ・バードからのメッセージ」によると、幼いころから病弱で、脊椎を病み、22歳以降の旅行は、医者の勧めで転地療養の意味もあったとか。
だが、列車や車などでの移動ではない。馬や船、日本では人力車も多用したというが、いつも利用できたわけではないし、山岳地帯を手探りで分け入ったこともあるし、そもそも脊椎を病む体には、馬だって長時間の乗馬だとつらいものだったろう。
詳しくは、本文でだが、「イザベラ・バードからのメッセージ」など参照願いたい。
古来より(中国はもとより)朝鮮の人びとと列島の我々との結びつきは強い。
渡来人という形で、我々ヤポネシアを形成するに朝鮮の人びとの影響は想像以上に大きかっただろう。
吾輩は、自分の遠い祖先の面影を追い求めるように、『日本奥地紀行 』を、そして本書を読んだのである。
本書を読んで日本の人びととの違いを感じることも多かったが、政治体制が(官僚らの腐敗で)あまりに惨憺たるもので(民衆からの搾取や役職の売買の横行、)、まじめに働く者が損を見るという現実がもたらした面が大きいと感じた。
それは、当然、中国やロシア、海を越えて日本などとの緊張関係が、潜在的な能力や可能性を糊塗せざるを得なかったのかもしれないと推測される(下手に裕福さが目立つと役人や支配者に搾り取られるだけ)。
本書の最後で、清朝やロシア、英国との関りと比べ日本の生真面目すぎる、能率的で正義を志向する改革が、朝鮮に与えた影響をバードが冷静に分析しているのが印象的だった。
朝鮮紀行というが、自然観察だけじゃなく、風俗から文化、宗教(習俗、民間信仰)、経済、政治制度、政変、人的関りも含め、分析や観察が実に深く精細だ。「イザベラ・バードからのメッセージ」にもあるように、歴史的現場の中枢近くにまで食い込んで、事情を世界に発信し得る立場にあった……軍事外交情報エージェントの性格もあったようだ。
本書でもそうだが、朝鮮の民衆の好奇心の強烈さ。彼女が通ると、どこかの家の中に落ち着いても、無遠慮に覗き込み、入り込んでくる。その好奇心の強さという点では、『日本奥地紀行 』でも、日本の民衆の好奇心の強さに辟易したと書いていた。
その好奇心の強さが探求心の強さ、やがては生活向上へとつながっていくのだろうか。
← イザベラ・バード 著『日本奥地紀行 』(高梨 健吉 訳 平凡社ライブラリー 東洋文庫)(h画像は「Amazon.co.jp: 通販 」より) 「週刊東洋文庫1000:『日本奥地紀行』(イサベラ・バード著、高梨健吉訳)」 「日本奥地紀行 イザベラ・バード」拙稿「イザベラ・バード『日本奥地紀行』を読む(前編)」
拙稿「イザベラ・バード『日本奥地紀行』を読む(前編)」より:
本書においては、日光などの紀行文が、印象的だし、しばしば日本において参照されるが、実際は、そうした当時としても有名な土地より、当時としては無名な土地の紀行こそが、貴重な資料となっているし、読み応えがある。
大方の日本人の貧しさ、夏などほとんど裸同然の恰好になるが、ノミ・シラミ・アリなどの虫に対しては無防備で、虫刺されなどの傷跡が全身に見られて、「日本人の黄色い皮膚、馬のような固い髪、弱弱しい瞼、細長い眼、尻下がりの眉毛、平べったい鼻、凹んだ胸、蒙古系の頬が出た顔形、ちっぽけな体格、男たちのよろよろした歩きつき、女たちのよちよちした歩きぶりなど、一般に日本人の姿」を一層、見るに耐えないものにしている、という。
(ついでながら、馬も、裸なので、虫には苦しみ、人が乗っていようと、荷物を載せていようと、痒いとなると、いつ何時でも急にその場に倒れて転げまわる。そのとばっちりをバードも何度も食らっている。)
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