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2017/12/23

荻上チキ著『彼女たちの売春』に感銘

 荻上チキ著の『彼女たちの売春』を読了した。
 テレビなどでは硬派な社会派の発言でこの数年、活躍が目立つ同氏に、風俗を巡る著書があることに驚き(驚く自分が認識不足だっただけなのだが)。

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← 荻上チキ/著『彼女たちの売春』(新潮文庫)

 同氏は、長年に渡って売春(ワリキリと読む)などに走る女性たちを取材してきた。
 面識のない女性たちにあの手この手でアポを取り、ドタキャンに真っ暗になったりしながらも、東京だけじゃなく地方でも取材を重ねてきた。毎年そ百人以上を十数年、既に通算すると3,000人を超えるという。

 こうした取材を始めるに大きな理由はなく、ある日、「そうだ、取材してみよう」と思い立ったからと、本書(第一章)にはある。
 同時に、そうした思い付きの背景には、「親」友や元恋人に風俗嬢や売春女性がいたことも関係していただろうし」、「売春に関するダメな議論の数々に苛立った経験も関係しているだろう」とした上で、さらに、「好奇心もあるし、元恋人らへの懺悔の気持ちもある」と本書に書いている。

 元恋人らへの懺悔というのは、ただならぬ言辞だ。残念ながら、本書にはその点への詳しい説明はない。
 ただ、思い付きと言いながら、本気な気持ちだけは汲み取れる。

 本書については、出版社の内容案内によると、「風俗店などに属さず、出会い喫茶や出会い系サイトで知り合った客相手に行う、個人売春=ワリキリ。彼女たちはなぜこの稼ぎかたを選んだのか。都市や地方で女性たちに取材を続けた結果、貧困、精神疾患、DV、家庭環境などの様々な要因と、問題を直視しない社会の姿が浮び上がる――。女性個人の事情として切り捨てず、社会の問題として捉え直すために見つめた、生々しく切実な売春のリアル」などとある。

 ちなみに、同氏は評論活動も活発にされているが、同時に、「ラジオ番組「荻上チキ・Session-22」(TBSラジオ)パーソナリティ。同番組にて、2015年度、2016年度とギャラクシー賞を受賞(DJパーソナリティ賞およびラジオ部門大賞)」という経歴が光る。

 実は小生、同氏がラジオ番組で活躍されていることを知らず、先週だったか、偶然、他局の番組に飽いて、それまでほとんどオンにしたことのない局を選択してみたら、なんと荻上チキ氏がパーソナリティだったことを偶然知った次第。
 以来、オンエアーの時間が来ると、その局の番組に周波数を合わせ、聴いている。
 そして偶然のように、「読書メーター」で同氏のこの本の存在を知ったのだった。

 本書について感想を書くのは野暮なような気がする。気持ちが荒んでいくようで辛い。
 ネット上では、下記が共感できるものだった(「Amazon.co.jp:カスタマーレビュー 彼女たちの売春(ワリキリ) 社会からの斥力、出会い系の引力」 ):

出会い系サイト。それを利用した人ならわかるかと思いますが、そこにはワリキリが繁栄しています。飛び交う単語は「条件」、「都度」。淡々とした売り物の性がそこにはある。誰かは「日本は豊かでこんな国に生まれたことに感謝しろ」と言うが、日本には露わになっていないだけで、精神的・経済的に春を、そして性を売ることで、一時的な気晴らしや食事にありつく手段を取る少女たちが確かに存在しているのだ。
私は興味本位で出会い喫茶に行ったことがあるが、著者の言うように、出会い喫茶はワリキリの巣窟だった。待機場にたむろする「彼女たち」は、一見普通な女性達。けれど、そんな彼女達は実は精神疾患を抱えていたり、物の考え方や価値観に歪みを持っていたりする。彼女達を助ける人間なんていない。世の中は、そんな彼女達に「自業自得」というレッテルを貼るばかり。助けてくれるのは、悲しきかな、性に枯渇したオヤジ達。
きっと心が悲しいんだろうな、彼女達は。そしてそれを買うオヤジ達も、きっと悲しいのだろう。
性を売るということについて考えさせられる一冊だ。

 インタビューされる彼女らの言動は興味津々だが、正直、本書の中で一番、感銘を受けたのは、出会い喫茶を考案した男性の語り。人に言えない過去を持ちながらも、余命いくばくもないと医者に言い渡されて、過去を反省し、居場所のない彼女らに搾取されない場(その実、売買春の場であることに変わりはないのだが)を損得抜きで提供しようとした。
 著者には申し訳ないが、本書を読む機会は持てそうにない方も、その男性のインタビューの部分だけは、せめて読んでほしいと思う。本書「第9章 出会い喫茶のルーツ」である。

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