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2017/02/16

井田川幻想

 街角に立ち尽くす女が居た。
 吹きっ晒しの風に深くかぶったフードが揺れる。
 時折、男が通り過ぎていく。

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 一瞬、顔を覗き込んでは、やれやれといった顔をして去っていく。
 遠慮のない奴は、フードを引っ張って、顔を晒そうとする。木枯らしより寒々とした男の目線に女は弱弱しげな眼差しで応えようとする。

 笑んでいるのか、それとも泣いているのか、オレには分からない。
 オレはただ、壁の陰から女を見守っているだけだ。
 誰か男があの女を連れ去っていくまで。

 もう、何時間、立ちっ放しだったろう。一体、何人の男が唾を吐きかけていったことか。
 女には、マッチの火を灯す奴もいない。爪に火を点す生活が見え透いて、見るからに哀れで、男が夢を見ることを許さない、そんな女に見えるのかもしれない。
 一人くらいは、女を買う奴がいたっていいじゃないか。女を何処かの宿に連れ込んで己の憤懣で骨の髄まで甚振ってやればいいじゃないか。

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 そうして、置き去りにして、何事もなかったように家路を急げばいいだけのこと。
 オレは女を凝視し続けた。女が売れないと困るのはオレなんだぞ! そう呟いていた。少しは媚びを売れよ。科を作れよ。お前の得意技じゃないか。それでオレを落としたんじゃないか。
 オレをこんなにして澄ました顔で、それこそ何事もなかった顔をして、別の男の下へ足繫く通っていたじゃないか。

 オレはただお前に同じことを目の前でやって見せろと言っているだけだ。
 お前の愁いを含んだような目なんて見たくもない。何もかもを失って、心なんて砕け散って、魂の輪郭だって溶けてしまって、それでオレに詫びたつもりなのか。
 オレはお前に堕ちてしまった。お前は、まるで無理心中のようにオレの腕を掴んで井田川の堤防から川の深みへと引きずり込んでいった。

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 一人っきりのオレ。独りぼっちのお前。でも、お前の肉体だけは、汗と涎とにまみれることができる。時に血の涙の池に溺れることだってできる。獣の熱い吐息に、あるいは腐った体臭に窒息だってできるんだ。買い手さえつけば!
 オレは、そんなお前をとことん見守ってやろうというのだ。これがオレなりの愛情なのだ。


[画像は全て、「小林たかゆき お絵かきチャンピオン」より]

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