「夢の久作」とは夢想家のこと
「ドグラマグラ」はすでに二度読んでいるがほかの作品は手にしたことがなかった。彼の世界は、江戸川乱歩や横溝正史、日影 丈吉らの世界に何か共通するものを感じる。濃厚な空気感や旧家や落魄した貴族の存在、謎めいた影ある妙齢の美女、探偵、今は無き因循な田舎……などなど。
← 夢野 久作著『押絵の奇蹟』(角川文庫)
そうした舞台設定が独特の鬱屈した、息の詰まるような人間関係を説得力あるものにする。そんな中、夢野久作は、父親が有名な玄洋社系の国家主義者の大物だったこともあって、政財界に暗躍する謎めいた人物を登場させることが多いような気がする。父親の圧倒的な存在感、しかも、何をやっているのかは息子であっても知れない闇の世界の手ごわさ。人間なんて、弁舌でどうにでもなる、手練手管が全てと高を括るような、強権的な父の前で委縮するしかなかったんだろうか。
その屈折した思いが小説……虚構……物語の世界に籠っている、と感じてしまう。
あるいは、小生の軽薄な勘違いかもしれないが。
実際には、夢野久作は、少なくとも政治の世界には足を踏み入れていない。きっと、全くの壁の向こうの世界だった、だから想像をたくましくするしかなかったのかもしれない。
← 夢野 久作著『ドグラ・マグラ(上)』(角川文庫)
彼のペンネームの夢野久作について。
「夢野久作 - Wikipedia」によると、「夢野久作」の筆名は、彼の作品を読んだ父・茂丸が、「夢の久作の書いたごたる小説じゃねー」と評したことから、それをそのまま筆名としたものである。「夢の久作」とは、九州地方の方言で、「夢想家、夢ばかり見る変人」という意味を持つ」とか。
実社会の裏側を知る父親には、夢野久作の世界は、どこまでも夢物語、夢想の織り成す世界に過ぎなかったのだろう。
← 夢野 久作著『犬神博士』(角川文庫)
上で、「ドグラマグラ」以外の作品は読んだことがないと、筆が滑って書いてしまっているが、本稿を書こうと、彼の本などを調べてみたら、ああ、これって買って読んだことがあると思い出してしまった。
必ずしも彼の作品世界に夢中になったわけではないのだが。
尚、夢野久作の作品はいずれも、青空文庫で読めるようである。
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