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2016/12/29

闇の海に輝けるは海女!

 慌ただしい日々の中、それでも読書だけは欠かさない。牛歩であっても、何かしら読む。
 ということで、この二日、二冊の本を読了するに至った。

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← 開高健/著『輝ける闇』(新潮文庫)

 一作は、開高健著の『輝ける闇』であり、もう一作は、大崎 映晋著の『海女のいる風景―昭和の美しい海の女たち』である。
 全く違う世界の本を同時並行して読んでいたわけである。

 本書開高健著の『輝ける闇』の内容紹介によると、「閃光と爆音、戦場のリアル。倦怠と銃弾と孤独。戦場から戦争そのものを描く世界文学の到達点」だという。
 確かに、開高氏の渾身の一作だとは感じた。しかし、読み進めるうちに、いよいよベトナム戦争の悲惨と残虐の実情に迫っていくというのに、段々白けてくるような感覚を覚えてきてしまった。

 せっかくのベトナム戦争への体験取材に根差すのに、何処か肩に力が入りすぎているというか、努力が空回りしているように感じた。つい先日、読了した村上春樹氏の『職業としての小説家』に示される創作の流儀とはまるで異質。村上氏は、あくまで内的動機などに淵源する創作意欲を大事にし、コツコツと淡々と創作していく(内心は、かなり苦しいものがあるのかもしれないが)。

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→ 本書に載っている画像の一つ。

 村上氏からすると、開高氏といった体験重視型の作家や、芸のためには女房も泣かすといった、修羅場の人間(男女)関係に創作のモチベーションを見出す、頼るような作家たちとは遠いものを感じてしまうんだろう。
 そして、自分もそんな遠さのようなもの、あるいは資質の違いを感じてしまった。

 さて、もう一作のほうの大崎 映晋著の『海女のいる風景―昭和の美しい海の女たち』に移る。

 人魚伝説の源は、世界(日本)各地に居ただろう海辺に出没する海女さんの裸の姿を垣間見ての、目を疑うような美に打たれてのことだったのでは、なんて思いたくなるほど、海女さんたちの逞しい体は美しい。
 浜の岩場や舟の上での姿も素晴らしいが、何といっても海中で獲物(アワビなど)を狙って、虎視眈々と泳ぐ姿があまりに悩ましい。
 裸のための裸ではなく、仕事に徹して鍛え上げられた肉体に垂涎である。
 本書は、NHKドラマで盛り上がった、”リアルあまちゃん”人気に便乗し、なつかしの海女文化を永遠にと出版されたようだ。

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← 大崎 映晋【著】『海女のいる風景―昭和の美しい海の女たち』(自由国民社) 大崎 映晋氏は、水中撮影家。 「いまはもう見ることのできない“裸海女”たちの競演。あの時代の輝いていた海女たちへの憧憬が、著者の写真と筆から生き生きと伝わる、渾身のフォト・エッセイ」! 本書内の画像などについては、「海女(あま)のいる風景」など参照。

 著者は、世界海中写真で何度も受賞された、その筋では有名な写真家である。海女文化に魅せられ、何十年も日本の海女関連の地を訪ね歩いき、撮影してまわった。映画にもなったし、映画も撮ったらしい。他にも著書があるようで、読みたいし、見たい。

 驚いたことに、大伴家持もだが、あの清少納言の「枕草子」にも、海女が取り上げられている。海女には、命綱で繋がる、多くは亭主か兄弟が舟で待機している。海女が命綱で合図を出したら、全力で引き上げないといけない。容易に想像が付くように、命が掛かっているのだ。
 が、清少納言は、舟で綱を引く男を、プラプラしているだけの情けない野郎と見下している。なるほど、大変なのは主役の海女だが、命綱を預かる亭主も真剣なのだ。且つ、普段は舟を出して魚を取ったりもする。元気な海女さんの夜の相手も頑張ってるんだろうし。

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→ 「週刊ポスト」3月25日発売号(2014年)でご紹介された。 (画像は、「海女(あま)のいる風景」より)

 能登半島のやや沖合の舳倉島が本書の撮影画像のメインの舞台。つまり、我が富山からは程遠からぬ地。吾輩が生まれた頃、幼少の頃には、こうした海女文化が活発に展開されていたとは、知らなかったとはいえ、見なかったのは惜しい!
 さて、海女という表記もあるが、海士という表記もある。アワビを呈され、感激した殿さまに武士の扱いを許されたこともあって、海士表記されることもあったようだ。

 本書にはちょっと恥ずかしい誤字があった。大伴家持を大友だって。校正ミスだろうけど、早めに訂正してほしいな。


[付記: 今となっては、褌だけの裸の海女は昔の話です。それも、舳倉島、対馬・曲地区、御宿などに限られたようだ。「裸海女が存在した3箇所に共通する風土といえば、いずれも沖合いを暖流が流れる海洋性気候で温暖であるということ」や海底の状態。多くのポイントは、「カヤ」という触れると痛い海藻が生えていて、磯着が必要になる。特に舳倉島では、時に50メートルも潜るので裸が効率的だったようだ。 (12/31追記)]

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