ニック・レーンの本に首ったけ(後篇)
さて、肝心の今日読了したニック・レーン著の『ミトコンドリアが進化を決めた POWER, SEX, SUICIDE』だが、正直、かなり手ごわかった。もしかしたら、自分の脳味噌が急激に(いつも以上に)衰えて、本書についていけないってことがしばしばだった。
← ニック・レーン【著】『生と死の自然史―進化を統べる酸素』(西田 睦【監訳】/遠藤 圭子【訳】 東海大学出版会) (画像は、「 紀伊國屋書店ウェブストア」より) 「酸素は、われわれ人間を含む多くの生物にとって必要不可欠な物質であると同時に、非常に有害で、老化や病を引き起こす原因物質であることがわかっている。本書は、この酸素と生命の関係が有する大きな矛盾をてがかりにして、地球上の生命の進化を再考し、生物界における性の存在理由や、加齢・老化・病気の意味について新たな光を当てようという、意欲的な試みである。本書における視点の新鮮さ、統合される知識の新しさと幅広さ、それらを1本に束ねる骨格の太さは、特質されるべきものである」。
これまでの三冊だって、いずれも面白かったが、時に理解が及ばないこともあったが、この四冊目の本書は、そんな難儀さをずっと感じつつ読んでいた。でも、面白いし、類書ではまず触れることの叶わない記述が続くので、頑張って読み通したのである。
でも、本書をSNSで激賞している、ビル・ゲイツも、本書については、読者はかなり限られてしまう部分も、というようなことを言っていたらしく、ほんの少し安心である。
下手な小生の感想など無用だろう。
それより、「生命、エネルギー、進化:みすず書房」によると:
絶え間なく流動する生体エネルギーが、40億年の進化の成り行きにさまざまな「制約」を課してきたと著者は言う。その制約こそが、原初の生命からあなたに至るまでのすべての生物を彫琢してきたのだ、と。
「化学浸透共役」というエネルギー形態のシンプルかつ変幻自在な特性に注目し、生命の起源のシナリオを説得的に描きだす第3章、「1遺伝子あたりの利用可能なエネルギー」を手がかりに真核生物と原核生物の間の大きなギャップを説明する第5章など、目の覚めるようなアイデアを次々に提示。起源/複雑化/性/死といった難題を統一的に解釈する。
本書の題名は、「生命、エネルギー、進化」と、語るべき題材を羅列に近い形で示していて、素っ気なくもあるようだが、実は、まさに本書の要諦をズバリ示していると、読んでみて気づかされた。
← ニック・レーン著『生命の跳躍 進化の10大発明(LIFE ASCENDING)』(斉藤隆央訳 みすず書房) 「10の革命的「発明」とは、生命の誕生/DNA/光合成/複雑な細胞/有性生殖/運動/視覚/温血性/意識/死。これらはいかに地上に生じ、いかに生物界を変容させたのか?」。進化論や生物学関連の本はいろいろ読んできたが、幅広い視野には際立つものがあって、ある意味、これまでの大方の論考の総集編的な本だった。10の革命的「発明」の中に、「意識」もあって、どう料理するのか、興味津々で読んでみたら、生化学の立場からの、全く想いも寄らない試みや研究が紹介されていて、再読に値すると感じた。「視覚」についても、実に目配りの聞いた記述がされていて、『眼の誕生』などの説を、あっさり面白いが視野が狭すぎると談じるなど、面目躍如といったところか。斉藤隆央氏の安心して読める訳文。
本書の訳者あとがきに、以下のようにある:
そもそも地球上の生命誕生の痕跡は残されていない。化石のような物的証拠がないなかで、生命が誕生してから、原核生物が細菌と古細菌に分岐し、真核生物と有性生殖が登場するまでのいわば「生物学のブラックホール」のプロセスを、唯一確かなことがわかっていると言えそうな太古の地球環境を手がかりに、酸化還元を中心とする化学反応とエネルギー論の観点から厳密な議論できわめて野心的な仮説を取り上げた(以下、略)
ちなみに、ニック・レーンは、「アルカリ熱水噴出孔」こそが生命の起源に深く関わると睨んでいる。この場とは、「一般に海底にある熱水孔の一種で、水素ガスを豊富に含む温かいアルカリ液体を放出する。生命の起源において大きな役割を果たしたに違いない」と、自ら本書において縷々語っている。
ニック・レーン関連拙稿:
「ニック・レーン著『ミトコンドリアが進化を決めた』に絶句」(2009/12/20)
「『 ミトコンドリアが進化を決めた 』再読」(2012/06/15)
「雑草学だって ? !」(2014/03/18)
「退院し何はさておき図書館へ(後編その1)」(2011/01/28)
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