ソローキン『青い脂』に脂汗!
本書ソローキン 著の『青い脂』の存在は、「読書メーター」で知った。
そこでの感想や、特に題名(!)に惹かれて、中身を観ずに注文した。むろん、「第3回 twitter文学賞 海外編 第1位!」ってことも、今日、完走を書こうと、出版サイトを覗いて初めて知ったほど。
← ウラジーミル・ソローキン 著『青い脂』(望月 哲男 /松下 隆志 訳 河出文庫) 一昨日、読了。読んだと言えるかどうか、覚束ないけど。
出版社の内容紹介によると、「体の文学クローンから採取された不思議な物質「青い脂」が、ヒトラーとスターリンがヨーロッパを支配するもう一つの世界に送り込まれる。現代文学の怪物によるSF巨編」とあるが、久しぶりにSFを読むのもいいかなという思いもあった。
小学生の高学年からは、近所の貸本屋さんから、漫画に加え冒険小説を、それが、中学生になるころには、漫画に加えSF小説を借りだすようになった。
推理(探偵)小説やまして純文学系の本は借りなかったと思う(というか、そういった系統の本が置いてあったかどうかも覚えていない)。
仄聞するところによると、一部からは名うての「変態作家」と呼称されているとか。
実際、読んでみて、そもそもストーリーを語るのは意味がないように感じる。
もっと、ストーリーを絞れば、映画化もされたトマス・ハリスの『羊たちの沈黙』やピエール・ルメートルの『悲しみのイレーヌ』になろうが、エログロ変態ぶりは、そんなちんまりした比較を哄笑されるだけだろう。
独創性で傑出したSF小説というと、、アンドレイ・タルコフスキー監督により映画化された、ポーランドのSF作家、スタニスワフ・レムの小説『ソラリス』をふと思い浮かべるが、それほど象徴性で想念を駆り立てるわけではない。
むしろ、スターリンやヒットラーの蛮行を、文学という筆の力でどうやったら太刀打ちできるかと、エロとグロ、ナンセンス、そして想像と妄想と絶望と高尚でソローキンの脳と能の限りを尽くしたが、奮戦善戦敢え無く玉砕したと言うしかない小説である。
ロシアの文豪であるトルストイやドストエフスキー、ツルゲーネフ、チェーホフ、ゴーゴリにプーシキン、ゴンチャロフにソルジェニーツィン、詩人ならアフマートヴァといった連中には、逆立ちしても書かなかった、あるいは書けなかった、エログロの極致へと突き抜けようとした……が出来なかったと思う。
ロシアやソ連の皇帝や権力トップの非道(その後のポルポト派の蛮行やアフリカの民族紛争、18世紀の白人によるインディアン虐殺などなど、数限りない野蛮)は、人間の想像力を遥かに超えている。
だからといって、黙ってはいられない。沈黙は雄弁…だなんて気取っていては、あっさり戦車に踏み潰されて通り過ぎ、ぺっちゃんこの躯が吹きっ晒しに置き去りにされるだけ。
現実の悲惨の底抜けの凄みに、どうペンは立ち向かえばいいのか。実験的にでも狂気を生き切ってみる以外にあるだろうか、なんてほざいてみても、負け犬の遠吠えにもならないのだろう。
それでも、本を読む以上は、文学に限らず、何かしらを信じたいのだろう。それが人間なのかどうかは分からないけど。
| 固定リンク
「書評エッセイ」カテゴリの記事
- 海の中は賑やかな会話にあふれている(2025.06.23)
- アクシデント!(2025.06.22)
- タチアオイ(立葵)に今年も遭遇(2025.06.20)
- 扇風機だけじゃアカン(2025.06.19)
- 入浴は夢の夢(2025.06.17)
コメント