「ロボットの脅威」 あるいは人間無用の社会
いよいよ九州に近づきつつある台風16号に刺激を受けて、活発化する秋雨前線の影響で、ここ富山もずっと雨である。
外出も買い物だけに留めるしかない。
← マーティン・フォード著『ロボットの脅威 多くの職が奪われる未来』(松本剛史訳、日本経済新聞出版社)
家では、だから、落ち着いて静養と読書に専念できる。
ところで、今夏は不思議な夏だった。
というのも、今夏は、一度も蚊取り線香を使わなかった。というか、その必要がなかった。家の中では、カは一匹も見つからないし、刺されなかった。これから現れる? よその家はどうだったんだろう。
異変なのか、吾輩の血が栄養分が足りないということなのか。
さて。車中では、パウル・クレーの『造形思考(上)』(ちくま学芸文庫)を読んでいるのだが、自宅ではジョイスの『ユリシーズ Ⅲ』を主にベッドで、さらに、マーティン・フォード著の『ロボットの脅威 多くの職が奪われる未来』を一昨日から読み始めたところ。
この『ロボットの脅威 多くの職が奪われる未来』は、実に面白い。
ある意味、深刻な内容なので、面白いなんて、呑気なことを言っておられないのだが、暗澹たる気持ちにさせられつつも、読む手が止まらない。
本書の内容案内によると、「急速に進歩する情報技術がもたらす人工知能、ロボット、ソフトウェアの進化は大量の失業、所得格差の一層の拡大をもたらし、経済、社会に破壊的な影響を与えずにはおかない」とかで、深刻な話が縷々語られている。
題名は、「ロボットの脅威」なのだが、急発達の度合いが加速するコンピューター技術(自動化技術)の齎す驚異の社会なのである。
過去、技術の発達は、産業などの合理化を実現すると同時に、一定の雇用をも生み出してきたが、ロボット(コンピューター)の発達は、合理化・省力化が進んで、ルーティーンワークのみならず、知的労働をも(労働者をも)無用にしつつあるという現実が、一層、明確化してきたと著者は言う。
労働集約的産業の典型(の一つ)だった農業ですら、人手をどんどん、不要のものとしつつある。ブドウなどの果物を収穫するのは、人の手を借りるしかなかったのが、収穫するソフト(とマシン)が開発され始め、人間が最後に携わる領域すら、人が駆逐されつつあるという。
人手不足を補うという意味で、ロボットなどの利用が喧伝されるが、実際には、そもそも人間が労働力として、必要がないんじゃないか、という事態がもうそこまで来ているという。
「例えばファストフード店での単純労働は、あまり高いスキルを持たない労働者の重要な受け入れ口の一つだった。しかし自動化が進めば、肉を焼いたり、注文を受けたりなどの作業がロボット・自動化技術に肩代わりされ、多くの労働者が職を失うと本書は危惧する」のだ。
← トマ・ピケティ著『21世紀の資本』(山形浩生/守岡桜/森本正史 訳 みすず書房)
本書は、ある意味、一時期話題になった、トマ・ピケティ著の『21世紀の資本』での、「経済的格差は長期的にどのように変化してきたのか」の一端を、加速度を増して発達するロボット技術(自動化技術)の側面から傍証する著とも言えるかもしれない。
なんて、まだ冒頭の数十頁を読んだだけなのだ。本書はこれからいよいよ佳境にはいるはず!
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