エーコ著『プラハの墓地』を読んでISを想う
出版社(東京創元社)によると、「ユダヤ人嫌いの祖父に育てられたシモーネ・シモニーニ。偽書作りの名手であるシモニーニがいかにしてユダヤ迫害のもととなった偽書「シオン賢者の議定書』を生み出し、どのように世界にそれが広まり憎しみの渦を作り上げたか?」といった内容。
← 今夏、三度目の収穫。ナス、キュウリ、トマト。この前は、スイカも。
本書は、ユダヤ人問題や、ナチス、ヒットラー、『議定書』(プロトコル)、フリーメーソン、オカルト、ポグロム、ドレフュス、アポカリプス、シオン、などなどの名称のいずれかにビビッと来る人にはたまらない本だろう。
世の中を陰謀論で見る癖に囚われる人がいるものだ。陰謀や、権謀術数が満ち溢れる世の中なのは、間違いないだろう。
ただ、たった一つの陰謀(戦略)で動くほど、世の中は単純じゃない。が、ある一つの色眼鏡に一旦固執してしまうと、もう、そこからは逃れられない。全てが一元的に説明可能になるからだ。
陰謀論に凝り固まった瞬間から、世の中がある意味、単純に見えてくる。全てが陰謀という強烈なブラックホールに呑み込まれるし、説明不能なことすら、ホールに投げ込んで片付けてしまう。
或る意味、右翼の思想なんてそんなものだろう。純粋な民族があるとか、ピュアな血筋とか、単一民族とか、穢れなき聖人とか、女は穢れているが、母は聖女だとか(本人の女性蔑視や偏見を正当化するため、母親は別格扱いする)、近い国家や民族を近親憎悪するとか、それらは、無能とまではいわないにしても、知的には凡俗な自分が世界を完璧に理解し、自らを正当化するには、そうした<神話>や<幻想>に縋るしかないのだ。
さて、本書を読んでいて、現下の中東やトルコ、ヨーロッパなどを中心にした政治的宗教的混乱を想わないわけにいかなかった。
恐らくは、エーコも脳裏にはIS(イスラミック・ステート)に絡むイスラム教社会の混乱の元凶にユダヤ(というか、イスラエル)があると考えているに違いない。
つまり、全ては、イスラエルによるパレスチナ人たちへの抑圧や、不当な振る舞いを世界の目(関心の中心)から逸らすため、シーア派とスンニー派の対立を煽り、ヨーロッパとロシア、サウジアラビアとシリアなどの利害対立を煽って、イスラエル国家の存立を安泰ならしめる、あるいは存在の重要さをアメリカなどの西欧に思い知らせようとしているのだろう。
パレスチナ人たちを追い出し、イスラエルが建国できたのは、アメリカやイギリス、フランスなどの石油利権のためだった。中東にイスラエルと言う国を、つまりはイスラム教の人々の地域に橋頭保を築くためだった。
だが、再生可能エネルギーや、原子力、特にアメリカのシェールガス(石油)の齎した、世界のエネルギー需給バランスの激変は、中東におけるイスラエルの存在をやや軽くしてしまった。アメリカのイスラエルへのダブルスタンダードが一時、崩れそうになったのだ。
それを敏感に察知したイスラエルのユダヤ人は、石油のダブつき、石油価格の低減という状況を齎して、アメリカのシェールガス(新たな油田)の開発を押しとどめようとした。
世界が、従前の秩序の崩壊という事態を迎え、イスラエル(ユダヤ)に逆らうことへの見せしめ状況を齎したわけである。
← ウンベルト・エーコ著『プラハの墓地』 (橋本勝雄 訳 東京創元社)
このイスラエルの構想力の強靭さは恐るべきものがある。
つまり、「イスラム国(以下、ISIS)を訓練・教育し、武装化、資金援助、操作しているのが、アメリカのCIAやイスラエルのモサド、イギリスのMI6の諜報機関である」(「米国CIAとイスラエル・モサドはISIS(イスラム国)を使ってイルミナティの世界統一政府樹立計画を進める - 日々雑記、沈思黙考」より)のだ、云々。
……といった陰謀をエーコは嗅ぎ取っている、あるいは示唆せんとしているように(結構、あからさまに)、本書を読んで感じたのである。
[念のため付記しておくが、本書(原書)が書かれたのは2010年である。まだ、ISがこれほどの規模と深刻さといった事態に至っていなかった。が、シェールガス革命が始まったのは、「21世紀に入ると米国におけるシェールガス採掘技術の進歩による生産コストの低下と、石油・天然ガスの価格上昇などがあいまって、かつては採算上不可能であったシェールガスの生産が商業ベースにのるようになった」わけで、中東における石油の意義(特に地政学的重要度)が変わると予想されて、本書が書かれるまでに十年は経過している。事態を見抜く目のある者たちには、アラブにおけるイスラエルの危機が予見されたわけである。イスラエルが、シェールガス革命の意義の評価を間違えるはずはないし、座視してこの事態を見過ごすはずもないのだ。]
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