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2016/07/01

吉村昭著『高熱隧道』と泡雪崩

 昨日、文中で扱った吉村昭著の 『高熱隧道』は、実に印象深い作品で、拙稿「我が家でも『高熱隧道』でもトンネル開通でした」から、関連する記事を抜粋し、単独の記事として扱う。

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←  吉村昭/著 『高熱隧道』(新潮文庫)

 「人間の侵入を拒み続けた嶮岨な峡谷の、岩盤最高温度165度という高熱地帯に、隧道(トンネル)を掘鑿する難工事であった。犠牲者は300余名を数えた。トンネル貫通への情熱にとり憑かれた男たちの執念と、予測もつかぬ大自然の猛威とが対決する異様な時空を、綿密な取材と調査で再現して、極限状況における人間の姿を描破した記録文学」。さすが鬼気溢れる作品だった。

 人夫たちは、とんでもなく高額な俸給に惹かれてのことだろうが、とはいっても、幾度となく落盤事故などに遭遇し、仲間(のはず)の哀れな末路を目にして、自分たちは死と背中合わせの状況にいることを気づかないわけにいかない。
 けれど、どれほど事故があろうと、工事はやり遂げないといけない。ほとんど国策工事なのだ。天皇の名さえ出されて工事が督励される。
 人の命を粗末にする、そんな時代だったのだろうが、それにしても鬼気迫る世界だ。

 このトンネルは、黒部第三発電所に関連するもの。となると、第四ダム工事の大変さは想像を絶する。


 犠牲者は300余名を数えたってのは、戦前だったから許されたことかもしれない。改めて、泡(ホウ)雪崩の凄さを思い知らされた。通常の雪崩とは比較にならないもので、「雪崩を構成する雪煙が最大で200km/h以上の速度で流下する」とか。

1938年12月27日富山県下新川郡宇奈月町志合谷(現在の黒部市)で発生した泡雪崩では、黒部川第三発電所建設に伴うトンネル工事の作業員が宿泊していた鉄筋コンクリート造宿舎の3階および4階部分が川の対岸600mまで吹き飛び84人の死者(うち47人は遺体の確認ができなかった)を出している」という。

 小生が泡(ホウ)雪崩のことを初めて知ったのは、鈴木牧之によって書かれた『北越雪譜』でのこと。
 粗方、忘れてしまっていて、今では、「「ほふら」の表記でこの種の雪崩の記述があ」ったらしいという程度の記憶。

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→ 「高熱隧道」(阿曽原 - 仙人谷) (画像は、「高熱隧道 - Wikipedia」より)

 拙稿「「魔の雪」…雪国」で、ほんの少し、『北越雪譜』に触れている:
 雪の魔、魔の雪。 雪国のことを思うなら、松岡正剛ではないが、「田中角栄や真紀子以来というもの、世の中は新潟の人や動向をどうも片寄って見過ぎているけれど、それはおかしなことなのだ。もし片寄るのなら、『北越雪譜』まで戻って片寄るべきだった」のであり、是非ともせめて「雪の為に力を尽し財を費し千辛万苦する事、下に説く所を視ておもひはかるべし。…豪雪地帯で暮らす人々の哀歓を綴り、習俗を記録し、奇談を集めた。出版には馬琴、京伝らが関係し、天下の奇書として圧倒的な人気を博したという随筆集」なる鈴木牧之著の『北越雪譜』を一読してほしいものだ。

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コメント

地中が高熱なんですか?
そんなに危ない作業でも、やらねばならないのですね。
犠牲者の数に目を疑います。
今だったら許されない事業でしょうが、当時は人権どころか人命すらも軽かったようです。
死が近くにあったせいかもしれません。
恐ろしいことです。

投稿: 砂希 | 2016/07/02 20:28

砂希さん

地中というより、トンネルの中です。地層の関係で専門家も予想外の高熱の水(湯)が噴出する場所にトンネルのためのアナが遭遇してしまった。

過酷な工事現場で、工夫たちも命懸けなのは覚悟の上。それでも、一旦、事故(発破の事故が多い)が起きると、何人もの仲間の身体が粉々になったりして、肉片を繋ぎ合わせるのが大変。

国策工事であり、工夫の命など、構っちゃいられない。
それは戦争でも同じ。人民など人の盾。犠牲者の山を築くのは、明治以後の軍のトップや権力者は平気。
そうした人を消耗品扱いする発想は、アベ政権の連中も同じですね。

投稿: やいっち | 2016/07/02 22:09

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