麦わら帽子の少女
その輝きは、抉られた眼窩の発する光だ。
絡み合う体。捩れた心。捻くれた記憶。
麦わら帽子の少女。追いかけていったのは誰? 逃げていったのは、君だよね。
逃げて、逃げつかれて、とうとう追い付かれて、逃げ切れなくて、湖に身を投げた。
だから、追いかけた誰かも、あとを追って飛び込んでしまった。
一瞬、揺れ響(とよ)み、飛沫を撥ね、波紋を広げた湖も、あっという間もなく、もとの静けさを取り戻した。
あとには、何も残さずに。
ガラス窓に刻み込まれた裂け目は、二つの透明な花瓶。生けられてあるのは、動くことを忘れたロボット人形。
二つの大小の波紋が波を高め合い、溶かし合い、あるいは傷つけ合う。そして和解の時を待ち侘びる。
ああ、ガラスの海の少女よ。記憶の海の底に沈んでしまったあなたよ。
あの日の姿のまま、呆然と立ち尽くし、信じられないという顔をして目を見開くのは、やめてくれないか。
もう、耐えられないのだよ。もう、終わりの時が近づいているはずだろ?
瞼の裏に抉るように刻み込まれた、あなたの姿。拭い去れないあなたの像。
今はもう、幻となった思い。
そう、もう、終わったんだよね。だから、もう、許してくれてもいいよね。
(文中の作品は、「小林たかゆき お絵かきチャンピオン」より)
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