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2016/06/04

麦わら帽子の少女

 ひび割れたガラス窓越しにあの人は見つめていた。
 それとも、今にも砕け散りそうなガラス窓に歪んだ自らの顔を映しているのだろうか。

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 窓の外は、鏡面のように静かな湖が見えるはずだけど、あの人の虚ろな瞳には何も見えはしないのかもしれない。

 窓の亀裂は、まるで水中花を思わせる。
 凍て付いた湖の底に眠る、忘れ去られた悲しみ。
 凍り付いた情念。生き血を抜かれた花は、ただ瑪瑙のように輝いている。

 その輝きは、抉られた眼窩の発する光だ。
 絡み合う体。捩れた心。捻くれた記憶。

 麦わら帽子の少女。追いかけていったのは誰? 逃げていったのは、君だよね。
 逃げて、逃げつかれて、とうとう追い付かれて、逃げ切れなくて、湖に身を投げた。
 だから、追いかけた誰かも、あとを追って飛び込んでしまった。
 一瞬、揺れ響(とよ)み、飛沫を撥ね、波紋を広げた湖も、あっという間もなく、もとの静けさを取り戻した。
 あとには、何も残さずに。
 
 ガラス窓に刻み込まれた裂け目は、二つの透明な花瓶。生けられてあるのは、動くことを忘れたロボット人形。
 二つの大小の波紋が波を高め合い、溶かし合い、あるいは傷つけ合う。そして和解の時を待ち侘びる。

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 ああ、ガラスの海の少女よ。記憶の海の底に沈んでしまったあなたよ。
 あの日の姿のまま、呆然と立ち尽くし、信じられないという顔をして目を見開くのは、やめてくれないか。
 もう、耐えられないのだよ。もう、終わりの時が近づいているはずだろ?

 瞼の裏に抉るように刻み込まれた、あなたの姿。拭い去れないあなたの像。
 今はもう、幻となった思い。
 そう、もう、終わったんだよね。だから、もう、許してくれてもいいよね。

(文中の作品は、「小林たかゆき お絵かきチャンピオン」より)

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