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2016/06/20

誰も信じてくれない真実の世界

 D・P・シュレーバー 著の『シュレーバー回想録』を読了した。二十年ぶりか。最初、平凡社だったかと思うが(当時、相前後して、筑摩書房からも刊行されたので、小生は、いずれの訳で読んだか、情けないことに記憶に定かではない)、出た本を読んだときは、心底、驚いた。

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← D・P・シュレーバー 著『シュレーバー回想録』(尾川 浩/金関 猛 訳 中公クラシックス) 「驚くべき妄想の世界を明晰に語り尽くした超弩級のドキュメント」だ。 (画像は、「シュレーバー回想録|全集・その他|中央公論新社」より)

 少なくとも小生などよりははるかに頭脳明晰で、当代の中でもずば抜けた頭脳の持ち主。
 それが、ある日、神の啓示とでもいうのか、神からの直接のメッセージ……<光線>とシュレーバーは表現している……が彼の神経へ直接伝えられる。

 直接彼自身の神経(意識)に作用する(伝えられる)のだ。
 それは、目の前に誰彼が居たり、そこに机や花やがあるのと同じほどに自然に厳然と存在する真実の世界。
 しかも、それは彼だけにしか見えないし感じられないものとして伝えられている。目の前にある。疑いの余地なく存在している、誰も相手にしてくれない真実の世界。

 本書は、精神医学史上最も有名な患者の記録とも称される。
 分析に取り組んだ学者を列挙すると、フロイトを筆頭に、ラカンやアルチュセール、あるいは、『眩暈』のエリアス・カネッティも、彼の著『群衆と権力』で、シュレーバー症例を採り上げている。

 過日、本書を読み始めた頃、小生は以下のように書いている(「正常なる幻想 異常なる明晰」より):

「シュレーバー回想録―ある神経病者の手記」は、神から己の神経への直接のメッセージである<光線>に影響され毒されてしまい、その真実さは、日常の現実以上に現実性が高く、もはや、神ですら彼の明晰判明さには敵わない世界へ至ってしまっている。

 自分の世界も知能や感性は正常そのものだと彼自身は、微塵も疑っていない。が、周りの誰もが、妻も含め、彼が逝ってしまっているとみなしている。精神病院へ閉じ込められてしまう。
 どうやって自分が正常だと訴えたらいいのだろう。誰に縋ればいい? 神すら疑わしい、信じがたいとしたら、救いはあるはずもない。


 デカルトの明晰判明も、カントのアプリオリな認識も全く通用しない世界。だって、シュレーバーには、神からの光線は、アプリオリな認識そのもので、自明性の極みとしか思えない。
 でも、傍から見ると、明らかな異常なのである。
 では、人は何を信じたらいいのか。

Torai

← 上田 正昭【著】『 渡来の古代史―国のかたちをつくったのは誰か』(角川選書) 「「帰化」と「渡来」の語を明確に区分、古代史に風穴をあけた泰斗による、「渡来人と渡来文化」の集大成。近年の発掘調査の成果も踏まえ、古代国家形成にかかわる渡来を東アジアという視点でダイナミックに提示する」。今春、亡くなられた歴史学者。小幡神社宮司だとか。本の数冊、読んだだけだが、「渡来」のビジョンは影響大だったし、これからもっと大きくなるだろう。今日から、読み始めた。

 まあ、そんな御託はどうでもいい。本書は、読んでみるしかない。
 但し、世界観や常識が根底から崩れ去るかもしれないし、相当の覚悟がいるかもしれない。 

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