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2016/04/13

暗く危険な海と灯台 フレネルレンズ

 テレサ・レヴィット著の『灯台の光はなぜ遠くまで届くのか』を読んだ。体調不良の中、一気に読んだ。

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→ フレネルレンズは、「フランスの物理学者オーギュスタン・ジャン・フレネルによって発明された」「灯台や投光器などの照明系レンズなどに用いられる」。 (画像は、「フレネルレンズ - Wikipedia」より)

ブルーバックス|講談社BOOK倶楽部」によると、「1800年代、海難事故が相次いでいたフランスで、暗い海を明るく照らす灯台が求められていた。小さな光を効率よく、より遠くまで届けるにはどうすればいいか――その難題に挑んだのがオーギュスタン・ジャン・フレネルだった。多くの命を救い、人々を魅了し、世界中に広まった「フレネルレンズ」とは何か。いわゆるオタクで内気だった青年が、信念を貫いて築きあげた19世紀の偉大な業績に迫る」といった内容。

 本書の序章は、「暗く危険な海」である。冒頭には、1817年の秋、前年に起きた海難事故の、おぞましく悲惨な真相が判明し新聞で書き立てられたことでフランスは関連の話題でもちきりだった。
 モーリタニア沖で難破したフリゲート艦「メデューサ号」に関わる軍事裁判の記録が公開されたのがきっかけだった。

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← テレサ・レヴィット『灯台の光はなぜ遠くまで届くのか 時代を変えたフレネルレンズの軌跡』(岡田好惠訳 講談社ブルーバックス)

メデューズ (帆走フリゲート) - Wikipedia」によると、同艦は、「ブルボン王政復古後の1816年、輸送船並みの武装に改修され、植民地の返還を受けにセネガルのサンルイに赴くフランス官僚を輸送することになった。しかし艦長は政治的理由で任命された亡命貴族で、海軍士官として不適格であり、メデューズはその不適切な航海指揮によってアルガン岩礁に乗り上げ、破壊された。難破の後、乗員乗客は筏を作ってそれに乗り移ったが、艦の端艇が牽引を放棄したため、筏は漂流することとなった。この試練を生き延びたものはわずか15名だった」のである。
 座礁したのは、西アフリカのモーリタニア沖の砂州だった。

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→ 『メデューズ号の筏』(テオドール・ジェリコー画) (画像は、「メデューズ (帆走フリゲート) - Wikipedia」より)

 ボートから切り離された「筏では事態は急速に悪化した。樽に入っていたのは水でなくワインだった。士官および乗客と、水兵・陸兵との間で争いが起こった。漂流が始まった最初の夜の内に、20人が殺されるか、自殺した。嵐の気配があったが、そうなると安全なのは筏の中央部だけだった。何十人もが、筏の中央部を争って、または波にさらわれて死んだ。食糧はすぐになくなった。4日目までには筏の生存者は67人だけとなり、人肉食を行うものもあった。(生存者はそれを否定する証言をしている。)元気の残っているものは弱ったり傷ついたりした者を海中に投じ始め、8日目には15人が残るだけとなっていた。そしてその15人は全員、7月17日に偶然遭遇したアルギュスに救出されるまで生き残った」のである。
 その模様を描いたのが、テオドール・ジェリコーによる『メデューズ号の筏』である。
 
 こうした海難事故は日常茶飯事であり、犠牲者も多数に上った。
 灯台があれば救われたはずの犠牲者も多かったはずである。
 だから、フレネルレンズ(を使った灯台)は「暗く危険な海」の果てに陸地に近づくものには待望の命の絆だったわけだ。

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←  出雲日御碕灯台の資料展示室に展示されているレンズ (画像は、「出雲日御碕灯台 - Wikipedia」より) 本書を繙くと、目次と見開きの頁に、出雲日御碕灯台の一等級フレネルレンズの映像が載っている。迫力! 日本でも、多くの灯台でフレネルレンズが使用されている」とか。

「フレネルは、1788年にノルマンディーのブログリで誕生した。父は建築家であった。子供時代は8歳になっても読み書きが出来なかった」とか。
 また、「フレネルは病弱であり、絶えず病気に悩まされ続けた。1827年、結核により39歳で死亡」したとか。今の我々の感覚からすると、夭逝だった。彼自身としても、働き盛りだった。

 海(での遭難や漂流)の厳しさについては、拙稿「はだかの起原、海の惨劇」(2006/02/06)など参照のこと。

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