春眠惰眠暁を覚えず妄想的考察(後篇)
この性的快楽の世界への飛躍、性の楽園への常時接続の実現には、いかに天才的 に助兵衛なサル君であろうと、相当に苦しい試練もあったはずである。まず、雄に してみれば、通常チンパンジーの雄でもH度は満点であり、日に何十回もHが(つ まり性的興奮状態、肉体的局所の屹立状態が)可能なのだし、一旦、自慰を覚える と死ぬまで局所への変質的摩擦を止めることはない。
つまりは雄は、Hに関して瞬間的に燃え上がり、瞬間的に快感を得る約束があり、 ということは、何も前戯などなくなって構わない単純な機構レベルにありがちなわけである。相手の雌が誰だって(多少は、互いに選びっこはするだろうが)構わな い。
が、ここである天才的な性的可能性の探求者たる雌は、はたと閃いたのである。 ある可能性に気づいたのだ。何も局所でなくなって、快感の余地は十分にあるじゃ ないか、と。局所は何も局所にあるのではなく、身体中に広がっているのだと(最初は、お腹から脇腹、脇の下、太もも、背中…と、徐々に広がっていったのだろう が)。それには、瞬間的な快感の成就に逸る雄を制しなければならない。これが至難なわざであり、大きな越えるべき山場だったことは、想像に難くない。
雄を雌の身体中への愛撫に向かわせなければならず、また、そうすることが愉し いことであると感得させなければならないのだ。性的官能の成就の直前に、自制して相方を性の沃野へと導かねばならなかったのだ。
この互いの大きなハードルを越えるための努力に敬意を払うべきだろう。
さて、この性の前戯と後戯の快楽の発見は、体毛の喪失と相関しているだけではない。実は、それらは、匂いや言葉の発見とも深く関わっているのだ。
体毛の次第次第の喪失は、実は匂いの可能性の発見とも深く相関している。つま り、体毛が薄くなることで、従来は体毛にこびり付いて離れなかった強烈な不快な 匂いが薄れ、それと同時に、性的刺激に満ちた匂いが天才的Hサルの脳髄を直撃し はじめたのである。
裸のサルに近づくにつれ、特に雌の助兵衛なさる姫は、裸の肌から発する匂いが オスを強烈に捕らえて放さないことを発見してしまったのである。そして、魅惑的 ではあるが、やや単調である土臭い汗の堆積から発する匂いよりも、微妙で変化に 富む多様なる匂いの世界、体の方々から発する匂いか体臭か肌の温もりなのか見分 け難い香りが、オスを引っかけるにはもってこいの道具・武器であると知ってしまったのである。
また、雌は同時に声の魅力をも発見した。Hの際、あるいはHにオスを誘い込む 際、あるいは日々の関わりと交わりの中で、声を多様に変化させることがオスを支配し、ひれ伏させるのに預かって大なることを知ったのだ。
Hの際のアーとか、オーとか、やや原始的な叫び、咆哮と言うべき叫びが、やがてアハーンとか、ウフーンとかに音韻的変化を帯び始めたのだ。ア行などの吼え声的音から、Hを繰り返す中で、ア行にHの色合いが混ざって、ハ行の発声が可能になったのである。英語でいえば、Help Me! と、けたたましく今でも吼えるところ のヘルプ行の発声が可能になったわけだ。
この音韻的多様性の肥大傾向は、以下同様で発展していったものと考えていい。
つまり、音韻の多様性はオスを繋ぎ止める至上の手段でもあったのだ。さまざま な音の変容が、その都度、雄をさまざまに雌の意のままに動かしめる結果となり…、 雌は雄への影響力の行使の上での魔法の武器を手にしたのだ。その声が耳に残って 離れないオスどもは、やがてメスへの性の奴隷と化したのである。
さて、このようにして、Hの快楽のあくなき探求は、体位の可能性の探求に繋がり、やがて体の外見の変化に繋がり、性の快感の極致は恍惚なる天上世界への賛美 と希求に繋がり、そのことが、常時立位への本能的必要に繋がっていったのだ。さ らには言葉の原初の萌芽に繋がったのである。
一言で言うと、性の快楽の追求というのは、五感の徹底した洗練に他ならないと いうことである。それは単に肉体的快感の惑溺に止まるものではなく、折悪しく雌 が雄に、あるいは雄が雌に逸れている間であってさえも、互いの絡み合いの楽園的 境地を追い求めるために、想像力の発達が動機付けられもした。性も常在戦場なの であり、いつでもHを、というわけだ。先述したように、性の常時接続の達成である。
さらに、世の諸賢、世の助兵衛族の皆さんなら分かるように、性の倒錯的想像の 肥大と耽溺は、風景をも一変させたのである。一晩中の性の快感の可能性の探求の 挙げ句の明け方に見る夜明けの眩しさ。陽光が黄色く変色しているではないか。
感覚的多様性と可能性の肥大は、見るもの聞くもの匂うもの触れるものの全てを 違う目で見ることを可能にしたのだ。葉っぱは単に食べるためのものではなく、隠 すものとして利用可能なのだと知ったのだし、青い空は二匹で見上げれば、その青 が更に鮮烈に目に映るのだったし、水も土も木々も単なる道具的次元のものから、 何かもっと神々しいような、実用性を越えた新鮮な姿、生き生きと生きる喜びを賛美し鼓舞し共感しているかのように、この世のすべてが見え始めたのである。
無数の神経網は、ありとあらゆる絡み合いと結び合いを展開していった。生き物 としての生存に有用だろうが無用だろうが、そんなことはお構いなしだった。絡め るものなら、どんな部位にだって絡む。二重に三重に絡み結び合い、雁字搦めになっても、まだ絡むことをやめず、今では二進も三進もいかないほどに脳髄は肥大してしまったのである。
そこまで肥大した頭蓋は、もはや四足という獣の格好では、頭が移動や運動の邪 魔になる。邪魔な頭は、それではと上へ上へ、つまり体全体の上においやられ、気 がついたら二足歩行に至っていたということなのだ。二足歩行というのは、人類の Hの快楽の過剰なまでの探求の結果なのである。
天上天下唯我独尊。その唯我とは、ヒトのHへの執念に他ならなかったのだ…。
[拙稿「ヒトはいかにして…=妄想的考察(蛇足の補足)」(02/04/22)より抜粋。ほんの一部改稿。春なので、旧稿ではありますが、欲求不満の徒然に、雄的観点に偏った性的妄想を逞しくした迷論を再掲してみました。]
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コメント
オスは性欲の制御が大変ですね。
そういうメスもいますけど。
チンパンジーがエッチを通じて進化したという説は新鮮です。
むしろ、エッチ度の高い個体が繁殖し(当たり前か笑)次の世代にDNAを残した結果かもしれません。
やいっちさんは草食系男子をどうとらえます?
男が性欲をなくしたら、人類は滅びると思うのですが。
投稿: 砂希 | 2016/03/29 20:56
わはは。
相手をする方も大変ですね。
投稿: OKCHAN | 2016/03/29 21:25
砂希さん
やや雄の視点に偏っているようなので、いつか機会があったら、雌の貪欲さや弱さ、狡さに根差した妄想的論考を綴ってみたい。
草食系。
経済の世界だけじゃなく、性の世界にも勝ち組負け組の二極化があるのでしょう。
当人たちは、草食系で構わないのでしょうし、自分でその路線を選んでいると思っているのでしょうが、要は早々と生存競争から戦線離脱というわけですね。
男も女も目先の安定ばかりを追うようになっている。道を切り開くという困難を避けてしまってる。
つまりは、ヴァイタリティが枯渇しちゃったんでしょうね。
有名タレントやアスリートやエリートが、嫡子だけじゃなく、あちこちに不嫡出子を作り、女性が一人で育てる(あるいは、世間知らずの男と結婚するかもしれないけど)。
いずれにしろ、日本人のエネルギーが弱まっているのでそう。
カネがあろうがなかろうが、動物的繁殖エネルギーがあれば、どんなに貧乏でもHはするだろうし、子供をどんどん作るだろうし。
そんなパワーが乏しくなったんでしょう。
もともと、日本だって、いろんな源流を持つ人々の寄せ集めだったのが、純粋主義に凝り固まって、先細りになっていく。
もっと、世界に開放的な国にならないと、刺激を受けないでしょうね。
投稿: やいっち | 2016/03/30 22:18
OKCHANさん
本稿では雄の観点に比重が大きくなっていますが、雌に比重を高めると、体力的には劣る雌の弱さを逆手に取った、狡さや賢い、しかも、性的にも貪欲な性の戦略もあったのでしょう。
よって、お互いに性的に貪欲だったと理解すべきでしょう。
(あくまで、妄想の上の話ですが。)
投稿: やいっち | 2016/03/30 22:23