« もうすぐひな祭り | トップページ | マルカム・ラウリー著『火山の下』を読んだ »

2016/02/20

石川 達三著「生きている兵隊」を読んだ

 石川 達三著の「生きている兵隊」を読んだ。

518zdhiayl__sx230_

← 石川 達三 (著)『生きている兵隊  (伏字復元版)』(中公文庫)  「虐殺があったと言われる南京攻略戦を描いたルポルタージュ文学の傑作。四分の一ほど伏字削除されて、昭和十三年『中央公論』に発表されたが、即日発売禁止となる」。

 本書は昭和13年に公表され、間もなく発禁となった。中国大陸で陸軍などが苛烈な進軍を続けていて、その間、中国の軍人・民間人を問わず殺しまくった。捕虜も。南京などに至る軍の虐殺・掠奪というタブーなどの実態を敢えて問う本書は軍には目障りだったろう。

 著者の勇気には敬服するしかない。
 戦後、伏字が復元され読めるようになった。作家というのは、当局に弾圧されることも辞さない覚悟が必要なのだ。
 ただ、本書、99年に本書が文庫本に入った際には、中国の地名などにはフリガナくらいは入れて欲しい。欲を言えば進軍の地図も添えてあればよかったのだが。

 以下、関連する拙稿からの抜粋を載せる:


07917_big

← ニック・タース著『動くものはすべて殺せ アメリカ兵はベトナムで何をしたか』(布施由紀子訳 みすず書房) 

『動くものはすべて殺せ』からインディアン悲史を想う」(2016/02/01):

 本書はようやく日の目を見た(ようやく公開された、あるいは何とか発掘された)軍など当局の文書やアメリカの数少ない良心を持つ兵士やベトナムの、それこそ数少ない生存者らの証言をもとに、これでもかとベトナム戦争の実態が描かれている。
 ナチスのユダヤ人虐殺とは違ってはいるが、アメリカ軍はベトナム(特に南ベトナム)を更地にしてしまえとばかりに虐殺しまくったのである。

 日本軍も朝鮮や中国大陸で、あるいは東南アジアでそんな蛮行に突っ込んでいった。ただ、日本では、アメリカほどに世界が広くないので、今となっては本書に匹敵するような告発の書は現れず、逆に歴史修正主義という名の歴史去隠蔽史観、欺瞞に満ちた史観が人気を博しつつある。日本は素晴らしい国だ、間違いなど起こさない国なのだ……という夢を見たいのだろうが。

 日本軍が朝鮮や中国などの植民地支配を目指したり行ったのは、日本を欧米列強の進出から守るとか、石油など資源の確保とかもあるが、有史以前からの日本文化のお手本であり師匠であった民族や国々への劣等感の裏返しの結果なのだとすれば、アメリカ軍の蛮行はアジア人への侮蔑的な人種偏見の結果なのだろう。

 アメリカは、ベトナムでの戦争犯罪を徹底して否定し隠ぺいを図ってきた。それはベトナムで戦って死んだ兵士の名誉を守るためもあろうが、軍当局や国(大統領)が軍隊の組織防衛を図る意味もあったのだろう。
 が、そこには、甚大な被害を与えたベトナム人への哀悼の念も贖罪の念もまるでない。自分たちの都合しか眼中にないのである。

Time

← 堀田 善衞【著】『時間』(岩波現代文庫)

堀田 善衞著の『時間』を読み始める」(2016/01/09):

 近年、右翼やタカ派の連中は、南京事件について、日本軍が虐殺した数は、中国が唱える数よりずっと少ない云々と、極力矮小化しようとしている。教科書の記述も修正(隠蔽)しようと企てているようにも見受けられる。
 一方、日本の一部の連中の思惑とは別に、「2015年10月9日、ユネスコは「Nanjing Massacre (南京虐殺)」を巡る資料を記憶遺産に登録することを決めた」のは記憶に新しい。

 日本国内では権力や暴力で言論を封殺できても、海外の目はごまかさせない。むしろ、そうした営為は見苦しい、國としての品位を疑われる。ドイツを見習え、と言いたい気分である。
 それもこれも、戦争を生きた世代が少なくなり、政界にも皆無に近くなったから、戦争を知らないアベ一派らの好き放題なわけである。

Takeda

← 武田 泰淳【著】『評論集 滅亡について 他三十篇』(川西 政明【編】 岩波文庫)

泰淳やら『生物界をつくった微生物』やら」(2016/01/04):

 戦争となったら、人間は何をやりだすか、想像を絶するものがある。
 蛮行が日本人だけが行ったとは言わない。ただ、やってしまったことは消せない。消せる、知らん顔で恍けられると思っているのは、右翼の連中くらいのもの。世界は、日本が歴史にどう向き合うかを見ているのだ。

|

« もうすぐひな祭り | トップページ | マルカム・ラウリー著『火山の下』を読んだ »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

旧稿を温めます」カテゴリの記事

社会一般」カテゴリの記事

コメント

こんにちは。
「生きている兵隊」はむかし読んだことがありますがあまり記憶にありません。
いまの日本は戦前の日本に戻りつつあります。

投稿: シゲ | 2016/02/20 16:35

シゲさん

「生きている兵隊」に次いで、最近知ったのですが、吉岡 義一著の「零(ゼロ)の進軍―大陸打通作戦湖南進軍 死闘1400km一兵卒の壮絶な大記録〈上・下〉」(「新老人の会」出版)など、読んでみたいです。
「この作戦では補給は零だった―食糧も生活用品も現地住民から奪った。兵士の頭の中は零だった―今どこに居るのか、どこへ向かうのか兵士は知らされなかった。兵士の人格は零だった―自分意志での行動は許されなかった。命令に従うだけ。兵士の命も零だった―戦闘の中で、行軍の中でおびただしい命が消えていった」といった内容。

野党が憲法違反の戦争法案の廃案を実現しないと、日本はだめになってしまいます。

投稿: やいっち | 2016/02/23 02:52

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 石川 達三著「生きている兵隊」を読んだ:

« もうすぐひな祭り | トップページ | マルカム・ラウリー著『火山の下』を読んだ »