雪の白馬村でスタック(前篇)
過日、仕事で白馬村へ行ってきた。北陸道は、時折、雪が舞ったりするが、路面はややウエット。夕刻に向かって次第に気温が下がってくるが、凍結には未だ間がありそう。
← 「雪の関越自動車道遭難未遂事件(序)」参照のこと。
現地である白馬村は、スマホでのライブカメラ映像で、少なくとも昼過ぎには吹雪いてるのが分かった。
海沿いの高速道や糸魚川で降りてからの一般道は、最初は大丈夫でも道が北上し高度が上がっていくにつれ、道のわきに雪が積もり始め、やがては圧雪に。かなりトンネルの場所が多くて、トンネルの中だけは、路面は濡れてるが雪はないのが救い。
糸魚川を降りて30キロも過ぎると、夕刻が夜と称すべき刻限に至っている。圧雪どころか、路面は踏み固められた雪が凍り付いてつるつる滑る。
道は通り過ぎる車の轍や、跳ね飛ばした雪や氷の塊でガタガタになっている。なので、前をダンプカーなどが何台も走っていているのを幸い、そのあとを懸命に食らいついて走る。
なぜなら、ダンプカーが作る轍は、新しいし、太いタイヤが路面の凍り付いた雪を多少なりとも削ってくれて、走りやすいのである。
道は白馬村へ向かって、ずっと緩い上り坂になっている。信号待ちなどで停車すると、次に走り出すのが怖い。というのも、路面がつるつるだし、車はFR(二輪駆動車)。こんな車で山へ向かうのが無謀なのかもしれない。
雪は時折舞う程度だが、走るに連れ、積雪が深くなっていく。不安も高まる。現地近くまでは行けるとしても、目的地である宿の周辺は小高くなっているし、道も本線から外れて急カーブ。しかも、車がやっとすれ違えるほどの細い道。
この車で宿へたどり着けるのか、ずっと内心、不安だったのである。
それでも、雪道をオートバイで、しかも、ノーマルタイヤのバイクで百キロ以上も走ったことを想うと、車は後輪の2WDとはいえ、四輪なので、倒れる恐れはない。オートバイの時は、百メートルも走らないうちにツルッと滑って転倒する。一キロの間に数回は転倒する。これが百キロともなると、何百回の転倒。そのたびに、装備重量で300キロ以上の800ccのオートバイを雪道で起こさないといけない。
それに比べたら、何のこれきし。
しかも、運転手は自分一人だが、客とはいえ、他に人もいる。オートバイの孤独な走りとは大違い……なんて、意味のない慰めを自分に無理やり供しつつ、はやる心を抑えながら道を急いだ。
白馬村の宿でも、雪で宿に至る細い道を見逃したりなど、トラブルはいろいろあったが、とにかく無事、宿に辿り着いた。
問題というか、本当のトラブルはここからだった。
役目を無事果たしてホッとした。セットする必要はないのだが、帰り道をナビにセッティング。すると、ナビは往路とは違うルートを示す。
おやっと思ったが、目的への方向を示す矢印はそれが間違いではないことを教えてくれる。
帰路はちょっと近道になるが、ナビを信じて……と思ったのが間違いだった。
道はどんどん細くなり、雪が深まっていく。まさに文字通り雪道になっていったのである。
それでも、引き返す選択肢はなかった。そもそも転回する場所もない。
ふと見ると、往路の最後の上りの宿へ至る道が眼下に見えるではないか。ナビも、その道へ導いている。たかだか数百メートル。その間さえ乗り切れば、往路に入り込める。
→ 雪の関越道で遭難しかかったのは、この800ccのバイクでのこと。「雪の関越自動車道遭難未遂事件(序)」参照のこと。
甘かった。雪の中の道をのろのろ進むほどに道が一層細くなり雪が深くなる。鬱蒼とした木立の中で通ろ車も少なく、路面の雪は溶けるはずもない。車の轍がわずかに見えるだけ。
そろそろと轍を踏むように、車を走らせる。
が、曲がり角で轍を踏み外してしまった。乗っている車が大型で、一般車の内輪差とは合わないのだ。
前輪もだが、後輪も雪に半ば突っ込んでしまっている。
後輪がギューンギューンと不気味な音を立てている。そう、後輪が空回りしている音だ。
やっちまった! でも、車を前後に揺するように足掻けば、そのうちに脱出できる、曲がり角さえ乗り切れば轍は真っ直ぐなのだし。
だが、そうは問屋が卸さなかった。現実は甘くない。
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