『微生物が地球をつくった』を読む
ノーベル生理学医学賞の大村智氏が着目した「放線菌」 ということで、脚光を浴びている…はずの微生物の本を入手。まずは、ニコラス・マネー著の『生物界をつくった微生物 』を読んだ(拙稿「泰淳やら『生物界をつくった微生物』やら」参照のこと)。
← ポール・G・フォーコウスキー (著) 『微生物が地球をつくった -生命40億年史の主人公』(青土社)
この世界への関心が一層、掻き立てられたので、書店で関連の本を物色。次いで手にしたのが本書ポール・G・フォーコウスキー 著の 『微生物が地球をつくった』である。昨日今日で残りを一気に読み切った。
内容説明によると、「太古の地球の酸素化、光合成をする植物の誕生、動物たちの進化大爆発、人間界の発酵化学や遺伝子工学…。微生物たちがいなかったら全て不可能だった。目に見えないくらい小さな生物の、驚くほど壮大な世界をめぐる知の冒険」といった本。
上掲の二冊、題名が紛らわしい。ニコラス・マネー著の一冊は『生物界をつくった微生物 』で、ある意味、さもあらんという題名。片や、ポール・G・フォーコウスキー 著のほうは、「微生物が地球をつくった」で(むろん、邦題名だが)、これは明らかに誇大表現。
微生物が生物界を作った(今も!)のは確かにその通りだろうし、地球環境を作ったというのも、誇張ではなく的を射た指摘なのかもしれない。
小生、ふと、地球という言葉(名詞)にヒントがあるように感じた。地球という日本語は、明治時代に作られた訳語なのではないか。その際、地球に相当する欧米の原語には、人など生物が住む大地の意味合いと、同時に、明治維新当時既に欧米(の知識人などの間)では常識になっていた太陽を巡る惑星地球という像との二つの意味合いが同時に輸入され、地球という際、欧米では地球環境(大地)の意味合いと惑星・地球の意味合いが区別されているのが、交錯して地球という訳語に重なって込められているのではないか、などと思った(実際、本書の原題は直訳すると「生命のエンジン」なのである!)。
さて、本書では微生物の世界の広がりと、微生物の観点から見た進化(遺伝子の水平伝播も含め)の驚異を再認識させてもらった。
本書で学んだことはいろいろあるが、その中で必ずしも本書の主題ではないが、もっと人が知っておくべき知見こそ、敢えてメモしておきたいと思った。
地球環境問題で、大気の温暖化の主因にあげられるのは、誰しも二酸化炭素(化石燃料の膨大な消費)であり、人類の活動が排出する二酸化炭素を少しでも減らすべく、世界規模の課題となっている。
だが、本書によると、一層、深刻なのは、窒素だという。詰まる所は食料の問題で、急激に増大する人口を支えるため食料の増産に迫られる。食料生産には肥料が絶対不可欠だが、牛糞や鳥の糞などの肥料は19世紀末には底をつく懸念があった。そこに登場したのが、地球大気の78パーセントを占める窒素を水に溶けるアンモニアに化学的に合成する方法だった。
「人間による窒素の固定は地球上のすべての微生物によるものを大きく上回り、固定された窒素は世界中の畑からあふれて河川から沿岸へ流れ込み、そこで水の華[微生物の大量発生におる赤潮などの現象]を起こす。水の華はしばしば、生物が沈み、死んで、他の微生物に食べられると、大量の酸素が奪われ、魚が死に、亜酸化窒素、つまり笑気ガスなどの気体が放出されるほどの規模になる。」
この亜酸化窒素の各分子は二酸化炭素の三〇〇倍もの熱を捕捉する力があり、強力な温室効果ガスとなる」という。
いずれにしろ、「人間が食糧としたり必要や欲望に充てたりするための資源を求めて、ますます地球から奪うようになると、炭素循環や窒素循環だけでなく、ほとんどすべての化学元素の自然な循環に打撃を与え」、「その結果、地球全体での基礎的な生物地球化学的循環が急速に、また大規模に歪む。」
こうした「循環のバランスは、だいたいは微生物によって、地質学的な過程と強調して制御、維持されているが、それを人間が、非常に短期間に未曾有の規模で乱している。」という。
← ニコラス・マネー[著] 『生物界をつくった微生物 』(小川真[訳] 築地書館) 「生物界をつくった微生物」には内容説明がある。
本書には、テーマに沿って、さらに深刻な問題が指摘されているが、それは各自、本書を読んで確かめてほしい(p.201以下)。
あるいは(ここでは、亜酸化窒素の持つ温室効果ガスやオゾン層破壊物質という側面には触れられていないが)、「環境白書 2 窒素の循環等」を参照願いたい。
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