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2016/02/11

雪の白馬村でスタック(後篇)

 車はにっちもさっちもいかない。車から降りて、後輪の前後の雪をどかす。どかすといっても、情けないことにシャベルを準備してこなかったので、ハーフブーツの足で雪を蹴飛ばすように、どかすだけである。 

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← 「一本の木を友にして帰郷せし」参照。

 後輪の周辺の雪だけではダメで、前輪の周辺の雪もどかす。
 車体の下を覗き込み、車の下に巻き込んだ雪が車のどてっぱらにくっついていないことを確認。
 数年前の富山の郷里で、雪の中、真夜中過ぎに帰宅したら、我が家の庭が数十センチの積雪で、呆気にとられるも、えーい、やっちゃえとばかりに、可愛い我が小型車で雪の庭に突っ込んでいったら2メートルもすすまないうちにスタックしたことを思い出した。

 幸いに、その時は自宅だったので、車を降り、玄関まで雪の中をごぶりながら歩いてスコップを取りに行き、車の前に積もった雪を除雪し、ようやく動けたことを思い出す。
 あるいは、数年前、雪の中、車で新聞配達していて、ある裏通りでやはり雪にスタックして身動きがならなくなり、その時は、積んでいたシャベルで雪を懸命に搔きだしたこともあった。
 
 ふと、思いついて、車の中のゴムマット2枚を持ち出し、後輪の前に、あるいは後輪の前にセットして、ゴムマットの分だけでも動けないかと試してみた。一瞬、動きそうになるのだが、すぐにスタックの状態に戻ってしまう。 
 車を降りてみてみると、マットは呆気なく飛ばされていた。後輪に跳ね飛ばされたのである。
 何度、繰り返しても、マットはあっという間に飛ばされてしまう。

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→ 「雪の朝(断片)」参照。
 
 ここで、夢のようなことが起きた。
 ふと見ると、若い女性が近づいてくる(その前に、車が何台か近づきそうになったが、こちらの様子を察知してか、さっさと戻っていった)。近づいてくるだけじゃなく、声をかけてくれた。
「わたし一人じゃ、助けにならないですよね」と。
 力になるかどうか、じゃなく、声をかけてくれたことがうれしい。

 確かに、若くきれいな女性が車を押してくれたって、2トンほどもある車体が雪の中では、びくともするはずもない。でも、気持ちがうれしいし、その女性が女神様に見えた。
 でも、彼女に迷惑をかけるわけにいかない。車でバックなり前進なりを試みた際には、タイヤが弾き飛ばす雪で彼女がびしょ濡れになってしまうし、それに、万が一、車が勢いで動き出したら猶更危ない。

 不器用な自分は「JAFを呼ぶしかないのかな……」と呟くだけだった。
 これを機会に彼女と仲良くなるというドラマは生まれなかった。
 そのうち、彼女は徒労な労苦を見限ってか、去っていった。どうやら、家の前でスノーダンプで除雪しているようだった。そのために、家を出たら、車がギュンギュン、煩い音を立てているのを見かねたのだろう。

 彼女が去った後も、悪あがきは続いた。車が微動するたびに、前後輪が轍から逸れて積もった雪の中へ、深みへとますます嵌まっていく。蟻地獄である。
 後進、前進を交互に頻繁に繰り返す。マットを何度もタイヤの下にセットする。
 汗びっしょりである。時折、風が出てきて雪が激しく舞ってくる。吹雪くような雪に視界が奪われる。心の視界も真っ暗である。

 スタックしてから小一時間も経ったろうか、車輪がようやく轍に乗っかるようになった。すると、一メートルほど動く。だが、動くと圧雪の上でタイヤが滑るのか、轍から逸れて雪の深みへ。
 そんなシジフォスの業苦のような労苦を繰り返しているうちに、轍に沿って走れるようになった。
 そろそろと走り出す。動く。車が動くという感激。
 百メートルも進んだろうか、往路のカーブ道に辿り着いた。ここだ、この道にさえ、入ってしまえば、あとは何とかなる!

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← 「南天の実に血の雫かと訊ねけり」参照。

 汗だくの体。雪だらけの体や足元。運転席の足元も雪の塊があって、苦労を物語っている。それなりに活躍してくれたゴムマットも積み込むのを忘れなかった。
 汗だくなだけじゃない、体はくたくただった。悪戦苦闘の一時間が体力も気力も奪っていた。

 しかも、雪の中、帰路の130キロを走らないといけない。夜半が近づいていて、海からの風に車体が揺さぶられるし、雪さえも殴るような激しさに。高速道路も、帰路は何ら問題なかったのが、帰路では路面が真っ白になってきて、時折追い越していくトラックの轍の黒いラインがくっきりと。
 帰ったらこの大きな車の洗車などの作業が待っている。気を休める時まではまだまだ長いのだった。


スタック:車好きとレースファンのための英語
雪の関越自動車道遭難未遂事件(序)

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コメント

経験あります。
汗だくになりますね。

投稿: OKCHAN | 2016/02/12 07:20

OKCHANさん

一人っきり、見知らぬ地で、更け行く雪の中、懸命でした。
幻の女性も、呆れてか去ってしまって、ひとりぼっち。

ホント、汗びっしょりになりました。
一時間ほどで脱出出来てよかった!

こればっかりは、経験者でないと、難儀ぶりは分からないですよね。

投稿: やいっち | 2016/02/12 11:54

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