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2015/12/18

ウルフ 著『ダロウェイ夫人』を読み始めた

 久しぶりに…といっても、数年ぶりだが、ヴァージニア・ウルフの本を読んでいる。『ダロウェイ夫人』である。
 小生は、自覚の上では、ウルフのファンではないのだが、なぜか折々、彼女の本を読みたくなる。

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← バージニア・ウルフ (著)『ダロウェイ夫人』(土屋政雄訳 光文社古典新訳文庫)

 既に数冊、読んできたし、中には、再読した本もある。
 読み始めたばかりだし、あれこれ書く余裕がないので、もう、15年も昔に書いたある知人との交換文からの転機(抜粋)で、今日はお茶を濁しておく。

[以下は、拙稿「低温火傷の周辺」より]:
 これはタクシーの中ではなく自宅においてなのですが、ヴァージニア・ウルフの「ある作家の日記」(みすず書房)をぼちぼち読んでいます。過日、書店に寄った際、めぼしい本にめぐり合えなくて、仕方なく買ったのですが、意外な発見でした。才能溢れる、けれど未だ無名のウルフが次第に売れていく中で彼女が率直に胸中を吐露していますし、作品を書く喜びや、書けない日々の憤懣など、小生も一応は小説を書くものですから、自らの心境を思い入れしながら楽しく、じっくりと読んでいます。
 日記ではないのですが、もう二十年ほど前ですがピアニストのルビンシュタインの自伝や哲学者のバートランド・ラッセルの自伝は今も印象に鮮やかです。ラッセルの燃えるような知性がひしひしと感じられて一気に読めてしまいました。アウグスティヌスの「告白」やユングの自伝、結構、自伝が好きなんだなと遅まきながら思うこの頃です。[00/04/03 記]

 恥ずかしながら小生もウルフは初めてだと思います。というのは遠い学生時代の濫読の中で一応は手にしたことがあるようなのですが、印象が薄いのです。ウルフは13歳の頃に発病した躁鬱病と、それに伴う自殺衝動と戦いながら、病気の兆候のない凪の間に才能に駆られるようにして書きつづけた作家です。ご主人の理解にも大いに助けられて自殺の企図もご主人によって阻まれつづけたのでしたが、最後にヒットラーの影に怯えるようにして、結局は自殺で世を去りました。日記は推薦ですよ。[00/04/09 記]

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← ヴァージニア・ウルフ∥コレクション『燈台へ(TO THE LIGHTHOUSE)』(伊吹知勢訳 みすず書房)

 今日(4月11日)、ようやくウルフの「ある作家の日記」を読み終えました。3月の12日から読み始めたので、ちょうど一ヶ月を要したということになります。解説によると元の日記の20分の1に縮めたということなのですが、それでも日本語訳で5百頁以上あります。
 最初は一気に読み進めようと思っていたのですが、次第にゆっくり、じっくり読みたい気分に変わってきたのです。それというのも、ウルフが年を取るのに合わせるように小生も年を取る感覚を多少でも味わいたいと思ったのです。
 前回、ウルフは躁鬱病の病に悩まされ、ついには作家的に一応の成功を見つつも鬱の波に飲まれるようにして自殺して果てたと記しましたが、実は、彼女は更に別の悲劇にも見舞われていました。それは彼女が6歳の頃より義兄によって性的虐待を受けつづけていたこと、しかも、それを母親にも打ち明けることが出来ないまま、母親は世を去ってしまったことです。

 解説(本書の解説は短い割には的確で結構、参考になります)によると、彼女の母親の家系にも父親の家系にも精神的病の血があったとのこでとですが、そうした事情から察せられるように、ただでさえ感性が豊か(ということは感じやすい、感じすぎるということです)なのに、そうした性的虐待を受け続けて、立ち直ることも出来ず、尚のこと尋常でない人生を送るしかなかったというわけです。
 更に、解説によると彼女と付き合う多くの人は(彼女が気を許せる場合に限るようですが)、彼女が快活かつ明朗で、彼女のする話はとても楽しいものだったということです。このことを以って、彼女は苦しみにも関わらず、健気にも明るく振舞ったのだと考えるのは適当でないと思います。
 正に人の心のありようの奥深さだと思うのです。

 実は一昨年ですが、小生はたまたま性的虐待を受けたある女性の半生を告白形式で小説に仕立てたことがあります。それが更に偶然ですが、6歳前後に主人公である女性は叔父に性的辱めを受けたらしいのです。らしい、というのは実は、小生の小説においては彼女が思春期の頃になって不意にその幼児の頃の忌まわしい記憶が蘇るという設定で描いていて、彼女自身、自分のことなのに、そうした事実が実際にあったのかが分からないまま苦しめられ続ける形にしているということです。
 物心付くか付かないかの頃に受けた魂の底にまで達する傷は、年を経るに従って深くなるという厄介な性格があります。

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← ヴァージニア・ウルフ著『ある作家の日記 【新装版】』(神谷 美恵子訳、みすず書房)

 小生の作品では結末において彼女が書くことに目覚める予感を示すことで終わらせています。それは将来、機会があれば彼女のその後の人生を描きたいという若干の意思があるからですし、心の傷を癒すことの難しさを書く過程でつくづく感じ、容易に安易に救いを彼女に与えることができなかったからでもあるのです。

 ところでウルフの日記を読んだのは今日だし、解説を読んだのも今日なので、彼女( ウルフ)も6歳から23歳に至るまで母の連れ子である義兄に性的いたずらを受けつづけたことは知らなかったのです。ただ、躁鬱病と感受性の豊かな女性という認識しかなく、才能豊かな女性の作家活動の裏面を垣間見ることに関心を向けていたのです。それを一ヶ月という時間を掛けることで、ジックリと味わいたかったということです。
 というわけで、この本の面白さについては、結果的にかなり小生の個人的事情に左右 されていたということになりそうです。[00/04/13 記]


ヴァージニア・ウルフ……クラゲなす意識の海に漂わん」(2007/01/26)
天神とウルフつなぐは弥一のみ」(2007/01/25)
ウルフ『灯台へ』の周りをふらふらと(前編)」(2011/12/16)
ウルフ『灯台へ』の周りをふらふらと(後編)」(2011/12/17)
低温火傷の周辺

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