消えた町の小さな書店
例えば今は、ピエール・ルメートル著の『悲しみのイレーヌ』である。新作も含め、結構話題の作家のようだ。
本書、題名が気に入って買ったような気がする。むろん、日本語の題名が原題のはずはなく、訳者のセンスで選ばれた題名なのだろうが、題名に「イイね!」とやりたくなる。
さて、物語は佳境に入っているので、今は内容についてどうこう言う段階ではない。
ただ、読んでいて、過去の犯罪小説が相当数、言及されている。
その筆頭が、ジェイムズ・エルロイ。
ミステリー系の本はあまり読まない小生だが、さすがにジェイムズ・エルロイは、何冊か読んだことがあった。「暗黒のLA四部作」のうちの一冊か二冊など。
ミステリーではないが、犯罪物で一番、印象的なのは、マイケル・ギルモア著の『心臓を貫かれて』 (村上春樹訳)である。
東京在住時代、近所の小さな書店で見つけて買ったもの。
訳が村上春樹ということで手にしたのか、何か他の本でマイケル・ギルモアの存在を知ったのか、記憶は曖昧である。
「マイケル・ギルモア著『心臓を貫かれて 上・下』」なる簡単な感想(にもならない)感想文を当時、書いていたのを発見。
すると、その冒頭近くに、「この本を知ったのは柳美里(ゆうみり)著の『言葉のレッスン』(角川文庫刊)に よってである。その中で本書の一部が引用されていたのである」とあった。そうだったっけ。
← トマス・H・クック著『心の砕ける音』(村松潔・訳 文春文庫) (画像は、「文藝春秋BOOKS」より) 拙稿「クック著『心の砕ける音』を読んで あるいは捏造された過去」参照のこと。
いかにも、だだっ広いアメリカの殺伐とした光景が目に浮かぶようだった。
なんたって、「みずから望んで銃殺刑に処せられた殺人犯の実弟が、兄と家族の血ぬられた歴史、残酷な秘密を探り哀しくも濃密な血の絆を語り尽す」といった内容なのだ。
そうそう、上記したように、本書は近所の書店で買った本の一冊。その頃、この書店は、普段は置かないような本が奥の一角に並んでいて、小生は、並ぶ本を片っ端から買い漁った記憶がある。
多くは、「新曜社」の本だった:「新曜社ホームページ」
十冊は揃えた。なぜか当時の自分の関心にヒットする本ばかりだったので、その頃刊行された本の大半を買ったのだ。
幾つか列挙すると、上記の本をはじめ、バリー・サンダース著『本が死ぬところ暴力が生まれる』(杉本卓訳、新曜社刊)、ダ ニエル・ネトル/スザンヌ・ロメイン著『消えゆく言語たち』、ブラ イアン・マギー著『哲学人(てつがくびと)上・下』、板谷利加子著『御直披』(角川文庫刊)、トマス・H・クック著の『夜の記憶』『心の砕ける音』(共に文春文庫刊)などなど。
その書店で、寺田虎彦随筆集全六巻、中谷宇吉郎集、夏目漱石全集、埴谷雄高全集などを買い揃えたものだ。
← ピエール・ルメートル著『悲しみのイレーヌ』 (橘 明美訳 文春文庫) ピエール・ルメートルは今、脂の乗り切っている作家。本書を皮切りに、ヒット作を連発。
その書店、ある日、立ち寄ったら、突然、閉店を告げられた。
青天の霹靂だった。ああ、お前もか! である。
思えば、新曜社の本が並んだ頃は、その書店の最後の足掻き、店主の意地だったのかもしれない。
町の小さな書店にありがちなことだが、その店だって、学習参考書や漫画、雑誌ばかりが目立っていて、読み応えのある本は皆無に近かった(新刊が少々目立つ程度)。文庫本にしても新書にしても、岩波がない。
大概の書店は、歯ごたえのある本は置かないようになっていた。
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コメント
まあ、それは残念です。
本はアマゾンで頼めば手に入りますが、ずらりと並んだ本棚から出会える本もあります。
何よりも、本だらけのあの雰囲気がいいですね。
街の本屋はこちらもなくなる傾向にあります。
大きな本屋は別ですけどね。
電子書籍にはなじめないなぁ…。
投稿: 砂希 | 2015/12/26 20:36
砂希さん
昔、本を買うことが楽しみでした。
近所の小さな書店に立ち寄り、棚の本を物色し、気を引いた本を選び、一冊の本を手に帰宅する。
早く読みたくてたまらない、ちょっと苦しい気持ちを持て余しながらの帰宅の道。
でも、町の本屋さんが消えて、そんな楽しみはなくなった。
さらに、生活のあわただしさが、小生に本のまとめ買いを強いている。
町の書店がなくなるってことは、生活のスタイルの一つが消えることでもありますね。
マニュアル本などは電子書籍でもいいけど、通常の本はハードでないと、読んだ気がしない。
投稿: やいっち | 2015/12/27 21:49