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2015/11/17

蒼白の美を生きる

 炸裂する瞬間。
 吹き出す命。

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→ itumademo ikitenai  (ホームページ:「小林たかゆき お絵かきチャンピオン」)

 振り返っても、前を向いても、あとはない。
 一歩一歩が綱渡り。
 
 誰かが大真面目な顔をして言ったっけ。
 川を歩いて渡るには、どうするか? まず、一歩、岸辺から右足を踏み出す。
 その足が水に沈む前に左足を踏み出す。
 左足が没する前に、大急ぎで右足を踏み出す。
 以下、この要領で一気に川を渡ればいい!

 なるほど、理屈だ!

 私は真に受けた。やってやれないことはないと信じた。
 それどころか私は、川を渡るなんて、そんな中途半端な真似は恥ずかしいと思った。
 なぜなら、そんなことは先人がとっくにやってのけているに違いないのだ。
 二番煎じなど、意味はない。誰も評価しないだろう。物真似など流行らない。
 
 私はその上を行こうと思った。
 ある日、私は東尋坊の絶壁の際に立った。
 そう、私は空中浮揚をやりたかったのだ。
 それでこそ、先人の先を行くことになる。
 断崖絶壁の淵に立った。風が足元から吹き上げてくる。
 背からは、人々の叫ぶ声。ああ、囃子声だ。みんなが私の勇気を讃えている。
 中には、やめろーと叫ぶ奴もいる。やめてくれーという悲鳴にも似た叫びが耳を劈(つんざ)く。
 
 ふん、やめてなるものか。この期に及んでやめるわけにいくものか!
 あいつら、私に嫉妬しているのだ。私に先を越されるのがそんなに嫌なのか。誰も思いつかなかった業(わざ)を私がやってのけるのを邪魔しようってんだな。
 
 急がなくっちゃ。いつやる? 今でしょ! って、私へのエールに違いない。

 私は吹き上げる風に勇気と励ましを感じた。
 足を一歩、踏み出す。風が足への大地となってくれる。さらにもう一歩、踏み出す。雲が私を載せる舟となってくれる。

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← itumademo ikitenai  (ホームページ:「小林たかゆき お絵かきチャンピオン」)

 ゴーという風の唸りが、目くるめく雲と青空の斑模様が、私への道しるべ。耳鳴りがする。目ん玉が飛び出す。ベロが目ん玉を追って、のたうっていく。
 真っ赤な海の潮は遠い日の子宮への誘いだ。

 私から腸(はらわた)という腸が飛び去って行く。蜘蛛の糸の乱舞だ。砕けて散っていく真っ白な真珠の煌き。砕ける潮は泡となって私の魂を囲繞し尽くす。

 私は蒼白の美を生きる。
 ああ、今こそ、世界との和解の時だ!

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