人間臭さから虚構の極みへ
いろいろあって、数日の連休となった。組合の会合(当然のごとく、関連書類作り)、町内会の会合、そこへ不意に入ってきた親戚の訃報と葬儀、車検、タイヤ交換、灯油の買い出しなどなど。
← ポール・オースター【著】『最後の物たちの国で』(柴田 元幸【訳】 白水Uブックス) (画像は、「紀伊國屋書店ウェブストア」より)
会社でのトラブルがあって憂鬱な日々でもあった。不祥事は自分が引き起こしたわけではないが、責任は役員たる自分に問われてくる。会社の姿勢に落胆失望。
でも、諦めるわけにはいかない。
余暇というか、時間を見出しては、読書する。誰も話し相手があるわけじゃなし、車ではラヴェルやらABBAなどのCDを楽しみ、家では本を読んで気を紛らす。
この二三日は、朝日新聞の書評で刊行を知った、星野博美著の『みんな彗星を見ていた 私的キリシタン探訪記』を読んできて、今日の夕方読了した。
初めての著者。大宅壮一ノンフィクション賞を受賞されたとのことだが、全くノーマークの書き手。写真家でもあるらしい。ノンフィクションも写真も、書店では大概、スルーするジャンル。関心がないわけじゃないが、小生の狭い読書範囲には及ばない領域なのだ(読める本の数が少ないし)。
上記したように、書評を読んですっかり惹きつけられた。題名もいいが、「迫害の世に、キリシタンは何を思い、どう生きたのか。そこに生きた人々の声がたしかにいまも聞こえる。キリシタンの足跡を求めて、長崎からバレンシア、バスクまで――。 リュートをつまびきながら、400年の歴史に埋もれた真実に迫る、異文化漂流ノンフィクション」といったテーマがいい。そして読んでいて感じられる、著者のマイナーな文化に引き寄せられ素直に飛び込んでいく姿勢というか資質にも魅せられた。
宣教師については、教科書などで聞きかじった紋切り型の知識しかなかった自分には、「日本で殉教した外国人の神父たちは、どんな思いで最期を迎えたのか」、あるいは洗礼を受けた当時の大名や武士、庶民の気持を知るに、実に素晴らしい本だった。
著者の「星野さんは、当時の人々が手にしたリュートをつまびきながら、時代を生き抜いたキリシタンの姿を想い、長崎からスペインまで400年の時空を超えた旅に出」、その先で「歴史に埋もれた真実」を見出す。
最後には、日本で処刑された一人の神父の郷里に旅に出て、行き当たりばったりの旅の果てに、実に人間臭いドラマを呼ぶ。これは著者の人柄ならではのドラマだろう。
世界にとってはもちろん、戦国時代から江戸時代の初めにかけての日本にとっても、スペインやポルトガル、オランダからの船乗りたちは、衣の下は海賊であり、宣教師を先頭に、世界を植民地化し、奴隷化し、資源を人間を略奪する、とんでもない連中だった…というイメージだろう。
決して間違いとは思わないが、でも、航路だって未開拓だった時代、海を越えて、それこそ命を懸けて未知の世界へ飛び出していく、その勇気(なのか、欲望なのか、名誉欲なのか、ただ、野蛮に過ぎないのか)は、島国根性に染まり切った自分には、その企図は、意図がどうであれ、想像を絶するものがある。
行った先で命を埋めるという覚悟は何処から来るのだろう。
そこまでは、本書では把握しきれないのだが。
上掲書に続き、小生の好きな作家ポール・オースター著の『最後の物たちの国で』を手にした。
彼の本は、東京在住最後の頃から、帰郷して父母が亡くなった五年前まで、図書館で手当たり次第に読み漁った。
この二三年、ようやく彼の本を一冊、また一冊と買っては読めるようになった。
なので、まさか新書版で彼の小説が出ているとは、ノーマークだった。
書店でたまたま目にして、即、ゲット。
← 星野博美著『みんな彗星を見ていた 私的キリシタン探訪記』( 文藝春秋BOOKS)
出版社の内容説明によると、「人々が住む場所を失い、食物を求めて街をさまよう国、盗みや殺人がもはや犯罪ですらなくなった国、死以外にそこから逃れるすべのない国。アンナが行方不明の兄を捜して乗りこんだのは、そんな悪夢のような国だった。極限状況における愛と死を描く二十世紀の寓話」だとか。
本書についての情報を得ようとしたら、同じく、白水Uブックスシリーズ、同じ柴田 元幸氏訳で、「鍵のかかった部屋」もあることを、その際に初めて知った。
ノンフィクションからポール・オースターならではの、徹底して孤独を極める虚構の世界へ心を遊ばせる……
人間臭さから虚構の極みへ。
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