最後の一葉
晩秋の風に葉っぱたちが揺れている。残り少ない、黄色や赤の葉っぱたちが、枝先にしがみついている。
吹き飛ばされたら最後、命の絆が断ち切られる。懸命に、そう、必死になって。
→ お絵かきチャンピオン 作「吊られて」 (ホームページは、「小林たかゆき お絵かきチャンピオン」)
でも、樹木の滋養は限られている。それより、滋養じゃなく、樹木の中の老廃物を葉っぱに吸い込んでもらって、風と共に消え去ってもらって、本体は身綺麗になって、冬の先の復活を忍び待つのだ。
そう、お前はトカゲの尻尾、樹木の捨て石、捨て駒なのだ。
だからといって、はいそうですか、とはいかない。捨て去られる物の身になってみれば、見苦しい、往生際が悪いと見下されようと、絆を信じていたいのだよ。
ああ、みんながオレに消え去って欲しいと願っている。お前さえ、居なくなってくれたら、どんなにみんなすっきりするか、一刻も早く目の前の梁(うつばり)が取れてもらいたいものだと希っている。
そうか、そんなにもオレは邪魔なのか。邪魔で邪魔でならなかったのか……
オレは吊るされている。毛細血管にも似た、細い一本の葉脈が引き千切れそうになっている。オレの重み自体がオレの命を断つ枷なのだ。
ああ、オレはいつ吊るされたのだ? 誰がよりによってこのオレを選んだのだ。他にだって候補はいっぱい、居ただろうに。
えっ? オレが最後だって? ほかのみんなはとっくに風と共に去って、豊穣の大地を褥として、永遠の眠りを貪っているんだって? そうだったのか…そんなにもオレはしみったれた余計者だったのだな……
ああ、でも、いやだ、いやだよ。オレはしがみついていたい。吊るされ処刑されてでも、永劫の晒し者と、嗤われ嘲られても、オレはしがみついている。
未練がましくって、何が悪いのだ? 誰だって死にたくはないし、見捨てられたくはないはずだ。このオレも!
……そうだった。オレは、風に吹き飛ばされて、豊穣の地から、ついうっかり樹木と間違えて、杉の木の電柱にへばりついたのだった。ああ、恥ずかしくて誰にも言えない!
せめて、風に飛ばされる葉っぱ、最後の一葉だと、思わせておいてくれたまえ!
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