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2015/09/07

青い花の女

 どこにでもあるような、青い花。
 どこへ行っても目にする、青い花。

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 そう、お前がどう逃げ回っても、その青い花からだけは逃げられない。
 なぜなら、それはお前の脳裏に刻み込まれた花だからだ。

 お前の真っ青な脳髄には、青い花しか咲かない。
 影も青ければ、血の色も真っ青だ。
 お前には、情ってものがない。人に共感する情けがない。
 そう、お前は、本当に情けない奴なのだ。
 そんなお前には、青い花がお似合いなのさ。

 淋しすぎるって? 悲しすぎるって?
 ふん、何をいまさら。自業自得じゃないか!
 青い影がお前を取り囲んでいる。吹きすぎる風さえ、青い。
 日の光も青。涙の色も青。お前の愛情だって、非情の青だ。

 誰もお前のためには泣かない。

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 透明な湖の水面を覗いてみろよ。そこにはどんな姿も映りはしないだろう。
 そう、お前はこの世にはいないのだ。
 いる、なんて想いたがっているのは、お前だけ。世界中の誰も、お前の姿など見ない。みんな素通りしていく。
 世界の中心で、泣き叫び、喚いてみても、誰にも聞こえやしない。

 お前が生まれた時、壁に埋めてしまった女はどうした。
 えっ、覚えていないって? 見たことがないって? 
 だからお前は酷薄な奴と思われてしまうんだ!
 見たじゃないか。すれ違ったじゃないか。お前の前を影のように、骨と筋だけの姿になって通り過ぎていったじゃないか。お前はまじまじと見詰めていた。いや、目を離すことができなかったのだ。
 なのに、お前は、見たことがない、逢ったことがないと嘯く。
 どうしたらお前は認めるのだ。あの子の血の涙をお前のその手で受け止めるのだ。

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 青い花が咲いている。そう、あの白壁からひび割れ顔を覗かせ、お前を誘っているじゃないか。
 血も脂も、骨だって砕けて粉となって、壁に染み込んで、お前を埋めてしまおうとしている。
 もう、こうなったら、お前と女の骨と皮と筋と腱とが絡み合い、縺れ合い、いがみ合い、愛し合い、魂魄となるまで諍い続けるしかないのだよ。
 ああ、そうして初めてやっとお前は愛を知るのだろう。
 なんて、世話の焼ける奴なのだ、お前は。
 あのおんなの深情けを奥津城で知る、それがお前にお似合いなのだ、お前だって、分かっているはずだ、そうだろ?


(本文中に挿入した絵は、いずれも、「小林たかゆき お絵かきチャンピオン」より)

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