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2015/09/04

文庫版「物質的恍惚」を入手したのは

 バシュラールには何か、形そのままに残したい守りたい至福の時空間=真理 があるように感じられる。その至福の次元を実現させるものは詩に他ならない と彼は考えている。

Urejio

← ル・クレジオ【著】『物質的恍惚』(豊崎 光一【訳】 岩波文庫) 出版社の内容説明によると、「既知と未知の、生成と破壊の、誕生前と死後の円環的合一のなかで成就する裸形の詩。「書くこと」の始原にして終焉の姿」とか。本書が新潮社より刊行された単行本で若き日に読んだ。掴みきれないままに。今も単行本を所蔵しているが、車中で読むために敢えて文庫本を入手した。 (画像や情報は、「紀伊國屋書店BookWeb」より)

 その詩とは、単なるイメージ(我々が思う、ただのイメージに過ぎないとい う時のイメージ)ではなく、物質としての詩的イメージの世界なのだ。バシュ ラールの言葉を借りれば、詩的想像力、さらには物質的想像力によって実現さ れる現実の時空なのである。

 そう、バシュラールは、詩的空間を単なる言葉の上の蜃気楼とは思っていな い。机や椅子や家や木々や石や焔と同じく、極めて人間的な想像空間に現出し た物質の一つの様相なのである。

 言葉は単に言葉に終わるものではないのだ。人間にとって言葉はナイフが心 臓を抉りえるように、心を抉りえる可能性に満ちた手段であり、まさに武器で あり、こころの現実に実際に存在する物質なのである。

 しかし、その物質は、手に触れないで遠くから見守る限りはそこに厳然とし てある。にもかかわらず言葉で、その浮遊する時空間から抽出しようとすると、 本来持っている命も形さえも崩れ去り失われてしまう。

 詩の言葉は、誤解されやすい。イメージの空間で漂うだけの、非現実のもの だと見なされやすいのである。言葉の創出する蜃気楼空間に須臾(しゅゆ)在 る蜻蛉(かげろう)に過ぎないと、見なされやすいのである。
 小生は学生時代からン十年を経て、少しは社会経験も積んだし、それなりの 生活苦もある。そんな小生が今になって改めて詩を見直している。サイトを巡 って、詩人さんの部屋を覗いたりしている。それは何故だろうか。
                     (中略)
 アールブリュットの作家として有名なのは、J・デュビュッフェなどがいるが、 小生は上掲の展覧会で、心の一番生(なま)な姿が現れているような気がした のである。そこに示されている世界は、多くは凡俗なる小生には歪んだ異常な 世界のように映ってしまうが、しかし、にもかかわらず、魂がそこには確かに あった。呻き、もがき、曲がりくねり…、そう、決して直線的には魂が現れて はいないのだが、しかし、魂が訴えかけていることだけは断言できる。

 彼らの魂は、大地の下にあって顔を覗かせようとしている。しかし、運悪く、 やっと日の目を見ようとしたら大地には岩が彼らの芽吹きを阻んでいたのであ る。それでも魂は諦めない。必死な思いで岩の下を這い、岩に亀裂を生じさせ、 なんとか日の光を浴びようとしているのだ。
 小生が生の芸術と呼ぶのは、そうした切実な魂の叫びなのである。その表現 なのだ。表現の形が少々歪んでいたって構いはしないのだ。

 その何とか顔に、魂の上に圧し掛かる岩を跳ね除けようとする試みのエネル ギーが物質的想像力と小生は勝手に思っている。魂は心有るものには、間違い なく現実にあるものと映る。木や石や机のように、人間にとって魂は、心は現 実にある。物質(と称されるもの)以上に切なく、しみじみと(目にはさやか に見えねども)そこに厳然としてあるものなのだ。

 そうした時空間は、ひたすらに心を密やかにひめやかに息を潜めて見つめな いと見えないし、まして実現するのは難しい。バシュラールも強調しているよ うに、いわゆる科学的方法では、いかにしても見出せないし検証も不可能な世 界でもあるのだ。

 ちょっとバシュラールから離れてしまったけれど、バシュラールが家や貝殻 や巣や片隅を偏愛するのも、あるいは小宇宙の中に潜む大宇宙を強調するのも、 誰もが見過ごしがちな、誰もが忘れがちな時空間は、実はそこにある、かって あったし、けれど今はないものではなく、現に今もそこにあることを、ありつ つあることを誰よりも知っているからに違いない。

(「バシュラール『空間の詩学』 あるいは物質的想像力の魔」より抜粋)

関連拙稿:
物質的恍惚/物質の復権は叶わないとしても
バシュラール『空間の詩学』 あるいは物質的想像力の魔
ル・クレジオ…物質的恍惚!
物質的恍惚の世界を描く!

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