ボラーニョ 著の『2666』の世界の真っただ中
蛇足ながら、ポピュラーな小説だと、『羊たちの沈黙』や『心臓を貫かれて 上・下』(マイケル・ギルモア著、村上春樹訳、文春文庫刊)なども、思わなことはなかった。ここに参考にでも、書名を出すのは見当違いだとは思いつつも、殺人事件の連鎖の殺伐さに、余儀ない連想かなと、強弁したくもなる。
以前、ガブリエル ガルシア=マルケス 著の『 百年の孤独 』を読んで、以下のような感想にもならないつぶやきを書いたことがある:
(前略)「小説の迷宮。
密林の鬱蒼たる闇、濁った大河に溺れ沈み込んでいくかのような生。
それぞれが掛け替えのない個でありながら、宇宙から、あるいは密林の闇の奥から見れば、蟻の長々続く群の一匹でしかない生(逆も同等!)人間の個々の意思や欲望、野心、衝動、本能、血、汗、愛液、骨、脂、そういった一切が切実でありながら、熱帯の熱風と砂漠の乾燥とアマゾンの奔流とに、溶かされ削られ、抉られ、形を奪われていく。
また、フォークナー作の『八月の光』を巡っては、以下のような感想を書いた:
小生にその力量などはないが、ミシシッピ州という地を舞台なのなら、黒人と白人もだが、その前に徹底して虐殺され殲滅し尽くされ、フォークナーの時代には影が完璧なまでも消滅し去ったかのような、インディアンの怨念こそが、分厚い底層の岩盤として表現の俎上に登らせねば済まないだろう。
そして、「八月の光」というとき、茫漠たる空無のような世界の乾いた空気の中に、嘗ては息衝いていたはずのインディアンの部族たち生活の名残りを嗅ぎ取らなければウソなのではないかと思う。
先住民を抹殺して更地にして、その上に白人の、神の国を作り上げるという、とてつもない虚構。
その虚構が八月の乾いた風や眩し過ぎる光を刺激にして物語として成ってくる…はずなのである。「彼(フォークナー)の妻が八月という月の南部の光が持つ異様な性質について感想を述べた」という時、妻は流された黒人の血や涙だけではなく、その南部の乾ききった土壌に埃や塵となって混じっているに違いない、インディアンの血や肉や骨や涙の匂いをも嗅ぎ取っていて、だからこそ、南部の光が持つ異様な性質を呟いていたのではなかろうか。
アメリカ文学の現状がいかなるものかは小生は知らない。が、アメリカの白人ら犯し血肉に刻まれている原罪の深さは、まだまだ語り尽くされていないはずなのである。
← ロベルト・ボラーニョ 著『2666』(野谷 文昭 やく /内田 兆史/久野 量一 訳 白水社) (画像は、「2666 - 白水社」より) 「現代ラテンアメリカ文学を代表する鬼才が遺した、記念碑的大巨篇」だとか。ラテンアメリカ文学は、依然として輝いている。読み始めて数日。ようやく300頁を越したところ。いよいよ、異常な犯罪多発を扱う章に入る。カバー画は、ジュール・ド・バランクール
ロベルト・ボラーニョ 著の『2666』は、小説の舞台は、架空の地とはいえ、主に、メキシコである。
北米のフォークナー(やマイケル・ギルモア)、南米のドノソやマルケスら、そしてその間にポラーニョ。
文学の世界は、どんどん、グロテスク化し、先鋭化していく。ただ、同時に美的に極まり、ある種のユーモアも欠けていないのが面白い。
どんなに深甚な世界に迷い込もうとも、やはり、どこか、ユーモアかウイットで自分の世界を相対化する目が必要なのかもしれない。文学、あるいは芸術の不思議な(且つ大事な)側面のようである。
関連拙稿:
「ボラーニョ 著『2666』と映画「ボーダータウン 報道されない殺人者」」
「ドノソ著『夜のみだらな鳥』へ」
「連休は畑とマルケスと(後編)」
「『八月の光』に嗅ぎ取るべきは」
「マイケル・ギルモア著『心臓を貫かれて 上・下』」
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