ゲノム解析と「生そのものの政治学」
今日は休みだったのだが、組合の会議があり、出社し、代議員会議を委員長として主宰。
議論百出だったが、業界の厳しさが色濃く反映された会議でもあった。
← ニコラス・ローズ:著『生そのものの政治学 二十一世紀の生物医学、権力、主体性』(檜垣 立哉:監訳, 小倉 拓也:訳, 佐古 仁志:訳, 山崎 吾郎:訳 叢書・ウニベルシタス 1017) (画像は、「法政大学出版局」より)
会社は、ドンドン乗務員を増やしている。配車の都合、営業の都合もあって、台数(乗務員)の数をできるだけ増やしたい、遊んでいる車はできるだけ減らしたい…。
一方、仕事やニーズがこの不景気の世の中、しかも、地域の車の数が多すぎる現状にあっては、つまりは、限られたパイを乗務員同士が喰いあう結果になる懸念は大である。
会社は、台数(乗務員)の数が確保できれば、一定の売り上げが確保でき、利益も確保できる。だが、上記したように、乗務員個々の売り上げは減る可能性がある。
個々の売り上げを減らしたくない、増やしたいなら、早出や残業を厭わず、ドンドン、働けばいいじゃない…という会社側の姿勢が見え見えだし、実際、そうした無理な営業を強いる(期待する)趨勢が見えつつある。
だからこそ、弱体な組合だが、活動の意義は高まることはあっても、なくなることはないわけである。
会社側(経営側)と乗務員側は、下手すると利益相反すらしかねないわけで、今後の戦いは厳しい。
組合としては、会社と協調して盛り上げていきたいと思っているのだが、ますます会社は組合を邪魔で煙たい存在と見なしていくのだろう。
我々としては、なんとか穏便で健全な方向性を見出したいと思っている。
今年の一月、「タクシー運転手「残業代ゼロ」は無効ーー国際自動車に「未払賃金」の支払い命じる判決弁護士ドットコムニュース」なる大きな、画期的なニュースがあった。
詳しくは同ニュース記事を観てほしいが、「東京地裁の佐々木宗啓裁判長は「売上が同じ場合、残業をした運転手とそうでない運転手の賃金が全く同じになる」と指摘」された点が大事なのである。
これは地裁段階だったが、控訴審においても、「タクシー業界にはびこる、実質的に残業代等を支払わない歩合制賃金が東京高裁でも否定された」、同様な判決が出た:
「国際自動車残業代請求訴訟(第一次)控訴審も勝訴 暁法律事務所」
さて、今日は、ニコラス・ローズ著の『生そのものの政治学』を読了。副題に、「二十一世紀の生物医学、権力、主体性」とあるように、政治学を生物医学の今日の成果に基づいた観点から見直しを迫っている。
内容紹介には、「19世紀以来、国家は健康と衛生の名のもとに、人々の生死を管理する権力を手にしてきた。批判的学問や社会運動が問題視したこの優生学的思想はしかし、ゲノム学や生殖技術に基づくバイオ資本主義が発展した21世紀の現在、従来の批判には捉えきれない生の新しいかたちを出現させている。フーコー的問題を継承しつつも、病への希望となりうる現代の生政治のリアルな姿を描き出す」とある。
ゲノム解析は、特定のゲノムの配列が、特定の病理学的変異に一対一対応するような結果をもたらさず、むしろ、ほんの二、三の形質や傷害だけが、遺伝子を遺伝の単位とみなす以前の「メンデル的な」考えと一致したのである。
「現代の生物学的思考様式においては、単一の遺伝素質、あるいは健全であるかもしくは不健全であるかといった体質などは存在しない」という。むしろ、「われわれみなが、さまざまな条件に対してゲノム的く脆弱性、つまりわずかな、離散的な、そして分子的な脆弱性を担っている」という。
ハンチントン病などのような傷害における、疑う余地のない遺伝子的病理にかんする論理はあったとしても、そうした一見口を差し挟みようのないそうした遺伝的病理は、むしろ知覚の差異に由来する極端な例にすぎない」とも。(以上は、本書のp.377-378 参照)
テレビなどで、遺伝子解析が過大に評価され、誤解されかねない伝えられ方をされがちだが、ゲノム解析は、もっと入り組んだ、生命の仕組みをわれわれに求めているようである。
一方、「健康への視角は、政治家以上に医学の専門家たちによってもたらされている。各種療法士やカウンセラーなど新しい専門家たちは、より広範囲に生そのものへと介入していく。構造を下支えするのは、巨大資本による「生経済」」なのである(「書評:生そのものの政治学—二十一世紀の生物医学、権力、主体性 [著]ニコラス・ローズ - 水無田気流(詩人・社会学者) BOOK.asahi.com:朝日新聞社の書評サイト」参照)。
情報的には弱者であるわれわれ。一方、「成長著しく、グローバルに展開する生命市場」の圧倒的な情報量と情報操作という現実がある。われわれのゲノム理解の乏しさをいいことに、巨大資本に都合のいい情報が垂れ流される。
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