すべての生物は絶滅をまぬがれない
ブライアン・スウィーテク著の『移行化石の発見』を読了した。実に面白い本で、車中で読むのは勿体なかった。
今ではわりとその事実が知られるようになってきたが、アメリカ人の大半は進化論を信じていない……だけじゃなく、授業で教えることすら毛嫌いする。
← ブライアン・スウィーテク著『移行化石の発見』(野中 香方子訳 文春文庫) 「陸に棲んでいたクジラ、羽毛に覆われた恐竜…ダーウィンが見つけ得なかった進化途上の「移行化石」が、いま次々と発見されている」という。ダーウィンがこの成果を知ったら…なんて、考えるだけ無駄だろうけど、でも、ダーウィンは、証拠が未だ見つからなくても自分の理論に自信を抱いていたんだろう。
だが、進化論を論破できないのはともかく、多くの人には理解が及ばない理論なのかもしれない。
人がサルと同祖なんて、人間を侮辱している、神の教えたる聖書を侮辱している、ヒトは格別な存在なのであり、中でも白人こそは、神の荷姿なのだ…、地球の歴史は六千年で、その前のことなど、想像も付かないし、考えること自体、許されざること…
そんなアメリカと同盟関係を強化するなんて、何か怖い気がする。
イスラム国(IS)は何をか言わんや、である。
進化論より、自分たちの信じている神か教祖こそが絶対者なのだ、そして、その教えを信奉している自分の言動は正しい…。
手も付けられない。
けれど、進化論が教えるのは、進化の歴史の偶然性であり、たまたまこうなっていたに過ぎないという厳粛な事実だ。
だからこそ、今、生きているすべての生き物が掛け替えのない存在なのだと、歴史の事実、あるいは事実の検証が教えてくれる。
一度失われた命や種は、二度と戻らない。再現されることもない。地球上にあるどんな種の命も貴重なのだという理解は、人間は格別な存在だと思いあがるより、よほど深い思想であり、そのことに考え及ぶと、厳粛な気持ちにならざるをえない。
← フランク ライアン著 『破壊する創造者――ウイルスがヒトを進化させた』 (夏目 大訳 ハヤカワ・ノンフィクション文庫) 「ウイルスは怖い存在だ」が、「実は生物進化に重要な役割を果たしてきたという」。「ウイルスが自らの遺伝子を宿主のDNAに逆転写し共生していること、 ヒトゲノムの約半数がウイルス由来であることなど」、瞠目の説が解き明かされている。たまたま上掲書と並行して自宅で読んでいる。こちらも必読の書だ。
著者のブライアン・スウィーテクは、「(前略)なんらかの計画に沿って整えられたわけではないし、生物がより完璧な適応をめざして祝福された道を進化していくよう運命づけられていた、という徴候も認められない。生物の今の姿は、そうなることがあらかじめ決まっていたわけではないのだ」として、本書の終章の末尾で
以下のように結んでいる:
わたしたちは常に、自然のなかの自分たちの位置づけを明かそうとしてきた。四六億年を超える地球の歴史、そして地球上に生命が存在してきた三〇億年を超える年月のあいだ、人間とヒト族の親戚たちの進化は一度かぎりの出来事であり、それも比較的最近起きた。この事実が物語っているのは、わたしたちヒト族はこうなるように運命づけられていたのではなく、レンスキーの研究室の細菌と同じく、偶発的なプロセスから生まれた珍しい産物であり、進化をもういちどやり直しても、おそらくふたたび生まれることはない、ということだ。受け入れがたいと思う人もいるかもいれない。この地球上では、すばらしく変化に富んだ無数の生き物が栄えては滅びてきたが、わたしたちは今なお、自分たちの存在はあらかじめ計画されていて、特別な意味を委ねられていると信じる理由を、どんなものであろうとも探さずにはいられないのだ。カエデの木やイトトンボやツチブタの存在について、その必然性を論じようとする人はいない。特別に計画された自然界の頂点にして、その目的と見なされるのは、いつもわたしたちの種だけである。そのような思いあがりはまちがっている。
(中略)
わたしたちがうぬぼれを捨て、進化を理解すれば、地球上の生命のすべてが一層尊く感じられるようになるだろう。今を生きるすべての種は唯一無二のものであり、数十億年つづいている系統の今なお変化しつづける一部であり、一度消えてしまえば永久に失われてしまえば永久に失われてしまうのだ。同じことはわたしたちの種についてもいえる。遅かれ早かれ、すべての生物は絶滅をまぬがれないのである。
人間のような生物はこれまで地球上に存在しなかったし、わたしたちが消えれば、ふたたび現れることはないだろう。人間の歴史が偶然の積み重ねであったことを思えば、わたしたちはじつに驚くべき存在なのだ。もし自分たちについて知りたいと思うのであれば、その歴史を理解しなければならない。わたしたちは年月と偶然から生まれた生き物なのだ。
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