未明の出来事
未明のこと。そろそろ明けようかという頃だったろうか。
寝入ったのは三時過ぎだった。小一時間も眠ったのか。
← ニコラス・ローズ:著『生そのものの政治学 二十一世紀の生物医学、権力、主体性』(檜垣 立哉:監訳, 小倉 拓也:訳, 佐古 仁志:訳, 山崎 吾郎:訳 叢書・ウニベルシタス 1017) 「19世紀以来、国家は健康と衛生の名のもとに、人々の生死を管理する権力を手にしてきた。批判的学問や社会運動が問題視したこの優生学的思想はしかし、ゲノム学や生殖技術に基づくバイオ資本主義が発展した21世紀の現在、従来の批判には捉えきれない生の新しいかたちを出現させている」という。フランク・ ライアン著『破壊する創造者――ウイルスがヒトを進化させた』 を読んで、ウイルスがいかに人間などの生き物の存在に影響を与えてきたか、現に与えつつあるか、今後も間違いなく共生の道を選ぶしかないことを学んだこともあって、最新の医学や生物進化学を踏まえた政治学論を読みたくて本書を手に取った。 (画像は、「生そのものの政治学 « 法政大学出版局」より)
お腹に何か違和感を覚えた。尿意とは違う。尿意も感じているが、もう少し重たい感じ。
起きようかどうしようか迷っていて、そのままベッドに横たわっていた。
すると段々、下っ腹に重みというか圧迫感のような感覚を覚え始め、やがて痛みに変わってきた。
便でも溜まっている? そんなはずはない。でも、就寝前にソーメンを食べ、さらにミカンやバナナを結構飲むように口にしてしまっている。
というのも、ひところ話題になっていた、絞りタイプのジューサーを買ったので、夜中なのにもかかわらず、早く使いたくて、買い込んでおいたミカンやらバナナをこのスロージューサーで絞って、ドロドロのジュースに仕立て、飲んでみたのである。
普通のジューサー(ミキサー)は持っている。だが、このスロージューサーは野菜や果物の繊維を壊さないという謳い文句が魅力。
野菜嫌いだし、果物も目の前に無い限りは店で買ったりしない小生、この新手のジューサーで野菜や果物を口にしやすくという魂胆で高い金を払って入手したのだ。
もしかして、ジュースの状態だったので、思いがけず食べ過ぎとなったのか。あるいは、果物の中に何か虫がいて、ミキサーだったら殺せるはずが、絞りタイプだと、生きたまま呑み込んでしまったとか。
お腹が段々痛くなり、下手するとベッドの上でお腹が緩んでしまうかもしれない。
とにかく、トイレへ!
便座に腰掛けて、もしかしたら出るかもしれない便通を待った。だが、出る気配はない。ただ、腹痛がひどくなる一方で、トイレの中でもがくしかなかった。身動きができず、頭をトイレのドアにぶつけてみたり、体を捩ってみたり、悪足掻きを試みるも、腹痛の症状が悪化するばかり。
鈍痛とでもいうのか、刺すような痛みではないし、きりきり痛むわけでもない。痛みの中心が曖昧なままに痛みの黒雲がドンドン大きくなり黒くなっていくようだ。
苦しいし痛くて、トイレの便座に釘付け。とうとう救急車を呼ぶことになるのか。
けど、携帯も電話機も茶の間だ。
腹痛。腸ねん転? 盲腸(虫垂炎)? 腸が破裂したとか?
いずれにしても、助けを呼ぶためには、トイレを出て、廊下を十メートルほど進み、ドアを開け、寝室の向こうの茶の間に向かわないといけない。
今の自分にそんな余力はあるのか。身動きなど論外ではないのか。
誰か助けてくれる人は…いない。仮にいても、茶の間から連絡を取るしかない。どうしようもない。
トイレの中で倒れてしまうのか。
思えば、97年にも腹痛で死にそうになったことがあった。
あの時は、ワンルームの部屋のベットで身動きもできずに、吐き気と痛み、熱に耐えていた。手を伸ばした一メートルほど先に電話があるのだが、あと数十センチ手が届かない。救急車も呼べない。
一晩中、苦しみ続けた挙句、たまたま朝になって生き延びていた。ふらつく体を必死の思いで日赤に向かった。診察の際、お医者さんに血液検査の結果について、今現在の数値でもとっくに死んでいても不思議ではないと云われた。黄疸の症状が出ていた。
あれから数か月は顔色が真っ黄色だったものだ。
← フランク・ ライアン著『破壊する創造者――ウイルスがヒトを進化させた』 (夏目 大訳 ハヤカワ・ノンフィクション文庫) 「ウイルスが自らの遺伝子を宿主のDNAに逆転写し共生していること、 ヒトゲノムの約半数がウイルス由来であることなど、驚きの事実が解明され、医療に新たな道を拓いていく」という本。ウイルスとの共生が人間などをまさに人間たらしめた面が想像以上に大きいとか。驚倒の本だった。一昨日、読了。医学も生物進化学も、ウイルス学も驚くべき変貌を遂げつつある。
トイレでどれほどの時間、苦しんでいただろう。初めは症状が悪化の一途をたどっていたのが、不意に、あるいは痛み(症状)がピークを越えたのでは、という、根拠のない、淡い期待を抱き出した。
気のせいか、頭をドアに宛がってつっかえ棒のようにし、身もだえして痛みを誤魔化すしかなかったのが、頭をドアから離してみようかと思い始めた。腹痛も徐々にだが収まりかけている。
そのうち、便座から立ち上がれるかも、という予感が。
実際、恐々ながら、歩ける。茶の間までは無理だが、廊下を挟んで隣にある寝室までなら、よろよろ歩ける。
ベッドに横たわってみた。痛みがぶり返すこともない。
痛みの原因は分からず、不安の念を抱え込んだままに、それでもいつしか寝入ったようだった。
翌朝、ベッドの上で、無事な自分の存在を確認できた。
日曜日も、何事もなく過ごせた。夕べというか、今朝未明の出来事が過ぎ去った悪夢のようだった。
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