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2015/06/06

一期一会の鵺

 分厚く高い壁。
 苔生すような壁面が闇に潜んでいる。
 昼間の眩いばかりの純白の豪邸とはまるで違う。

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→ 画像は、「鬱勃の闇に葬らん」より。

 遠い昔、深海に沈んだ遺跡。
 なのに、暖かさをひけらかすように窓に照明が。深海魚の眼。
 外の世界に漏らすまいと、完璧に密封された空間の中でオレンジ色の光が静かに舞っている。

 締め出されてしまった。もう、中に入ることは許されない。
 あの灯りはお前の影を映し出してくれるだろうか。ずっと待っていたなら、お前の姿を垣間見れるのか。
 この期に及んで!

 美も真も善も捨てた…。いや、捨てたんじゃなく、縁がないと撥ね付けられたのだ。お前には幻想に過ぎぬと、門前払いを食らわされた。始めから縁なき衆生だったのだと、今頃になって思い知らされた。
 縋りたかっただけなのかもしれない。身の程知らずだったとしても、真と美の煌めきに焦れてしまったのだもの、どうしようもないじゃないか。

 今さら、身の丈に合った、ありふれた和みと癒しの世界に舞い戻って何になる。
 蝙蝠のように密やかに、蟷螂のように貪欲に、夢幻の真善美に食らいついていくのだ。

 噛み切れないって? 永遠に消化不良だろうって? すげなく振られるだけだって?
 いいじゃないか! 所詮、生は一期一会の鵺じゃないか!

 闇は何処までも深まっていく。我が身はひたすら朽ち果てていく。静寂は耳を劈くほどに冷酷だ。肉どころか骨だって断ち切られてしまう。

 何一つ得られないのかもしれない。現に何者でもない。何の見込みもない。それでも、遥かな星を追っていく。星の影を慕い続ける。
 それしかできないのだ。

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