一期一会の鵺
分厚く高い壁。
苔生すような壁面が闇に潜んでいる。
昼間の眩いばかりの純白の豪邸とはまるで違う。

→ 画像は、「鬱勃の闇に葬らん」より。
遠い昔、深海に沈んだ遺跡。
なのに、暖かさをひけらかすように窓に照明が。深海魚の眼。
外の世界に漏らすまいと、完璧に密封された空間の中でオレンジ色の光が静かに舞っている。
締め出されてしまった。もう、中に入ることは許されない。
あの灯りはお前の影を映し出してくれるだろうか。ずっと待っていたなら、お前の姿を垣間見れるのか。
この期に及んで!
美も真も善も捨てた…。いや、捨てたんじゃなく、縁がないと撥ね付けられたのだ。お前には幻想に過ぎぬと、門前払いを食らわされた。始めから縁なき衆生だったのだと、今頃になって思い知らされた。
縋りたかっただけなのかもしれない。身の程知らずだったとしても、真と美の煌めきに焦れてしまったのだもの、どうしようもないじゃないか。
今さら、身の丈に合った、ありふれた和みと癒しの世界に舞い戻って何になる。
蝙蝠のように密やかに、蟷螂のように貪欲に、夢幻の真善美に食らいついていくのだ。
噛み切れないって? 永遠に消化不良だろうって? すげなく振られるだけだって?
いいじゃないか! 所詮、生は一期一会の鵺じゃないか!
闇は何処までも深まっていく。我が身はひたすら朽ち果てていく。静寂は耳を劈くほどに冷酷だ。肉どころか骨だって断ち切られてしまう。
何一つ得られないのかもしれない。現に何者でもない。何の見込みもない。それでも、遥かな星を追っていく。星の影を慕い続ける。
それしかできないのだ。
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