散居村 あるいは 水田鏡の季節
田圃というのは、云うまでもなく稲作のための田。となれば、光景として一番、輝きを放つのは、稲穂の青々としてくる夏、それとも稲の実る秋なのだろう。
ただ、同時に忘れてならないのが、田に水が張られ、田植えを終えた、五月の半ばから六月にかけての光景である。
← 画像は、「自殺する動機、増える生活苦」(2010/05/16)より
まさに、水田の鏡。実際、「水田鏡」をキーワードにネット検索したら、「安曇野の水田鏡」(YouTube)や、「水田鏡の乗鞍」など、関連する項目が浮上してくる。むろん、映像も。
散居村で有名な砺波平野にしても、風景として一番、推奨され宣伝されているのは、水の張られた一面の田に散居村の点在する光景なのである。
例えば、下記サイトには、このように記されている:
四季折々に変化する散居村は絶景で、昼の美しさはもちろん、夜景の輝きはやさしく心を癒してくれます。田んぼに水の張られた時期であれば、月明かりが水田に照らされ美しさが際だち、訪れる人の心にも温かい灯をともしてくれるでしょう。
「となみ夢の平 散居村展望台」(観光スポット|とやま観光ナビ)

→ 画像は、「澄明なる時」(2010/05/17)より
そもそも、鏡という物体、あるいは現象自体が、理屈はそれなりにあるとしても、見る我々には不可思議そのものの体験を与えてくれる。
銅鏡などは、昔は魔鏡だったとも云われれるくらいである。
まして、水田鏡は、水鏡である。水自体がこれ以上ないくらいにシンプルな物体でありつつ、摩訶不思議な物体であり、眺めるほどに豊穣なる世界を垣間見せてくれる。
まして、命をはぐくむ稲の生まれるべき水田が鏡となるのであれば、眺める我々の心持次第で、感じることも際限がない。
鏡は無(心)の器なので、映るのはこの世の現象そのもののはず。なのに、水鏡に映り現出する世界は、異次元の世界が我々の世界に闖入してきたように錯覚させる不可思議さを満々と湛えている。
それでいて、鏡は無心なのである。一切を拒まずに映し出す。美も醜も。
ありのままを映し出している。鏡に眺め入る女性は、一体、何を眺めているのか、いつも不思議に思う。
そんなに懸命に眺めても昨日とそんなに変わるはずはないと思うのだが、眺め観察しているのは、あるいは自らのエゴの描き出す幻想なのかもしれない。あるいは、在りうべからざる異相の己か。
鏡を見ながら化粧をする…と云いつつ、実は、鏡を眺めること自体が、心の化粧なのかもしれない。
← 画像は、「紅葉にはならずともよしカエデたれ」(2010/05/04)より
そういえば、小生、もう十年ほども前のことだが、こんなことを書いたことがある。
こんなことを書かせるというのもまた、女なるものが為す化粧という営為の魔の力のゆえなのか(「初化粧」(2005/01/11)より):
見る自分が見られる自分になる。見られる自分は多少なりとも演出が可能なのだということを知る。多くの男には場合によっては一生、観客であるしかない神秘の領域を探っていく。仮面を被る自分、仮面の裏の自分、仮面が自分である自分、引き剥がしえない仮面。自分が演出可能だといことは、つまりは、他人も演出している可能性が大だということの自覚。
化粧と鏡。鏡の中の自分は自分である他にない。なのに、化粧を施していく過程で、時に見知らぬ自分に遭遇することさえあったりするのだろう。が、その他人の自分さえも自分の可能性のうちに含まれるのだとしたら、一体、自分とは何なのか。
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