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2015/03/15

パッシング!

 昨夜、お客さんを乗せ、タクシーでとある町へ行った。もう夜半をとっくに過ぎている。
 その日は土曜日。且つ、北陸新幹線の開業の日ということもあり、人の出が多い。稼ぎ時である。急いで町中へ帰りたい。でも、繁忙のせいで、営業中は碌に食事もとれない。トイレだって、隙を盗んでやっと、という状態なのだ。

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→ アタナシウス・キルヒャー(1601-1680)作 想像(噂で聞いた)「ブッダ像」 アタナシウス・キルヒャーは、グスタフ・ルネ・ホッケ著の)『迷宮としての世界(下)――マニエリスム美術』を読んで知った人物。

 腹が減っている。軽食を摂る時間も惜しい。そこで好きな缶入りのコーンポタージュを呑もうと思った。
 目的地の近くに目当てのメニューの缶を売っている自動販売機を見つけた。手にして早速、温かなコーンポタージュを呑もうと思ったら、そこへ車が近づいてきた。明らかにこちらの様子を伺っているような雰囲気が漂う。何か、話しかけそう。

 何処かの民家(店?)の敷地から出てきた私を不審者とでも思ったのか。それにしては、警備会社の制服姿じゃなく、普通の背広姿なのだが…
 自動販売機で缶入りのポタージュを買っただけなのだが。

 誰何されそうだったので、私はタクシーを走らせ、帰路を急いだ。

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← ジョン・ブロックマン著『知のトップランナー149人の美しいセオリー 』(長谷川 眞理子【訳】 青土社) 著者は、「ニューヨーク在住の編集者・作家」だとか。 「シンプルな原理が複雑な世界を解き明かす!科学やアート、実業などの世界の最前線で活躍する第一人者たちのお気に入りの美しいセオリーとは何か?文字通りの革命的大発見から意外でユニークな「法則」まで、世界の知が総結集した贅沢なアイディア集」だとか。まあ、箸休め的な本。読書のジャンルや書き手を広げるためもあって、読む。 (情報や画像は、「紀伊國屋書店ウェブストア」より)

 すると、なんとその車の男が追ってくる。パッシングを何度も。怖くなった。こんな時は止めちゃいけない。慌てず騒がず走り続けることだ。
 が、男は執拗に追ってくる。幸い、対向車があったので、追い越しを掛けるのは控えているようだ。がすぐに対向車は過ぎ去ってしまった。ああ、助けを求めて止めりゃよかった…
 相変わらずパッシングし続ける奴。私は奴をやり過ごそうとタクシーを脇に寄せ車を先へやろうと思ったが、車は私の車の後ろに停めようとする。

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→ アタナシウス・キルヒャー作「地球内部の火」 「アタナシウス・キルヒャー 『地下世界』より」 (画像や情報は、「In Deep 17世紀の科学書「地下世界」に描かれる地球の内部」より) 「アタナシウス・キルヒャー - Wikipedia」によると、「17世紀のドイツ出身の学者、イエズス会司祭。東洋研究、地質学、医学など幅広い分野で優れた業績を残した。ヒエログリフの科学的研究と読解に取り組んだパイオニアとしても有名。また伝染病がなんらかの微小生物によって引き起こされるという考えをはじめて実証的に示し、その説にもとづいた予防法を提案した」とか。「20世紀の後半になって再びその業績の先進性と多彩さが評価されるようになり、「遅れてきたルネサンス人」とも呼ばれるようになった」という。あるいは、ルネ・ホッケの紹介も、その一翼を担っていたか。

 私は怖くで、再度、発進させた。一旦、車を降りかけた奴は追ってくる。やがてついに、私のタクシーは信号に停められた。奴の車も止まり、奴が下りてきた。ああ、こうなったら腹をくくるしかない。
 奴は、私の車の窓を叩く。何だというのか。こんな真夜中に喧嘩を売ってくるのか。私が何かしたというのか。

 すると奴は言った。 
「あの町で女が一人、ふらついているのを見かけませんでしたか?」
 私が「見かけませんでした」というと、奴は「パッシングまでして驚かせて、御免なさい」と。
 あるいは、タクシーの後部座席にその女を乗せていないか、確認したかったのだろう。で、誰も乗っていないので、私を解放することにしたのだ……私はそう推測した。
 そうだったのか。

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← グスタフ・ルネ・ホッケ (著)『迷宮としての世界(下)――マニエリスム美術』(種村 季弘/矢川 澄子訳 岩波文庫) 最近、車中で読みだしている本。 (画像は、「Amazon.co.jp 通販」より)

 帰路の途上、ずっとドキドキしながらも、安堵の胸をなでおろし帰路を急いだ。
 信号で停車した際、熱かったはずの缶入りのコーンポタージュの栓をようやく開けて、一口二口と呑めたのだった。

 それにしても奴は何者なのだ。ヤクザもの(チンピラ)なのか。あるいは彼女に逃げられたのか。それとも、この頃流行りの認知症で家を勝手に出て行った誰かを探し回っているのか。
 ミステリーでもないし、サスペンスとも呼べない、小さなエピソードだった。

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コメント

ひええ、ご無事でなによりです!
タクシーは関わる相手を選べないから、怖い思いをされることもあるとわかりました。
車椅子の家族を、駅まで送った人の話を思い出します。
駅前で停車し家族を降ろそうとしたら、後続車がクラクションを鳴らします。
手早く支度をし、送り出しても、後続車が後をつけてきます。
しつこいので、脇によって先に行かせようとしたら、真後ろに停まりました。
運転手が下りてきて、窓越しに「車椅子とは知らずに失礼をして申し訳ない」と謝ったそうです。
相手の意図がわからないと、悪い方悪い方に考えますよね。

投稿: 砂希 | 2015/03/17 20:09

砂希さん

ホント、どうなることやら、一瞬、途方にくれましたよ。
自分が何も身に覚えがないので、どう対処していいのか分からなかったし。

街中ではいろんな人がいる。自分には事情が分かっても、車の外の人には分からない。誤解もありえますね。
ひたすら、周囲に気を配るしかないです。

投稿: やいっち | 2015/03/17 21:52

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