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2014/10/14

アイドリングストップはいいけれど…

 近年、「アイドリングストップ」が奨励されている。
 基本的に理解するが、若干の疑問がなくもない。

「アイドリングストップ」とは、「駐停車や信号待ちなどの間にエンジンを停止させることで、燃料節約と排出ガス削減の効果が期待されている」(「アイドリングストップ - Wikipedia」より)もの。
アイドリングストップが理想的に行われると、14%程度燃費が向上する。エンジン再始動時にかかる燃料と、5秒間エンジンを停止することで節約される燃料の量がほぼ等しいので、5秒以上停車する場合は、アイドリング・ストップした方が燃料消費が少なくなると試算されている」というのだから、その実施の意義は小さくない。

 最近は、「車速の低下を検知してエンジンを停止し、ドライバーの発進操作を検知して再始動する」という、「アイドリングストップ機構」の備わった、エコ車も増えつつある。
 
タクシーは待機中、エンジンを切れないものなのでしょうか? 生活・身近な話題 発言小町 大手小町 YOMIURI ONLINE(読売新聞)」に観るまでもなく、「タクシーは待機中、エンジンを切れないものなのでしょうか?」という声はしばしば聞かれるし、業界としても積極的な対応が大切だという点に異議を挟む余地は少ないだろう。

 タクシー会社もエコや環境対策に積極的だという姿勢を示すという社会的な意味でも、あるいはそれ以上に(?)、燃料消費が少なくなるのは嬉しいに違いない。国からの指導もプレッシャーに違いない。
 空車の際、待機の時はエンジンストップを励行せよ。アイドリングストップ中はエアコンが送風になるけど、仕方ないよね…。

 ここには何か釈然としないものを感じるのは小生だけだろうか。単純に真に受けていいものか、疑問が湧いてきてしまうのである。
(アイドリングストップ機構のある車は割高だし、バッテリー寿命が短いなど、経費の削減にはつながらないことはさておく。)

 タクシーが日陰のもとにあるとか、信号待ちなどの短時間の間、エンジンストップさせるのはいいだろう。
 また、車庫(営業所)などでの待機の際は、できるだけエンジンを止めるのがエコというものである(排気ガスで営業所の周辺の空気が汚れるというマイナスを解消するためにも)。

 ただ、営業中のタクシー車両が無条件に待機中にエンジンを止めるというのは、問題なしとしない。
 かなりの割合のタクシー車両は、営業所ではなく、(庇のない)ホテルや病院、駅などで待機している。
 炎天下の夏、雪降る冬の空の下、エンジンを止めて待機するのはかなり辛いものがある。

 待機が数分で終わる保証はない。多くは十数分、あるいは一時間に及ぶ場合も往々にしてある。
 そんな時、いくらエコのため、環境のためとて、エンジンを止めていいものだろうか。
 お客さんが乗っている間だけ、運転手は仕事をしているわけではない。実際にお客さんが乗っている時間は、営業時間帯のうちの四割もあるかどうか。

 残りの時間(隔勤の場合、十時間以上!)、待機の間、エンジンストップをする。炎天下だろうが、寒空だろうが、エコのため環境のため、エンジンを止める…。

 ここには、タクシーを運転しているのが生身の人間だということが忘れられているのではなかろうか。
 タクシー会社の大切な乗務員(社員)であることが忘れられているのではなかろうか。
 実際に厳しい環境のもと、神経をすり減らして働いている現場の乗務員の労働実態の実感に対して疎いのではなかろうか。

 タクシードライバーという仕事は、実際に営業してみないと分かりづらいだろうが(短期では分からない!)、かなりハードな仕事なのである。
 お客さんを待つだけでもストレスだし、幸いにして載っていただければ、それはそれで気遣いは半端ではない。
 座りっぱなしでの腰など体への負荷。不規則な勤務から来る体調の異常。
 その上、アイドリングを止めろという。

 環境を大切にすること、そしてコストを削減することも大切だが、乗務員の健康を少しでも維持することも、それ以上に大切なのではないか。
 待機中(空車)の間も、ドライバーは仕事をしているのである。だったら、最適な仕事環境をこそ運転手に会社は保証すべきではないのか。
 エコや環境、燃費の向上のためとて、乗務員に我慢を強いるのは、話の筋が違うのではなかろうか。

 小生などは、アイドリングストップが励行される昨今の趨勢に逆らうようだが、もし自分が経営者だったら、何よりも乗務員(社員)の健康の維持を一番に考えるだろう。少々のエコを励行した結果、運転手の健康が不調に陥ったら、本末転倒ではないかと懸念するからである。
 待機中のエンジンストップもいいけど、体(健康)を大事にしろよ、と声を掛けてやりたくなる。エコもいいけど、時(季節など)と所(庇の有無など)を選んで、上手くやれよ、と乗務員に言ってやりたくなる。

 経費の削減や環境対策は大事。
 だったら、燃費のいい車へ切り替えていくとか(既に行っているものと理解している)、乗務員(社員)の体や健康への負担とならない方法を知恵を絞って考えるべきと思うわけである。
 あるいは、国(国土交通省)は、自動車メーカーに、待機中にエンジンを止めても車内環境がドライバーに優しい車の開発に努力すべしと、会社として運動したっていいわけである。

 乗務員(社員)を大事にする会社は、環境やエコに敏感な会社より、ずっと評価すべきと考える。
 そんな会社の乗務員なら、一層、お客様にも優しい会社(社員)たりうるのではないだろうか。

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