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2014/10/11

ピエロは嗤う

 ピエロは嗤う。あなたを、世間を、世界を、そして自分を。
 えっ、舌をペロッと出してるって? ベロが鏡に釘付けされているのさ、なんて言って信じる? あなた。

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→ お絵かきチャンピオンさん作「ハットしてGO」 (ホームページ:「小林たかゆき お絵かきチャンピオン」)

 心は殴られ潰されてしまった。涙の河は行き場を失い眼窩へと流れ込む。
 サテンだったはずの衣裳は、まるで心と体を甚振るように、風と戯れる。風に舞う。

 疾風に飛ばされた砂利が更紗の生地を貫通し、生身の皮膚に食い込んでくる。
 紗は擦り切れ、ガーゼのように半透明となった。ああ、美しき包帯、それが我が衣なのだよ。

 覗かれてしまった、一番、見られたくなかった姿を!
 赤裸の心など、誰にも見せたことなどなかった。自分にさえ!

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← お絵かきチャンピオンさん作「開けちゃいけない扉開けましたね」 (ホームページ:「小林たかゆき お絵かきチャンピオン」)

 わたしがこんな姿だったなんて、知らなかった。知りたくなかった。
 それを、あなたが暴露してしまった。あなたの目がわたしの心を剥き出しにした。
 ひん剥かれて、わたしは身も心もパサパサだ。ドウランも塗ったそばから乾いて剥がれ落ちてしまう。
 疎らな髪の毛をウイッグで隠してきたけど、もう限界だってことはわたしだって分かっちゃいたんだ。
 マスカラは涙と汗で垂れてしまい、睫毛すら瞳の悲しみを覆い隠すことはできない。

 ああ、でも、何も楽屋裏を覗くことはなかったでしょ!

 足腰が立たないの。魂の抜け殻なの。骨身が砕かれちゃったの。
 世界の不幸を呪うのに疲れてしまった。
 それでも、わたし、祈っているの。あなたの幸せを、わたしの幸せ。

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→ お絵かきチャンピオンさん作「亡骸スケッチ」 (ホームページ:「小林たかゆき お絵かきチャンピオン」)

 命が体液のように零れていく。いえ、蒸発していくの。パサパサの心。
 口内では、凝結した血が岩になっている。目いっぱい開いても空気は吸えない。
 ドウランという鎧で身を守ってきたけど、それも、もう、限界。
 マスカラは心というキャンパスに描くクレヨン。血の赤と、脳漿の白と、便の緑との三原色は揃っていたのに。
 ああ、わたしは生きたい。ただ、普通に風に吹かれたいの。
 その証拠に、今日も私は嗤う、世間の面前で。

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コメント

『中世の城』という本を持っています。
キャッスルではなく、要塞としての強固な城です。
敵国が攻め込んできたとき、どのように防御と攻撃をするかが図解されています。
城内は兵士と平民、王のいるコミュニティです。
その中に、道化師もいるんですよ。
娯楽の少なかった時代に、人々に安らぎと笑いを提供する存在なんでしょうね。
ドーランの下の気持ちはわかりません。
たぶん、普通の感覚の持ち主には務まらない役割なのではないかしら…。

投稿: 砂希 | 2014/10/12 12:50

ピエロか、僕はすぐルオーを思い出しました。
社会の底辺の方にいる人をルオーはよく描いた。
顔で笑って、心では泣いているピエロもそう。
ところで、今日、渋谷で客待ちしているタクシーで、女性運転手を発見。
きちんと制服着ていたけど、暇つぶしに漫画読んでましたよ。
客が来ないとやはり心は泣いているのか。
明日は台風、富山はどんなでしょう?

投稿: oki | 2014/10/12 21:22

砂希さん

ピエロや道化師というのは、宮廷には不可欠の存在だったようですね。
嘲笑され、愛玩され、場面を切り替えるトリックスター的存在。
しばしば、小人だったりする。
安らぎを与えるというより、虚栄と権威と、その実の虚妄と卑俗を背中合わせのように内に含む宮廷の実相。
その微妙な間(あわい)に生きられるのは、よほど厳しく自分を達観する能力がないといけない。自分をとことん、さげすむことのできる人間でないとね。

投稿: やいっち | 2014/10/14 03:23

okiさん

ルオーの数々のピエロ像は印象的ですね。友人も好きな作家だと云っていたっけ。
社会の底辺に生きる。決して浮かび上がることがない。矮小な肉体の持ち主だったりして、健常な生活は夢のまた夢の存在。

不況ですからね。消費税を上げたことで、大企業の社員などは別格として、大多数の定収入の働き手は一層、苦しい生活を強いられている。
貧乏人と裕福な人たちとの格差は増大するばかり。
イスラム国に加入しようとした学生が掴まりました。
95年のオウム事件が思い出されます。
日本の社会を徹底して忌避する若者(に限らないけど)が一定数は必ず社会に存在する。
日本の通常の常識とは無縁の世界に生きる人々。

そう、タクシードライバーは定収入。年金があってやっと生活できるレベル。それなのに、サービスだけは高いレベルを要求する。サービス残業ならぬサービスを強いるブラック精神が国や評論家にある。

サービスをタクシードライバーに高く要求するなら、それなりの収入を保証しないと。

台風、富山は、かなりあっさり(多少の風雨だけで)過ぎ去ったようです。
やはり、今度も、立山連峰という巨大な屏風(衝立)が富山を守ってくれていた。

投稿: やいっち | 2014/10/14 03:33

今日、日比谷の美術館行って、暇があったので、裁判傍聴してきました。
一件は、携帯電話の窃盗。それを転売しようとした。
もう一件は、オレオレ詐欺の受け子。
どちらも金に困って、という理由。
金が全てとは言わないけど、やはり、あると言いな。
二人とも拘置所から来ているようで、刑務官が二人付いていたけど、こんなところに金使うのは税金の無駄遣い。
弥一さんは裁判傍聴いかがですか?
被告の一人は、今職に就いていないので、出たら、福島の除染作業やるとか、突拍子もないこと言っていましたが。

投稿: oki | 2014/10/14 21:24

okiさん

裁判傍聴、興味津々です。
実際の裁判に立ち会いたいと、ずっと思ってきました。
単に、腰が重いので行かなかっただけ。
といって、裁判員制度で、裁判員になるのは、きついけど。

刑務所を出たら、仕事を見つけるのが大変でしょうね。福島のような厳しい環境だと、人手不足でしょうけど。

投稿: やいっち | 2014/10/14 23:12

おお、やはり、弥一さんも、裁判傍聴興味おありですか。
傍聴マニアというのがいて、僕が聞いていた裁判にもいたけれど、ペットボトルだけ持って入ってきて、つまり、荷物ない、つまらないと出ていっちゃう人いましたよ。
まあ、暇潰しには裁判傍聴良いですね。
刑務所か、今は刑務所も満員だから、なるべく、執行猶予とか、つけるのかな?裁判官の頭にそんなこと念頭にないかな?

投稿: oki | 2014/10/15 20:56

okiさん

裁判の傍聴には関心があります。
ドストエフスキーの小説を読んで以来、犯罪者はどのような裁判を受けるのか、気になってきました。
小生が裁判を傍聴するとすれば、忙しい合間を縫ってですから、結構な意思が要ります。
それでも、傍聴したい。知的犯罪より、暴力系の犯罪に関心がある。

投稿: やいっち | 2014/10/19 22:47

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