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2014/09/27

自由を求めて

 思いは頭の中で沸き立っていた。ただただやたらと淋しい思いが脳みそを引っ掻き回し、体の中を無闇に駆け巡る。
 吐き出したいほどの淋しさがオレを一層の赤い闇へと追いやっていく。

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 居場所などどこにもない。あるのは、ここじゃない、何処か他の場所、黒い丘の向こうに何かある、すぐにもそこへ向かわないと間に合わない、という切迫した狂熱。
 誰かがオレを待っていてくれる。もう、待ち草臥れるくらいにオレを待っていてくれたんだ、それを愚かなオレはこの期に及んでやっと気が付いた…。

 誰だろう。あの顔、あの表情、あの目、あのオレを蔑視する冷たい目線、あの凍り付いたよう後ろ姿、いろんな表情が浮かんでは消えていく。誰もが現れた一瞬は救いの神のように映り、おずおずと手をさしのべた瞬間、忽然と消え去っていく。
 嘲笑うかのようだ。オレが救われるなんて、愚かな考えを抱いたことを、罰するかのようだ。

 谷底で呻いている。すべすべの斜面が美しい。磨きたてられた壁面がオレを嬲る。ツルツルの表面があの時のあの人の目線のように眩しい。
 表情が読めない。透明なパイプの中で窒息しそうだ。誰かに触れないと、誰かに触ってもらわないと、オレはもう持たない。

 淋しさのあまりの吐き気。気の狂いそうな沈黙の責め苦。窓の外からは、人や車の行き交う音が漏れ入ってくる。隣から、天井から、床下から人の話し声が聞こえてくる。そんなひそひそ喋らないでくれ。何か言うなら、もっとはっきり喋ってくれ。できるなら、オレも会話の仲間に加えてくれ!
 オレは堪らなくて、天井に向かって叫んでしまった。オレは淋しい。オレは悲しい。オレは泣き潰れてしまいそうだ。オレはただ、誰かと触れ合いたい。オレは一人じゃやってられないんだ。

 隣からも階下からも何も応答がなかった。さっきまで聞こえていた声さえ、沈黙の海に沈み込んでしまった。
 居たたまれなかった。オレの声が聞こえないのか! 叫んでも風の音がむなしい。オレは壁を叩いてみた。さすがにこうまでしたら、何某かの応答があるに違いない…。

 携帯電話があった頃は、登録されている相手に架けまくったものだ。滅多に相手は出てくれなかったけれど、架けている音が鳴っている間は、夢があり期待があった。
 大概はそのうち、留守電になったり、お架けになった電話番号は現在、使われていませんとか、電話に出られない状態ですとか、そんな木で鼻を括ったような、素っ気ない声が流れる。そのうち、不意にプツンと切れてしまう。
 その携帯も、今はない。カネが払えないんじゃ、どうしようもない。

 今はパソコンだけが友達だ。いや、パソコンなんてただの道具だ。オレは、隣近所で友達が見つからないなら、せめて、ネットを通じて、世界と話し合いたいのだ。世界の数十億の人間たち。その中には、一人くらいは話し相手がいるに違いないじゃないか!
 友達になってください、結婚してください、話し相手になってください、せめて話を聞いてください。

 自分の部屋さえ、居場所ではなくなっている。息が詰まりそうな空間なんて、自分の部屋と呼べるはずがない。
 外へ行こう、外へ。
 外って、何処だ。オレはさんざん方々をほっつき歩いたじゃないか。何が見つかった? あるのは壁だけ。沈黙だったり、喚き声だったり、いろいろあったけど、要するに、壁だ。固い壁、ぷよぷよの壁、暖簾のような壁、何もない壁。

 セロファンのような膜がオレを包んでいる。それとも、世界との間に仕切りとなって張られている。
 オレはもう、大人なんて相手にしない。大人はもう心が死んでいる。もう形が出来上がっていて、オレの漬け込む余地がない。オレなど眼中にないんだ。視線の外へ外してしまう。追いやってしまう。オレを枠の外へ蹴り出してしまいやがる。オレは、古びたボールなんかじゃないのに。

 オレはだから、女の子だけを相手にするんだ。女の子だけがオレの目を受け止めてくれる。柔らかなほっぺのような心がオレを和ませる。オレは女の子が大好きなのだ。
 幼児は、可能性だ。閉ざされていない心だ。未熟な卵だ。
 そう、オレは熟することを知らない心なのだ。何年経っても、形ができない。手も足も出ないままに大人って奴になってしまった。大人になる前に親には棄てられた。愛想を尽かされた。人間としての繋がりが不可能だと縁を切られてしまった。

 オレは何一つ、学ぶってことができない。何一つ、身に付かない。オレは成熟って奴が分からない。ぶよぶよな心が、皮膚のない心が、骨格のない内臓が、路上に投げ出されている。オレは、路上に投げ棄てられた生卵だ。
 生な心だ。世界が見えない。世界が形を見せてくれない。世界が目玉の垂れ下がった幼児に見える。腸の食み出した赤ん坊だ。

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 それとも世界は煮え滾る海だ。命が魂が沸騰する潮の流れの中で翻弄されている。オレは世界中に在る。オレは、世界の原子だ。バラバラの素粒子の雲だ。オレは遍在する。オレは局在する。オレは変幻する。オレは崩壊する。オレは相転移し損ねた世界の残骸だ。残骸の集合だ。離散した夢だ。雲散霧消する細胞のブラウン運動だ。

 オレの救いは女の子にしか求められない。可能性があると感じられるのは女の子だけなのだ。
 幾度、この思いに囚われたことだろう。幾度、挑戦を試みたことだろう。失敗続きだった。
 でも、もう、くよくよするのはもうおしまいだ。
 今日こそは成功させるのだ。

 オレは、腐りかけた焼酎を飲み干した。魂を癒さないといけない。オレの魂だって、命を欲している。触れ合いに飢えている。血肉の滾りを欲して吠えまくっている。
 さあ、出かけるのだ。自由を求めて!

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