宇宙像の大変貌
ジョン・D.バロウ著の『宇宙論大全―相対性理論から、ビッグバン、インフレーション、マルチバースへ』(林 一/林 大【訳】 青土社)を読了した。
念のため、断っておくと、「宇宙論大全」である。決して、「宇宙大全」ではない。
→ レオナルド・サスキンド著『宇宙のランドスケープ 宇宙の謎にひも理論が答えを出す』(林田陽子/訳 日経BP社)
アインシュタインの相対性理論以後、示されてきた宇宙論(像)を縷々語ってくれている本。古代インドや中国の宇宙像以来の宇宙観の変遷を辿ろうという趣旨ではない。
暗黒エネルギーや暗黒物質の存在が宇宙論学者の間で共通認識となり、いよいよその存在の一端に触れるという今日、宇宙像の大変貌が始まろうとしている。先般のヒッグス粒子の存在の確定は、そのほんの予兆、幕開けの合図に過ぎない。
もう十年以上も以前、ブライアン・グリーン著の『エレガントな宇宙』(林 一・林 大訳、草思社刊)を読んだ際、現今の宇宙像がここまで進んでいることに衝撃を受けたが、その後さらに、ブライアン・グリーンの諸著はもとより、レオナルド・サスキンド著『宇宙のランドスケープ 宇宙の謎にひも理論が答えを出す』(林田陽子/訳 日経BP社)や、リサ・ランドール著『ワープする宇宙 5次元時空の謎を解く』(向山信治/監訳 塩原通緒/訳、日本放送出版協会)などを読んで、マルチバース宇宙論(像)が真剣に模索されていることに衝撃を受けたものだった。
← ジョン・D.バロウ【著】『宇宙論大全―相対性理論から、ビッグバン、インフレーション、マルチバースへ』(林 一/林 大【訳】 青土社) (画像は、「 紀伊國屋書店ウェブストア」より) 「アインシュタインの相対性理論以後、驚くべき宇宙論が次々と登場してきた。膨張したり振動したり回転したりする宇宙、タイムトラベル可能な宇宙、物理法則が時と場所によって変化する宇宙……。かつて永久不変と考えられてきた宇宙のイメージは完全に覆され、ついに私たちは、この宇宙以外にもたくさんの宇宙がありうるという、「マルチバース」の理論に出会うことになる。この宇宙はどのような姿をしているのか、どのようにしてできたのか、そして、これからどうなるのか……。 人類が長年挑みつづけてきた宇宙の謎を語りつくす、決定版! ! (転記文は、「人文諸科学の専門書の出版社「青土社」」より)
若い頃から宇宙論の本は、読書のジャンルの欠かせない一つでありつづけてきた。そうして得た宇宙観や生命観は、この十年ほどは変化はほとんどしていない。
今は、自身、暗黒物質や暗黒エネルギーの観測を通じての確定とその理論化を待っている段階だ。
→ リサ・ランドール著『ワープする宇宙 5次元時空の謎を解く』(向山信治/監訳 塩原通緒/訳、日本放送出版協会)
宇宙像の大変貌は、われわれの住む現実世界の混沌さと相関しているように感じられる。人間中心の宇宙観から、太陽中心の宇宙像、そして今や、我々の住む宇宙さえ、マルチバースのほんのローカルな局面に過ぎないとなりつつある。
ドンドン、片隅へ追いやられる我々の太陽、地球、そして人間。
けれど、だからこそ、生命が愛おしくなる…ような気もする。
生命とは何かと問われて小生には、答える術はない。ただ、生命が何処かの時点で生じたのだとしても、それはこの大地の上であり、この地球の上であり、この銀河の中で生まれたのであるとは思っていい。その大地も宇宙も、われわれが狭い意味で思う<命>ではないとして、宇宙そのものだって変幻を繰り返していると考えたっていいはずなのである。生命と自然(宇宙)をそんなに截然と分ける必要もないと思う。
悠久の宇宙、でも、その宇宙も巨大な闇の世界を流れる大河であり、どこから来てどこへ流れていくのか宇宙自身にも分からない。しかも流れるに連れて蛇行し変貌し、そのあるローカルな鄙びた局所に我々が生きているのだし、また違う荒野には生命どころか素粒子さえも形成できない宇宙が延び広がり、その茫漠たる宇宙の彼方には、あるいは別の緑野の地に生きる別の我々が生きており、此方のわれわれとの交信を夢みているのかもしれない。
生命体の形がこの世界に生じてさまざまに変幻してきたように、われわれの心も身体の変貌に連れて変容する。それまでは感じられなかった世界が心の世界に飛び込んでくるようになる、そんな経験を幾度となく年を経るごとに誰だって多少は経験したのではなかったか。それを成長と呼ぶのかどうかは分からないが、その心の感じる世界の変容は、時に喪失の悲しみをも伴うのだが、それでも、年を重ねるということはそれはそれで祝福すべきものに思えるのである。だからこそ、成熟という表現もあるのだろうし。
(拙稿「『宇宙は自ら進化した』の周辺」より)
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