<雪国>という言葉について
もう一つは、それまでは雪が降っていなくて、見る限りは雪国とは分からなかった光景が、降り出した雪にまさに雪国になったという、ある感動(真っ白な美しい世界になった!)だったり落胆(このまま降らずに居てほしかったのに、呆気なく雪に埋もれてしまった…)だったりの感懐を含む表現として使われる雪国。
一般的には、雪国は雪が降らなくても、冬には雪が降るんだから雪国なのであり、今さら雪が降り出して白銀の世界に豹変したからって、雪国になりました、なんて言い草は見当違い、なのかもしれない。
特に雪国ではない東京など都会の人たちにとっては、そうなのだろう。
けれど、実際に雪国に住んでいる者からすると(但し、小生だけの感懐かもしれないので、一般論というわけではないのだが)、冬であっても、雪の降らない日々が続いてほしいという(切なく儚い)願いはあるのであって、夜なら闇に沈むはずが、雪が降って、白く眩く煌めく世界に突如のように変貌を遂げてしまうと、深いため息をつい吐きたくなってしまうのである。
← ニック・レーン【著】『生と死の自然史―進化を統べる酸素』(西田 睦【監訳】/遠藤 圭子【訳】 東海大学出版会) (画像は、「 紀伊國屋書店ウェブストア」より) 「酸素は、われわれ人間を含む多くの生物にとって必要不可欠な物質であると同時に、非常に有害で、老化や病を引き起こす原因物質であることがわかっている。本書は、この酸素と生命の関係が有する大きな矛盾をてがかりにして、地球上の生命の進化を再考し、生物界における性の存在理由や、加齢・老化・病気の意味について新たな光を当てようという、意欲的な試みである。本書における視点の新鮮さ、統合される知識の新しさと幅広さ、それらを1本に束ねる骨格の太さは、特質されるべきものである」。今までに、『ミトコンドリアが進化を決めた 』や『生命の跳躍――進化の10大発明 』などを読んできた。「視点の新鮮さ、統合される知識の新しさと幅広さ、それらを1本に束ねる骨格の太さ」は実感してきた。なので、読み残していた本書を手に取ったのだ。まだ、冒頭の数儒頁を読んだだけだが、さすがの読み物である。感想については、後日書くかもしれないが、気になる人は、「文芸評論家・加藤弘一の書評ブログ 『生と死の自然史』 ニック・レーン (東海大学出版会)」など参照のこと。
さて、本作の冒頭文、「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」は、冬には雪の降る地域という意味合いもあるが、実際に雪に降り込められている土地に迷い込んだという意味合いなのだろう。
そしてそこは主人公(や作者の川端)にとっては、まさに異郷の世界なのだろう。
だからこそ、作者にとして虚構が可能だったのだろう。
実際に雪国に生きる作家が書くと、違う世界しか描けない。雪国から抜け出すことは叶わないし、考えられないのだろうから。
← リチャード・フォーティ 著『生きた化石 生命40億年史』 (矢野 真千子 翻訳 筑摩選書) 「90%もの種が死に絶えた環境の激変をものともせず、太古の昔から姿も変えずいまなお生き残っている生物がいる!いったい彼らはいかにして生き延びたのか。絶滅する者と生き残った者、何がその運命を分けたのか。彼らが伝える古代の地球の姿とは」。本書は自宅で読み始めたが、明日からは車中にて読み続けるつもり。自宅では、上掲書である。図らずも、車中も自宅も生物学関係となった。 (画像は、「筑摩書房 〈生きた化石〉生命40億年史 」より)
といっても、それもまた、過去の遠い話なのだろう。
この辺りのことは、拙稿「国境の長いトンネルを抜けると雪国であつた」参照願いたい。
列車で夜の旅をするとき、あるいはトンネルを潜るとき、窓の外の闇と窓に映る女性の姿との幻想的な詐術の世界にさりげなく浸って遊んでみる。
現実がそこにある。赤の他人ではあるが、生身の女性が何処かの席に座っている。その姿を直接見ることは叶わないが、また、窓に映る姿であっても、じっと眺めるわけにはいかないが、窓外の闇に沈む郊外の小さな明かりや、朧ろな山影の夜の闇とのラインを眺める折に、ふと夜の闇が織り成す透明なガラスの幻影装置世界に浮かぶ幻でもなければ現実とも言いかねる女を、ただ、夢のように眺めるのである。
もしかして現実と想っている世界であってさえも、本当は夢幻の塊に過ぎないのかもしれない。
そうはいっても、関越の長いトンネルを潜って、北陸へ抜けると夢なのが、関東に抜けるときには自分には戦場が待っている。幻であろうと、生きるその日その日は厳しい時が刻まれていく。
刻まれる…。一体、何処に刻まれるのか、それは今もよく分からないのだけれど。
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