おのが身の闇より吠えて
暇の徒然というわけではないが、20日と22日の営業の最中、車中にて萩原朔太郎著の『郷愁の詩人 与謝蕪村』(岩波文庫)を読了した。
← ゴンチャロフ【作】『 断崖〈4〉 (改版)』(井上 満【訳】 岩波文庫) 第四巻目にして、物語は佳境に。ようやく。本巻には、「晩年ゴンチャロフが自作について述べた「おそ蒔きながら」を収録」とか。(画像は、「断崖 4 - ゴンチャロフ【作】-井上 満【訳】 - 紀伊國屋書店ウェブストア」より)
詩人萩原朔太郎のファンではなく(一応は、「月に吠える」などは通読したこと二度。でも、感情移入できず)、蕪村の句集ということで、本書を手にした。
朔太郎の思い入れたっぷりの評釈の妥当性は小生には分からない。解釈に納得できたところもあるが、理解できなかった個所も結構、あった。
朔太郎ファンなら、彼のリリックな評文を愉しめるかもしれない。
小生は俳人では、芭蕉は別格として、蕪村が好きである。多分、本ブログでも、かなり以前、扱ったことがあったような(未確認)。
芭蕉の求道的というか、哲人的というか、言葉で表現され感得されるリリシズムが凝縮され結晶したような知的でもある句境。
一方、蕪村の郷愁の世界は、生活感というのではないのだが、それでいて、まさに地を這うような、等身大の生身の人間の温みを感じさせる。
但し、等身大と言い条、江戸時代の同時代人からは徹底して(意図せずして)和して同ぜずの感性が時代を超えさせている。当然、孤独をどこまでも託つことに(これまた意図せずして)相成ってしまった。
感覚(感性)が鋭すぎて、時代から浮き上がってしまっている。これじゃ、誰と居ても馴染めるわけも、寛げるはずもない。
それにしても、「この村の人は猿なり冬木立」や「おのが身の闇より吠えて夜半の秋」なる句は、どうだろう!
野獣のような感性なのか。
余談だが、朔太郎の「月に吠える」なる題名は、「おのが身の闇より吠えて夜半の秋」から採ったのでは、なんて。
それにしても、吠えているのは、野犬それとも、蕪村の度し難い肉の身、あるいは彼の感性?
本書で扱われてる句を幾つか示しておく:
遅き日のつもりて遠き昔かな
行く春や重たき琵琶の抱ごころ
菜の花や鯨も寄らず海暮れぬ
愁ひつつ丘に登れば花茨(いばら)
飛蟻(はあり)とぶや富士の裾野の小家より
寂寞(じやくまく)と昼間を鮓(すし)のなれ加減
夕立や草葉を掴む群雀
月天心貧しき町を通りけり
凧(いかのぼり)きのふの空の有りどころ
春風や堤長うして家遠し
門を出て故人に逢ひぬ秋の暮
春雨や人住んで煙壁を洩る
春雨や小磯の小貝ぬるるほど
春雨や暮れなんとして今日も有
陽炎や名も知らぬ虫の白き飛ぶ春の海 終日のたり のたりかな
菜の花や月は東に日は西に
← 萩原朔太郎/著『郷愁の詩人 与謝蕪村』(岩波文庫) (画像は、「与謝蕪村 郷愁の詩人 萩原朔太郎/著 - セブンネットショッピング」より)
自宅では相変わらず、ゴンチャロフの『断崖』を読み続けている。本日、第三巻を読了。第四巻目に突入。物語は佳境へ(ようやく)!
文庫本で2000頁ほどある大作だが、せめて1000頁ほどに圧縮したら、恐らく、傑作たりえたかもしれない。
小生のようなファンは、最初から最後までずっと付き合うけれど、一般には勧めきれない。
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コメント
萩原朔太郎ですか。
まったく未知の分野ですね。
根気が必要であれば私には無理かと(笑)
元来飽きっぽい人間なので、「読んだら1000円もらえる」などの特典がないとダメです。
以前に「お台場やガンダムは西フジ東」というタイトルのエッセイを書いたことがあったっけ…。
俳句はより好みしません。
フィーリングの合う作品だったら何でもオーケー。
投稿: 砂希 | 2014/02/25 20:34
砂希さん
小生も、朔太郎ファンというわけではありません。
あくまで蕪村の句を味わうための、一つの道です。
俳句…。本ブログは、もともとは季語随筆を綴るために始めたようなもの。初期は季語随筆がメインでした。
カテゴリーにも、俳句・川柳があるくらいだし、季語随筆というカテゴリーもある。
自分は句作は苦手ですが、でも、恥を忍んで作っています。
川柳が多いかな。
http://atky.cocolog-nifty.com/houjo/cat4395598/index.html
投稿: やいっち | 2014/02/25 22:03