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2014/01/08

赤いロウソク(前編)

 あれはオレがガキの頃のこと、お袋に親戚の家へ連れられていった。お盆でお袋のお里へお墓参りに行ったのだろう。
 お袋は故郷で寛いで、親戚たちとお喋りに興じていた。ガキ連中は大概の遊びに飽いてしまった。誰ともなく、度胸試しをやろうと言い出し、みんな、よし、やらんまいけ、となった。場所は裏手の鎮守の杜に決まっている。あの頃は田舎は藪だらけだったけど、神社の周辺はいっそう深い森だったのだ。
 思えば、始める刻限が遅かったような気がする。おじちゃんがすぐ暗くなっから、ようよう帰ってこいや、と呼びかける声が聞こえていた。
 ルールは簡単だった。神社の社の裏手にある、今は使われていない古ぼけた灯明に供えられてある落雁か和菓子か真っ赤なロウソクを持ち帰ること。

 昼間、どこかの謎のお爺ちゃんが、藪に覆われた一角の 誰も見向きもしない 灯明に、お供えをする事をみんな知っているのだ。ボクだって、アンちゃんに連れてってもらって、何処かのやせっぽちのお爺ちゃんが、普段、目にしないような高そうな和菓子を供えるのを勿体ないなーと思いつつ眺めていたんだ。
 アンちゃんによると、供えるのは時間も同じなら、お供えの種類もいつも決まっていて、和菓子が一個に落雁が二個、あとは真っ赤なロウソクが供えられマッチで火がつけられる。
 ボクらは落雁もいいけど、何といっても和菓子が欲しい!

 でも、ホントはボクは一個だけ年上のチヨちゃんとくっついていたいというのが本音だった。そうでなかったら、怖がりのボクのこと、何か口実を設けて一人、居残っていたはずだ。
 それにしても、今にして思えば、お盆なのにどうして、お寺じゃなく神社にお供えしていたのか不思議だ。当時はちっとも変に感じていなかったけど。もしかして、毎月決まった日にお供えしていると、アンちゃんが言っていたのかもしれない。
 あと、お爺ちゃんがお供えの際「これだけじゃ、足りんのー」とか、つぶやいていたのが気にかかった。耳を澄ませてみても、「足りんのー」と繰り返しているだけなのだ。

 何が足りない?
 昼間なら神社まではゆっくり歩いても十分も必要ない。宵闇が迫って薄暗がりになっていても、ボクらが急げばあっという間もなく家に帰りつけるはずだった。
 ボクら四人は一斉に駆けだしていった。早く行かないと、ボクらが奪取する前に、動物か何かに喰われてしまう。少々薄暗くたって、近隣は遊びまわって知り尽くした、アンちゃんグループの縄張りのようなもの。迷うはずも、深い草に足を取られるヘマもありえない。ヤブ蚊だって、素早いボクらの足に噛みつけるわけもない。ボクはみんなの…チヨちゃんのあとを付いて行けばいいんだ!

 月は雲に隠れていたのか、それとも新月だったのか、星空が瞬き始めていたのが印象的だった。枝葉の隙間からやけに大きな星影が煌めいていた。
 そんなものに気を奪われたのが間違いだったのか、みんなの中で一番小さいボクは、いつの間にか置いてけ堀を喰らっていた。もう、足音すら聞こえない。みんな黙々と走っているので、薄闇の中の小路を懸命に辿るだけだった。
 どっちにしたって、同じ途ををみんな戻ってくるはずだし、分かれ道などない。そうだ、ゆっくり歩いていれば、みんなに出会えるんだと気づいて、とにかく道を踏み外さないよう気を付けていた。
 案の定だった。

 アンちゃんやタッちゃんたちが藪の闇の中を相前後してボクの傍を駆け抜けていった。少し遅れていた最後の一人はチヨちゃんに違いなかった。手に手に和菓子や落雁らしきものを手にしていた。
 暗いからかみんなボクを見向きもしない。ただ、背後から、赤ーいロウソク、持ち帰ってこいま! というアンちゃんの声が聞こえてきた。
 そうだった。度胸試しなんだ、みんなを追えばいいってもんじゃなかったのだ。頼みのチヨちゃんももう遠ざかってしまった。
 ボクは一人、神社へ向かった。
 鳥の鳴き声が闇の彼方から聞こえる。カエルが鳴き喚いている。木の葉がカサコソ鳴っている。ボクの履いているズックのギュッギュッという音が妙に寂しげだった。
 フクロウやらコウモリなんかが鳴いている。って、コウミリって鳴くのかどうかボクは知らんけど。んっ、ここにフクロウなんていたっけ?

 煩いはずの鎮守の杜がやけに静かだった。どんな音も闇に吸い込まれるようだ。あのお爺ちゃんが灯したはずの燈籠のロウソクの焔も見当たらない。とっくに消えたのだろうか。本殿も社務所も黙りこくっている。ただの一つも明かりが灯っていない。
 あの本殿の裏手に回らないといけない。段々、足取りが重くなってきた。空気が粘るように感じられた。得体の知れない獣か魔物がうごめいている。暗闇自体が魔王の体なのかもしれない。闇がその舌先をくねらせている。
 本殿の何処かに赤いロウソクがないものか。あれば、それを持ち帰っちゃうがに。
 その時だった、ふと名案が思い浮かんだ。

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