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2013/11/10

挿絵画家・一条成美の裸婦画

 ひょんなことから、一条成美なる挿絵画家の存在を知った。
 多少なりとも文学史に造詣があれば、知らない名前ではないらしいが、小生は(多分)初耳である。

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→ 一条成美画「絵葉書美人」 (画像は、「idb27」より)

一条成美 とは - コトバンク」によると、以下の通りの記載があるだけ:

1877-1910 明治時代の挿絵画家。明治10年9月25日生まれ。絵を独学でまなび,明治33年から「明星」「新声」などの文芸誌に表紙,挿絵をえがき,評判となった。尾崎紅葉ら著名作家の本の装丁も手がけた。明治43年8月12日死去。34歳。長野県出身。

 けれど、小生がその人物の名に関心を抱いたのは、単なる挿絵ではなく、裸婦像に気を惹かれたのである。
 その裸婦像は、これまた単なる裸婦画ではなく、いわくつきのものだと、調べてみて知った。

 明治33年(1900)4月1日、明星一号が発刊され、「明治33年(1900)9月発行の明星第六号は、新聞型から雑誌型に変わり、表紙が一条成美(なるみ)の絵で飾られ 、発行部数も増加して、世の中に、注目を浴びてきました。新詩社の支部も増えてき」たりと、順風満帆に見えたが、第八号が問題となった。

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← 一条成美:画、「明星」8号(明治33年11月)にこの絵が掲載され発禁になった。「裸体画は刑法第259条の「明らかに風俗を害する冊子図画其他猥褻の物品を公然陳列し叉は販売したる者を処罰する」との規定に触れる、と官憲に解釈された」とか。 (画像や転機文は、「洋画家の雑誌挿絵への登場と裸体画事件、画文協力。講座開講決定御礼 - 装丁家・大貫伸樹の造本装丁探検隊」より)

与謝野鉄幹・明星創刊の地」(「安島喜一のホームページ おたまじゃくし」より)から、関連する個所だけ転記させてもらう。
「明治33年11月27日、明星八号は100ページ近いボリュームで、豪華な装丁によって発行されました。渡辺淳一「君も雛罌粟(こくりこ) われも雛罌粟(こくりこ)」では次のように紹介されてい」るとした上で:

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→ 左は、一条成美「裸婦」石版(1906)右は岡田三郎助「あやめの衣」(1927) うむ。実力の差を感じてしまう。後を担った洋画家の藤島武二などと比べるのも愚かか。

明星8号の発売禁止  『上田敏と鉄幹との対談による「白馬会画評」が評判を呼び、さらに「素蛾」と題した短歌欄には晶子、登美子の他に、玉野花子、中浜いと子、増田雅子など、若い女流歌人が華やかな彩りを添えていた。第六号以来続いている一条成美の筆になる半裸の若い女性像を描いた表紙にくわえ、挿絵には前とうしろ向き二様の完全な裸婦が登場し、そのアール・ヌーボー風の華麗な筆致が人目をひいた。明治という、ようやく西欧文明に目覚めた時代に、こうした斬新さは多くの若者に迎えられ、「明星」はまさに全盛期を迎えつつあった。』 (上 p175)

 ところが、12月6日、内務大臣男爵・文学博士・末松謙澄から、「明星」八号を発売禁止とする通達を受けました。理由は今から考えると全く馬鹿馬鹿しくなりますが、「風俗壊乱」 で、裸婦像(本文中2枚)が、見る者に嫌悪感と劣情を催させる、というものでした。


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← 一条成美:画、「明星」明治33年9月号。 (画像は、「洋画家の雑誌挿絵への登場と裸体画事件、画文協力。講座開講決定御礼 - 装丁家・大貫伸樹の造本装丁探検隊」より)

「この時、挿絵を模写した一条成美は責任を取って退職」したという。彼が描いた問題の絵は、フランス絵画の模写だという。
 当時は分からないが、今日における一条成美(の挿絵)の評価はどれほどのものなのだろう。
 なお、雑誌「明星」については、「明星 (雑誌) - Wikipedia」を参照のこと。
 ちなみに、一条成美が退いたあとは、洋画家の藤島武二が表紙の絵を担ったようである。
 一条成美の裸婦画の意義は、『湖畔』(1897年)や『智・感・情』の黒田清輝の登場への舞台を作ったことなのか?

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コメント

って、国見さん、
毎日更新してるぢゃないですか~、
ったく、もう。

投稿: 青梗菜 | 2013/11/10 23:21

「劣情」 - こうして感じを見ると意味を調べたくなりました。響きとしては普通の言葉かもしれませんが、如何にも卑下した感じで面白い言葉です。どこで劣となるのか知りたいものです。恐らく条文などに見られる言葉でしょうから、現在の日本の猥褻などの概念に繋がるのでしょう。健康で優れた性欲が定められているということになりますね。しかし子孫繁栄の豊穣と性欲自体の概念は異なりますからね。

流石にご専門分野でのご投稿でした。

投稿: pfaelzerwein | 2013/11/10 23:21

青梗菜さん

仕事で終日、外の時は、携帯ツールで、二三行ずつ、待機中にアップしています。
なので、画像は入らない。検索して掘り下げるということもできない。
まあ、ツイッター風な呟きを幾つか連ねる、という形式です。
その代わり、在宅の日は、一個だけの記事(日記)なので、少しは丁寧に、という方針です。

投稿: やいっち | 2013/11/11 21:21

pfaelzerweinさん

道徳の授業が正式な科目になるとか。教科書も作られる可能性がある。
あるべき、立派な、期待される人間像が示されるのでしょう。

劣情、煽情、卑猥、猥褻、卑俗、俗悪。
この後ろめたそうな情動は、権力など取締機関の方針が決める枠組みが(副産物として)作られる。
そういった時代と寝るような劣情ではない、本能からの情動を煽る世界が好きです(どこにあるか分かりませんが)。

余談ですが、学生時代やサラリーマン時代、ピンク映画を観に行くのが楽しみでした。
でも、富山にはピンク映画館がないのです。AVもいいけど、日活ロマンポルノなど、ピンク映画が懐かしいし、慕わしい。

投稿: やいっち | 2013/11/11 21:29

一条成美ですか、聞いた事もない。
まあ展覧会やるとしたら、こういうのに強い弥生美術館でやるのでしょうけど。
江戸時代の国芳なんか、役者絵が禁止されると落書きにみせた役者絵描くんですから、反骨精神は凄い。
しかし、何時の時代も芸術は、体制によって抑圧されますね。

投稿: oki | 2013/11/11 21:45

okiさん 

弥生美術館といえば、高畠華宵ですね。対象ロマン風な女性画。
ここなら、堂々、一条成美展もやるかもね。
単独では難しいから、藤島武二らと併せ、明星の表紙作家展とか。

明星では、一条成美を追放したとかではなく、彼ら明星派の成功への反発などがあって、誰かが陰謀を企てたのかも。
それはそれとして、未だにこれはというヌード絵を描いてくれる画家に出合っていない。
きっといるんだろうけど。

投稿: やいっち | 2013/11/11 22:49

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