三木成夫の世界再び
畏敬する三木成夫の本『内臓とこころ』(河出文庫)を数年ぶりに読んだ。
初めて彼の本を読んだのは『胎児の世界』(中公新書刊)で、これが彼の世界に嵌る切っ掛けとなった。
確か、養老孟司さんの諸著を読む過程で三木を知ったのだと思う:
「肉体なる自然を解剖しての絵画教室!」
← 三木成夫 著『内臓とこころ』(河出文庫)「「こころ」とは、内臓された宇宙のリズムである……子供の発育過程から、人間に「こころ」が形成されるまでを解明した解剖学者の伝説的名著」といった本。 (画像や情報は、「内臓とこころ 三木成夫|河出書房新社」より)
以後、彼の本を立て続けに読んできた。
三木成夫は、解剖学者、発生学者である。
彼の知名度が世間一般の間で上がったのは、生前より(布施英利氏など、彼の弟子筋は別格として)、むしろ、死後のことで、「死後続々と遺稿が出版され、解剖学者・発生学者としてよりも、むしろ特異な思想家・自然哲学者として注目され」るようになったのである。
何しろ、「生前に出版された本は二冊(『胎児の世界』中公新書、『内臓のはたらきと子どものこころ』築地書館)にすぎない」のだ(尤も、これらだけでも、なかなかインパクトがあるのだが)。
ちなみに、小生が読み漁った三木の本の数々:
『胎児の世界』(中公新書刊)
『内臓のはたらきと子どものこころ』(築地書館1982年、増補新装版1995年)
『胎児の世界』(中公新書1983年)
『海・呼吸・古代形象』(うぶすな書院1992年)
『生命形態学序説』(うぶすな書院1992年)
『ヒトのからだ』(うぶすな書院1997年)
『人間生命の誕生』(築地書館1996年)
なお、小生が今度読み始めた『内臓とこころ』は、『内臓のはたらきと子どものこころ』(築地書館)を改編したもの。
彼の本は、手元に置いておきたくて見つけ次第に買い集めていったが、帰郷の際に東京在住時代の本の大半を処分したどさくさに紛れて失ってしまった。
なので、再度、入手して読むしかなかったのである。
← 三木成夫著『胎児の世界―人類の生命記憶』(中公新書) 医学的には疑問符の付せられる点があるとしても、一度は読んで欲しい本である!
さて、三木の本というか思想の何が一番、自分にとって劇的に感じられたかについては、拙稿「三木成夫著『人間生命の誕生』 」の中などで書いている。
以下、一部だけ転記する:
『胎児の世界』の中で一番、ドラマチックな部分そして恐らくは三木解剖学の業績というのは、『海・呼吸・古代形象』の解説の中で吉本隆明氏が語るように、「人間の胎児が受胎32日目から一週間のあいだに水棲段階から陸棲段階へと変身をとげ、そのあたりで母親は悪阻になったり、流産しそうになったり、そんなたいへんな劇的な状態を体験する。こんな事実を確立し、まとめたことだとうけとれた。」
海で生れたとされる生命が進化し水棲の段階から陸棲の段階へと移行する。想像を絶する進化のドラマがあったのだろうし、無数の水棲の動物が無益に死んでいったに違いない。その中のほんの僅かの、つまり水棲動物としては出来損ないのほんの一部がたまたま陸棲可能な身体を獲得したのだ。
そんな劇的なことがあるはずがない…。が、成し遂げた個体があったわけだ。当然、両棲の段階もあったのだろうが、何かの理由があって一部の種は陸棲を強いられ、身体的な危機を掻い潜らざるを得なかったわけである。
そのドラマを一個の卵の成長の、特に「受胎32日目から一週間のあいだに」(つまり水棲から陸棲への移行という産みの苦しみの時期に)生じる胎児の身体的大変貌を解剖学的に研究し、誰にも分かるように指し示してくれたのである。
この惨憺たる苦心の経緯を読むためだけでも、『胎児の世界』を読む価値はある。
さて、肝心の『内臓とこころ』については、読み始めたばかりなので、感想は控える。
三木の思想は特異な哲学と見做されがちである。
しかし、解剖学の中に閉じこもっては居られない彼の内臓という小宇宙と大宇宙が呼応するという思想は、興味が尽きないのである。
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