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2013/09/29

『世にも奇妙な人体実験の歴史』はマッドの極み

 車中でトレヴァー・ノートン著の『世にも奇妙な人体実験の歴史』(赤根洋子訳 文芸春秋社)を読んだ。
 訳が平明で読みやすいこともあって、仕事を忘れて読み耽ったりも。

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← トレヴァー・ノートン著『世にも奇妙な人体実験の歴史』(赤根洋子訳 文芸春秋社) 「梅毒の正体を知るため、患者の膿を「自分」に塗布!急激な加圧・減圧実験で鼓膜は破れ、歯の詰め物が爆発!!…ほか、常識を覆すマッドな実験が満載」だって! (画像・情報は、以下すべて「紀伊國屋書店ウェブストア」より) 

 惜しむらくは、図や写真などが一切、ないこと。
 といって、中身が濃いから、図像を挿入すると、定価1,800円が3,000円ほどになっているだろう。となると、小生は買って読むのは論外になる。痛し痒しである。

 以前、トレヴァー・ノートン著の『世にも奇妙な人体実験の歴史』は、ひたすら興味本位。科学者らの自らの体を張った実験の歴史は、ドラマだろうなーと期待して買ったと書いた。
 類書では、レスリー・デンディ/メル・ボーリング著の『自分の体で実験したい―命がけの科学者列伝』(梶山 あゆみ訳、紀伊國屋書店)を数年前に読んだことがある、とも。

 後者も十分、刺激的だったが(読む値打ち十分)、トレヴァー・ノートン著の本書『世にも奇妙な人体実験の歴史』は、レスリー・デンディ/メル・ボーリング著の『自分の体で実験したい―命がけの科学者列伝』(梶山 あゆみ訳、紀伊國屋書店)より、遥かにマッドな内容だった!
 
 以下、目次を掲げておく。
 これらすべて、自らの体での人体実験の数々なのである:

淋病と梅毒の両方にかかってしまった医師―性病
実験だけのつもりが中毒者に―麻酔
インチキ薬から夢の新薬まで―薬
メインディッシュは野獣の死骸―食物
サナダムシを飲まされた死刑囚―寄生虫
伝染病患者の黒ゲロを飲んでみたら―病原菌
炭疽菌をばら撒いた研究者―未知の病気
人生は短く、放射能は長い―電磁波とX線
偏食は命取り―ビタミン
ヒルの吸血量は戦争で流れた血よりも多い―血液
自分の心臓にカテーテルを通した医師―心臓
爆発に身をさらし続けた博士―爆弾と疥癬
ナチスドイツと闘った科学者たち―毒ガスと潜水艦
プランクトンで命をつないだ漂流者―漂流
ジョーズに魅せられた男たち―サメ
超高圧へ挑戦し続けた潜水夫―深海
鳥よりも高く、速く飛べ―成層圏と超音速

 以下、幾つか簡単な説明を示しておこう:

放射能の名づけ親のキュリー夫人や、娘のイレーヌとその夫はノーベル賞の受賞者だが、研究対象による放射性物質に冒された。

解剖学の祖である十八世紀の医師ジョン・ハンターは、淋病患者の膿を自分の性器に塗りつけて淋病と梅毒の感染経路を検証した。

十九世紀の医師ウィリアム・マレルは、ニトログリセリンを舐めて昏倒しそうになりますが、血管拡張剤に似た効果があると直感。自己投与を続けて、狭心症の治療薬として確立するもとになった。

二十世紀、ジャック・ホールデンは潜水方法を確立するために自ら加圧室で急激な加圧・減圧の実験を繰り返し、鼓膜は破れ、歯の詰め物が爆発したとい云う。

「ピロリ菌、という名称を私たちが耳にしたのは、そんなに昔のことではない。十二指腸や胃の潰瘍(かいよう)の元凶とされる細菌である。酸性の強い胃の中で生きられるはずがない、と言われていた。潰瘍の原因はストレスや喫煙や誤った食生活や酒だとされてきた。

 オーストラリアのバリー・マーシャルとロビン・ウォレンは共同で研究し、ピロリ菌を発見、これが潰瘍に関与しているのでは、と疑った。マーシャルは自らピロリ菌を飲んで確かめた。案の定だった。ピロリ菌を除去すれば快癒することを証明した」(「書評:世にも奇妙な人体実験の歴史 [著]トレヴァー・ノートン [訳]赤根洋子 - 出久根達郎(作家) BOOK.asahi.com:朝日新聞社の書評サイト」より)

「現代の医療ではカテーテルが当たり前に使われているが、心臓カテーテル法は、フォルスマンという外科医が自分の腕の血管を切開し、カテーテルを挿入、レントゲン室で鏡を見ながら心臓まで導いた自己実験のたまものだった。しかし彼は奇人扱いされた」(「書評:世にも奇妙な人体実験の歴史 [著]トレヴァー・ノートン [訳]赤根洋子 - 出久根達郎(作家) BOOK.asahi.com:朝日新聞社の書評サイト」より)

黄熱病患者の「黒いゲロ」を自分の血管に注射(「1804年、アメリカ人の医学生スタビンス・ファースは、黄熱病が伝染するかどうか確かめようと決意した。彼は、「黒い吐瀉物」を吐いている患者に添い寝し、「患者の息が確実に自分の顔にかかるように」した。しかしこれは、彼の壮絶な自己実験の始まりに過ぎなかった」!)

自分の呼吸を麻酔で停止させて人工呼吸法を開発。

「コレラ菌などない!」と断言(注:大間違い)、コレラ菌入の水を飲み干す。

漂流中、真水が無い(少ない)場合、海水をちょっとずつ飲んだほうが良い(その検証のため、自ら漂流してみせる。眼球は水の塊だとか、いざという場合、生の魚は飲料水の代わりにもなる、ある種のプランクトンは、壊血病予防に効果がある、などなど)

「孤児院の子供たちや死刑囚は、人体実験に参加し、『社会貢献』することが当然」だと考えられていた時代もあった。

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← レスリー・デンディ/メル・ボーリング著の『自分の体で実験したい―命がけの科学者列伝』(梶山 あゆみ訳、紀伊國屋書店)

[閑話休題…でもないが]

 良い子の皆さんは、絶対にこれらの真似をしないでください…って、絶対、真似できない。
 でも、マッドサイエンティストたちは、やっちゃったし、やっているのだろうし、やっていくのだろう。
 自分に科学者になる能力があっても、絶対になれないと、本書を読んでつくづく思わされたものである!

 科学や技術の世界は、一般人は、奥義など知る由もなく、せいぜい、その成果や結果の一端を知ったり、触れたりするだけである。テキストには、結果が羅列されているだけ。
 でも、そうした成果を得るには、文字通り、血の滲む…どころか、血肉も骨身をも削った挙句なのだと知ることは、大いに意義があると思う。

 真似はともかく、本書を読むことは強烈な刺激となる。
 あなたは、本書を読んで、それでも、科学者(技術者、医者)になりますか?

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