ファーブルに再会する
「ちくま文学の森文庫」シリーズの本を8冊ほど読んできた。
今、手にし始めたのは、手持ちの本の最後の一冊。
どうも、テーマである「心洗われる話」ってのが苦手で、とうとう最後になってしまった。
← 「ホタルブクロ」 (「ホタルブクロのこと」参照。
冒頭近くの、芥川の『蜜柑』など、たとえば、太宰の数多くの作品の中の『走れメロス』のような位置付けとなるような作品。
病的に繊細であり知性の塊のような芥川がふと市井の好日的な「心温まる」光景を目にし、比較的凝らずにふっと描いたような作品。
有島武郎の「碁石を呑んだ八っちゃん」も佳作だが、今は触れない(ちなみに、小生は有島武郎の『或る女』は大好きな小説である)。
次に読んだ、ルグロ作の「ファーブルとデュルイ」は、(自分には)意外性があって面白かった。
意外性というより、懐かしさの念のほうが強いか。
ガキの頃、野口英世やニュートン、アインシュタイン、シュバイツァー、エジソンらの伝記本の類は、必読書のようなもので、必ずしも本好きなガキではなかった小生も、読み漁った記憶がある。
ファーブルの「昆虫記」も。但し、抄訳で少々読み齧っただけだった。
ファーブルに影響されたわけではないが、昆虫採集の真似事もやったものだ。
そういった藪のような場所が昔は随所にあったし。
そのファーブルに、思いがけない形で再会することになったわけである。
「ファーブルの家計は常に火の車でした。喫茶店を経営しても、何をしてもことごとく失敗し、引っ越すことも度々あったようです。そんな中、ついに一家離散する以外に方法がなくなってしまいました。こうして、ファーブルは14歳で一人暮らしをすることになりました。当然、極貧生活でした。毎日食べることがやっとの生活で、大好きな勉強からもしばらく離れてい」たという(「ファーブルの人生 寺田」参照)。
その後、猛勉強し、生来の優秀さもあり、学者への道へ。
やがて、教授にも、という可能性も探ったが、当時は貧乏人には到底、叶わない夢。
そこに、文部大臣のビクトル・デュルイという人物との出会いという幸運が迷い込む(というより、彼が呼び込んだ、というべきか):
デュルイは、ファーブルの論文を読んでいたし、とても好意的に見ていました。この人物が後の彼の人生に大きな役割を果たすことになります。もちろん文部大臣ともなればお付きの人がいますが、その人たちをまいてファーブルに会いにいくほどですから、余程何かファーブルに対して何か支援をしたいと思っていたのでしょう。
半年後、パリにいるデュルイから手紙がきます。ファーブルはパリに着いてから知らされたのですが、レジオン・ドヌール勲章がファーブルに授与されたのです。
「ファーブルというのは教育者であり、また『昆虫記』の文章から見られるように柔和な人格であったと思うのですが、反面、人前に出たがらない目立つのを好まない性格だったようです。内気だったというとなんだかニュアンスが違うような気がするのですが、あまり自分を宣伝するのを好まなかったのかもしれません。しかし、ファーブルのしっかりした科学者・教育者としての才能を高く評価していたのがデュルイです。デュルイは役人で何かにつけファーブルを高く評価して支援しようとします」(「伝記マニア ファーブル 」より)。
「伝記マニア ファーブル 」などには、ファーブルとJ.S.ミルとの関係、ちょっといい(良過ぎる)話も載っている。
← 『ちくま文学の森 〈2〉 心洗われる話』(安野 光雅/森 毅/井上 ひさし/池内 紀【編】 ちくま文庫 筑摩書房) 目次:少年の日(佐藤春夫)蜜柑(芥川龍之介)碁石を呑んだ八っちゃん(有島武郎)ファーブルとデュルイ(ルグロ)最後の一葉(O.ヘンリー)芝浜(桂三木助)貧の意地(太宰治)聖水授与者(モーパッサン)聖母の曲芸師(A.フランス)盲目のジェロニモとその兄(シュニッツラー)獅子の皮(モーム)闇の絵巻(梶井基次郎)三つ星の頃(野尻抱影)島守(中勘助)母を恋うる記(谷崎潤一郎)二十六夜(宮沢賢治)洟をたらした神(吉野せい)たけくらべ(樋口一葉)瞼の母(長谷川伸)土佐源氏(宮本常一)
参照サイト:
「ファーブルの人生 寺田」(「北海道大学高等教育推進機構 高等教育研究部 高等教育開発研究部門」参照)
「ジャン・アンリ・ファーブル - Wikipedia」
「伝記マニア ファーブル 」
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コメント
このジャンルはあまり読まなかった気がします。
忘れてしまったのかも。
虫も好きじゃないし(笑)
支援者がいたとは幸福ですね。
才能があっても、運に恵まれず、世に出なかった人たちも多いと思います。
運も実力のうちとはこれいかに。
投稿: 砂希 | 2013/06/21 21:48
砂希さん
女性は、昆虫好きな方、少ないかもね。
吾輩は、昆虫採集に熱中したほうじゃないけど、それでも採集網やら虫篭など持って、林を回りました。
でも、虫ピンが嫌だったし、無残な気がして、段々、敬遠していったっけ。
ファーブルは、才能もあったし、成果もあったけど、実に控えめだったよう。
といっても、J.S.ミルには、援助を依頼したらしいけど。
彼の他に秀でた能力は、文筆の才。
ファーブル昆虫記は、その賜物ですね。
投稿: やいっち | 2013/06/21 22:33