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2013/06/14

忘れ得ぬ薔薇の香り

 薔薇は外見だけではなく、香りあっての薔薇であろう。人によって好き好きがあるのだろうが、バスローブなどに薔薇の香などがほんのり含ませてあったりしたら、漂い来る香りだけで悩殺されてしまう。質のいい香水だと(めったにないけれど)、擦れ違った女性の余韻がずっと尾を引いてしまうこともあったりして。
 それどころか、真に上質の香水だと、十年、二十年の歳月を経ても忘れられなかったりする。

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← 日照りのような天気だというのに、紫陽花が咲き始めて…。せめて、水遣りだけは欠かさずに。

 人間とは比較にならないほど嗅覚の鋭い犬は、この世を一体、どういうふうに見ている(感じている、嗅ぎ取っている)のだろう。
 犬の記憶力がいいのかどうか、分からない。あるいは劣るのかもしれない。が、少なくとも匂いについては、一度嗅いだ匂いのことはずっと忘れないのではなかろうか。会った人、犬、猫、食べ物などはクンクン嗅いで、嗅覚の中枢にしっかり収められるのではなかろうか。

 数分子の匂い成分でも残っていたら、嗅ぎ分けることができる。単なる視覚だけだと、人間にはあるいは敵わないのかもしれないが、嗅覚という能力で見られた世界の広がりという点では、人間は犬から見たら全くの鈍感野郎に過ぎないのだろう。視覚的には視角となる角を曲がった先の人や動物、一昨日、この道を通り過ぎた猫、何処かの家に勝手に入り込んだ奴の匂いの痕跡。

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→ 夾竹桃が開花。一昨日は、気が付かなかったが、急に咲いたのか。

 誰かが浮気でもしようものなら、ああ、この人、あの人と出来てる! なんて一発で分かる。町中の人の愛憎相関図など、犬は全てお見通し(嗅ぎ通し)で、肌の触れ合いの相関図をお犬様の意見を参考に描くと、複雑すぎて解きほぐしえないほどになるのかもしれない。

 何かの本で読んだのか、それとも、小生が勝手に妄想を逞しくしただけかもしれないが、たとえば、ちょいと離れた家の気になる相手が発情期になっている(人間なら恋したい気分になっていると表現すべきか)ことも、家の外を通り掛かるだけで分かってしまう。
 何しろ、多分、何かのフェロモンが思わず知らずに体から発散してしまうのだろうから。

 人なら目の煌き、ちょっとした表情などで相手の気持ちを読み取る……が、演技もありえるし、敢えて真情を包み隠す場合もあるから、誤解も生じやすい。
 が、体から発するフェロモンは消しようがない。通り過ぎる相手が自分に好意を持っているか、その気になっているかどうかが、あからさまに分かってしまう、ばれてしまう…。
 ことほどさように、薔薇(の香り)は魅惑的であり危険でもあるということか。

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← 「ホタルブクロ」も、思いがけず、開花していた。咲かないかなーと、日々、気にしていたが、木曜日、庭を見て回っていたら、おお! と、嬉しい驚き。

 薔薇の匂いの成分は数百種類に及ぶという。化学分析能力の進んだ今日だから、相当程度に解析は進んでいるのだろう、が、分かっている成分で合成しても、バラの香りの再現には程遠いらしい。
 だからこそ、香りを嗅ぎ分ける専門家がいるのだろうし、その能力で香水でも、俗悪で下卑たものから気品とほどよい色香の漂うものまで、千差万別となるのだろう。

 感覚というのは、季節によって随分と働きが違うようだ。同時に、春からは植物がドンドン生長し、樹液が満ち溢れ、動物も体臭を放ち、人間だって汗も掻けば、街の風物の何もかもが臭いを放つから、ほんのりと漂うような品のいい、あるいは大人しい臭いは掻き消されてしまう。
 が、冬となると、体臭は出にくくなるし、樹木も裸木となり、常緑樹は樹液を発散する営みを控え、生ゴミでさえ腐臭を発することがなくなる。

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→ ホタルブクロの「学名の Campanula は「小さな鐘」の意味で、花の形からきてい」るとか。誰しも連想が働くだろうが、宮沢賢治の小説『銀河鉄道の夜』に登場する人物名の「カンパネラ」はイタリア語で小さな「鐘」を意味する。

 嗅覚に限らず人間の感覚器官だって、心と同様、閉じ篭りがちになる。心の目を閉じて、内向きになる。
 が、逆にそうだからこそ、一旦、鼻を突いた臭いは印象的となり、心を惑わすのだろう。

*「乱歩は蜃気楼を見ていない?」にて、久しぶりに匂いの話題が出てきた。
 せっかくなので(?)、旧稿である「冬薔薇(ふゆさうび)」(2005/01/14)から、薔薇絡みのくだりを一部抜粋してみた。)

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